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霧都ヴァル・ロンドリア探偵事件簿ー怪物に戸籍のある街で  作者: 虫松
私刑執行人

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7/40

第6話 最終推理と事件の解決

星霧探偵社にて

容疑者全員が集められた。


吸血鬼エドガー。

悪魔契約士ルキウス。

マーガレット。

ガルム警部補。

そして半精霊セラフィナ。


窓の外には霧。

室内には沈黙。


アレクシス・グレイヴンはゆっくりと立ち上がった。


「事件は単純だ。だが“単純に見せるための工作”が複雑だった」


灰色の瞳が一人ずつを射抜く。


第一段階、死因


「リチャード・ヘイルの死因は杭ではない」


どよめき。


「月影草抽出液による毒殺。 摂取は午後九時十五分前後。

 死亡は九時四十五分頃」


彼は懐中時計を掲げる。


「十時七分は“死後”。時計は死体に加えられた衝撃で止まった」


第二段階、密室


「書斎は内側から施錠。 だが鍵を持つ者がもう一人いた」


視線が向く。


セラフィナ。


「半精霊であるあなたは、 結界の再構築が可能だ」


彼女の指が震える。


第三段階、杭の意味


「杭は吸血鬼を疑わせるため。

 窓際の灰色繊維は悪魔契約士へ。

 脅迫状は思想犯へ」


「犯人は、 “誰でも犯人になり得る構図”を作った」


アレクシスの声は静かだが、断定的。


「それは“怪物差別の縮図”だ」


第四段階、動機


沈黙。


「あなたは敬愛していた。だが裏切られた」


ミレイアの胸に、はっきりと流れ込む。


悲しみ。

理想の崩壊。

そして絶望。


アレクシスが続ける。


「ヘイルは思想を変えた。

 怪物の危険性を立証する論文を書き始めた」


セラフィナの涙が落ちる。


「先生は……脅されていた。

 理念を曲げれば命は助かると」


室内が凍る。


「私は守ろうとした……!」


「毒は致死量ではなかった」


アレクシスが即座に言う。


「あなたは“軽い衰弱”を装わせ、論文を止めさせるつもりだった」


だが。


「毒量の計算を誤った」


月影草は体質によって作用が強まってしまう。


ヘイルは過去の投薬で感受性が高まっていた。


「あなたは慌てた。そして計画外の死を“他殺”に偽装した」


杭を刺し、時計を落とし、密室を再構築。


吸血鬼に疑いを向ければ、

世論は納得する。


「怪物が犯人なら、世界は単純でいられる」


アレクシスは静かに言った。


「だがあなたの誤算は、もう一つある」


セラフィナが顔を上げる。


「あなたは彼を愛していた。殺意はなかった」


ミレイアが一歩前に出る。


「本当です……。

 あなたの中に、憎しみはありません」


セラフィナは崩れ落ちる。


「私は……守りたかっただけ……」


ガルム警部補が静かに歩み寄る。


拘束具が鳴る。


エドガーは深く頭を下げた。


「……ありがとう」


ルキウスは微笑を消し、黙礼する。


霧都の空気が、わずかに軽くなる。


事件の結論


・死因は毒殺(未必の故意)

・杭は死後の偽装

・密室は再構築

・動機は理想の崩壊と誤算


怪物は犯人ではなかった。


だが。

偏見は、確かにこの街に存在する。




夜。


星霧探偵社。


ミレイアが小さく呟く。


「先生……私は役に立てましたか」


アレクシスは窓の外の霧を見る。


「君の力は“怪物の本音”を聞く」


「だが今日救ったのは、怪物ではない」


彼は振り向く。


「人間だ」


静かな微笑。


「採用だ、ミレイア・ルーンベル」


星霧探偵事件簿

『私刑執行人』事件の終幕。


霧の向こうで鐘が鳴る。


この街では、

真実だけが怪物よりも強い。


次なる事件は、

“人魚の連続失踪”か。

それとも“人狼議員暗殺未遂”か。


霧都の夜は、まだ終わらない。


続く

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