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【推理〔文芸〕21位】霧都ヴァル・ロンドリア探偵事件簿ー怪物に戸籍のある街で  作者: 虫松
地の血判

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第2話 村の掟

翌朝、ブラッドフォージ村を震撼させる報せが駆け巡った。

大地主アルドリック邸が、一夜にして炎と灰に包まれたのである。


焦げた木の匂いが村の石畳を満たし、立ち上る煙は霧と混ざり合って、

異様な朝を告げていた。


アルドリック・グレイヴァー(68)は自宅の奥の寝室で倒れていた。

火傷の痕はほとんどなく、診断は一酸化炭素中毒による窒息死。


村人たちは現場に集まり、震え声でささやき合う。


「やっぱり呪いだ…」

「血判に逆らった報いじゃ…」

「火事なんか偶然なはずがない…」


アレクシス・グレイヴンと秘書ミレイア・ルーベンも、

煙の立ち込める焼け跡に駆けつけた。


アククシスが慎重に足元を見ながら歩く。

「これは…単なる火事じゃない。油の痕跡がある。燃え方が尋常じゃない。」


その横で、ミレイアが焦げた紙片を拾い上げた。

「アククシスさん…これを見てください。」


紙はほとんど炭化しており、読める部分はごくわずか。だが、その中で赤黒く滲んだ文字が、まるで炎すら拒んだかのように鮮明に浮かび上がっていた。


『ダミアン・グレイヴァー』


アレクシスは低く息を吐いた。

「血判状だ…。」


周囲の村人たちは一斉に顔色を変える。


「出たのか…血判が…」

「やはり呪いは本当だったのか」

「もう村は終わりだ…」


恐怖に駆られたざわめきが、灰の中で震えるように広がる。


ひとりの老婆が、かすれ声で呟いた。

「……それを口にしてはならん」


別の男が慌てて老婆の肩を押さえる。

「やめろ、余計なことを言うな!」


村人たちは怯えたように視線を逸らす。まるで、名前を口にするだけで死が訪れるかのようだった。


エドワード・ヘイル村長が険しい表情で前に出る。


「皆の者、落ち着け。」


声は低く、しかし会場に響き渡った。人々は思わず背筋を伸ばす。


「アルドリック・グレイヴァーの死は…偶然ではない。だが、今は憶測を口にするな。村の掟に背くことは、さらなる災厄を呼ぶ。」


老婆が震える手を前に差し出す。


「でも…村長、やはり呪いじゃ…血判に逆らった罰…」


エドワード村長は鋭く老婆を見つめる。


「黙れ。口にするな。血判のことは、村の歴史に深く刻まれた掟だ。軽々しく言葉にするものではない。」


若い男が声を震わせた。


「でも、どうしてこんなことが…契約書はもう…」


「契約書の有無ではない。」


エドワード村長はゆっくりと歩み寄り、焼け跡の中を指差す。


「見よ、この炭化した紙片を。そこにあるのは、血と掟の象徴だ。だが…誰が裁きを下したかは…言うまでもない。」


人々の顔色がさらに青ざめ、ざわめきは止まった。


「村に生まれ、村の掟を知る者は理解しているはずだ。掟に逆らう者には、古より…報いが訪れる。」


ミレイアが低く息を吐き、アレクシスの肩に手を置いた。


「村長…これは…いったい…」


エドワード村長は深くうなずき、鋭い目で二人を見つめる。


「今は、真実を追うのは慎重にな。外部者が深入りすれば、さらなる悲劇を招く。」


彼の声には揺るぎない重みがあった。


「灰の中の血判状、赤黒く滲む署名…これを口にする者は、己の身を危うくするだけだ。」


周囲の村人たちは顔を伏せ、ささやき声も途絶えた。


「…ああ、村長の言う通りだ…」

「何も知らぬ振りをしていよう…」


ミレイアは握った紙片を見つめ、灰の匂いと煙の残る空気を胸に吸い込む。

アレクシスは低くつぶやいた。


「…この村には、想像を絶する何かが潜んでいる…」


エドワード村長の目が鋭く光った。


「探偵殿。この村には、この村の秩序がある。外の理屈で測らぬことだ。」


その言葉には、単なる忠告以上の重みがあった。


まるで

村そのものが、何かを守ろうとしているかのように。


霧の向こうで、何かが動いたような気がした。

だが、振り返ったときには、ただ揺れる古樹の影しかなかった。


こうして、血判の名を巡る沈黙と恐怖は、より濃く村を覆っていった。


そしてアレクシスは確信する。

この村には、単なる殺人事件以上の“仕組み”がある。


だがそれが何であるのかまだ誰も、知らない。

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