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霧都ヴァル・ロンドリア探偵事件簿ー怪物に戸籍のある街で  作者: 虫松
なき猫

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第3話 黒猫の消失

霧都の昼。


港の潮の匂いと、街の霧が混ざり合っていた。


星霧探偵事務所を出てから、オズワルドは

街中を歩き回っていた。


彼の聞き込みは普通の探偵とは違う。

まず笑う。


すぐに相手の名前を覚える。


そして相手の話を楽しそうに聞く。


気がつくと、誰もが話している。


魚市場では、魚人が網を直しながら言う。


「猫?ああ、見ないな」


横で人魚がうなずく。


「最近黒猫がいないのよ」


さらに奥では、腕を組んだタコおやじが唸る。


「港でも聞いたぜ」


「黒猫が何匹も消えてるってな。」


オズワルドは次の通りへ向かった。


路地では魔女が薬草を並べている。


「黒猫は魔力を感じやすいからね」


魔人が低い声で言う。


「だから飼う者も多い」


市場を抜けると、人狼警備隊の詰所。

人狼が腕を組む。


「黒猫?」


猫人が耳を動かす。


「確かに最近見ない」


犬人が記録帳をめくる。


「通報も何件か来てる」


港の奥では巨大なゴーレムが荷を運んでいた。

石の顔がゆっくり動く。


「ネコ……」


重い声。


「最近……見ナイト」


霧都の住宅街の外れ。


古い石畳の路地の前で、少女リリアが立ち止まった。


「……ここです」


小さな声だった。


アレクシス、ミレイア、オズワルドの

三人がその後ろに立つ。


霧がゆっくりと流れていた。


石の壁。

古い街灯。

狭い路地。


リリアが指さす。


「モルガナは、ここで遊ぶのが好きで」


「毎朝ここに来てたんです」


オズワルドはしゃがみ込み、地面を見る。


「静かな場所ですね」

「猫は好きそうだ」


リリアは頷いた。


「でも三日前」


「ここに来たら」


「モルガナがいなかったんです」


ミレイアがゆっくり目を閉じる。

風。

霧。

遠くの街の感情。


港の喧騒。

市場の笑い声。

人狼の警戒。


その中に小さな不安。


リリアの胸から流れ込んでくる。


ミレイアは静かに言った。


「ここで」


「強い恐怖は起きていません」


オズワルドが顔を上げる。


「襲われたわけじゃない?」


ミレイア


「ええ」


「驚きや恐怖の感情は残っていない」


アレクシスは何も言わない。


彼は路地の壁を見ていた。


次に地面。

次に屋根。

そして街灯。


ゆっくり歩く。


オズワルドが小声で言う。


「師匠、何かわかりました?」


アレクシスは答えない。


石畳の一角で立ち止まる。


しゃがむ。


指先で地面をなぞる。


そして言った。


「オズワルド」


「ここを見ろ」


オズワルドが近づく。


「……?」


最初は分からなかった。


だが目を凝らすと、

石の隙間に

細い白い粉。


オズワルドがつぶやく。


「粉……?」


アレクシス


「石灰だ」


ミレイアが少し驚く。


「石灰?」


アレクシスは立ち上がる。


視線は屋根へ向いた。


「そして」

「屋根の上を見ろ」


三人が上を見る。

瓦の上。

霧に濡れた屋根。


そこに


うっすら残る。


小さな足跡。


猫の足跡。


だが


屋根の中央で

突然消えている。


オズワルドが目を丸くする。


「え?」


「消えてる……?」


リリアの顔が青くなる。


「やっぱり……」

「モルガナは……」


震える声。


「霊に連れていかれたんですか……?」


アレクシスは首を振る。


「違う」


静かな断言。


「霊ではない」


彼は再び石畳を見る。


石灰。

猫の足跡。

そして屋根の位置。


ゆっくり言った。


「猫は」

「ここから」

「運ばれている」


オズワルド


「え?」


ミレイア


「運ばれている?」


アレクシス


「黒猫だけを」

「静かに」

「恐怖を与えず」

「姿を消す方法がある」


オズワルドは目を輝かせた。


「トリックですか!?」


アレクシスは空を見上げた。


霧の上。

屋根の高さ。

建物の配置。


そして石灰。


彼は小さくつぶやく。


「なるほど」

「これは」


ゆっくり振り返る。


「かなり凝った手品だ」


その時だった。


遠くの路地から

聞こえる。


「にゃあ」


猫の声。


しかし

姿はどこにもない。


リリアが震える。


「黒猫……モルガナ」


オズワルドは周囲を見る。


「どこだ!?」


ミレイアの目が揺れる。


彼女の感応体質が

何かを感じ取った。


「……変です」

「この鳴き声」

「生きている猫の感情が」

「感じられない」


静寂。


霧の中で猫の声だけが

響いていた。


そしてアレクシスは

静かに言った。


「面白い」

「これは」

「人が作った猫の声だ」


霧都の猫の失踪事件。


その裏にいるもう一人の頭脳。


この時

まだ誰も知らない。

それが


後にアレクシスの生涯の宿敵となる

ドクター・ハロルド

であることを。

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