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【推理〔文芸〕21位】霧都ヴァル・ロンドリア探偵事件簿ー怪物に戸籍のある街で  作者: 虫松
なき猫

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第4話 空から聞こえる猫

霧都の夜。


街灯の光が霧に滲み、路地はぼんやりと

白く沈んでいた。


星霧探偵事務所の三人は、

石畳の細い路地を歩いている。


少女リリアは今夜は連れてきていない。

危険を避けるためだ。


オズワルドがコートの襟を立てた。


「いやあ……」


「夜の霧都って、やっぱり雰囲気

ありますね」


ミレイアは静かに歩いている。


彼女の感応体質は、夜になるとさらに

敏感になる。


街の感情が霧のように流れ込む。


不安。

疲労。

酒場の笑い。

どこか遠くの恐怖。


そのときだった。


「にゃあ……」


三人が止まる。


猫の声。

だが。

姿がない。


オズワルドが周囲を見回す。


「猫はどこ?」


霧の路地。

ゴミ箱。

古い扉。

崩れた壁。


どこにも猫はいない。


そしてもう一度。


「にゃあ……」


オズワルドが目を丸くする。


「……え?」


彼はゆっくり空を見上げた。


霧の空。

屋根の上。

煙突。


だが

猫の姿はない。


オズワルドがつぶやく。


「浮いてる猫……?」


ミレイアが目を閉じる。


「……変です」

「生きている猫の感情がない」


アレクシスが静かに言った。


「当然だ」


彼は一歩前に出る。


「それは」

「猫ではない」


オズワルド


「え?」


アレクシスは耳を澄ませる。


霧の中で響く音。


「にゃあ……」


彼は目を細めた。


「音は」

「真上からではない」


オズワルド


「え?」


アレクシス


「霧都の石造りの街は」

「音を反射する」


彼は路地の壁を軽く叩いた。


コツン。


音が反響する。


「霧」

「石壁」

「狭い路地」


彼は歩き出す。


「音は跳ねる」

「曲がる」

「そして」


もう一度鳴き声。


「にゃあ……」


アレクシスは歩みを止めない。


迷いがない。

角を曲がる。

次の路地へ。


さらにもう一つ曲がる。


オズワルドが慌ててついていく。


「ちょ、ちょっと師匠!」


「どこ行くんです!?」


アレクシス


「声を追う」


「猫ではない」


彼は静かに言った。


「声の元を計算している」


ミレイアが目を開く。


「……なるほど」


音の反射。

霧。

路地の角度。

建物の高さ。


それらを頭の中で組み立てている。


まるで

チェス盤上の駒のように。

さらに進む。


街灯が増える。

石畳が広くなる。


やがて三人は

ある建物の前に立った。


高い塔。

黒い石壁。

大きな門。


オズワルドが見上げる。


「ここって……」


門の上の銘板。

そこには書かれている。


【】魔導大学研究棟【】


その瞬間。


「にゃあ……」


猫の声がまた響く。

今度ははっきり分かった。


建物の中からだ。

オズワルドが呟く。


「研究棟から……猫?」


ミレイアの顔が少し曇る。


「……嫌な感情があります」


「ここ」


「何かを隠しています」


アレクシスは建物を見上げた。


霧の夜。

研究塔の窓に

わずかな灯り。


そして彼は静かに言った。


「黒猫」

「消失」

「空から聞こえる声」


少しだけ笑う。


「面白い」

「舞台は整った」


オズワルド


「舞台?」


アレクシスは研究棟の扉へ歩き出した。


「これは」

「単なる猫探しではない」


彼の瞳が鋭く光る。


「誰かが実験している」


霧都の夜。


魔導大学研究棟の奥で

黒猫を巡る奇妙な計画が

動き始めていた。

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