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【推理〔文芸〕21位】霧都ヴァル・ロンドリア探偵事件簿ー怪物に戸籍のある街で  作者: 虫松
裸の王様

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第9話 事件の報告と終幕

薄曇りの午後。


重厚な屋敷の応接室。


妻のエレノア・アシュクロフトは、背筋を伸ばしたまま座っていた。

指先だけが、わずかに震えている。


向かいにはガルム警部補。

その隣にアレクシスとミレイア。


沈黙ののち、アレクシスが口を開く。


「結論から申し上げます。ご主人の死は事故ではありません」


エレノアは目を閉じる。


「犯人はドミニク・ショウ。

動機は、ヴィクトリア・ヘイルへの暴行と妊娠問題でした」


わずかな息遣い。


「彼はヴィクトリアを守ろうとした。

その結果、あなたのご主人を屋上へ誘導しました」


「誘導……?」


かすれた声。


「偽の手紙です。支配人名義で屋上に呼び出した」


アレクシスは続ける。


「屋上には、隣のビルに渡れるように見える巨大なだまし絵が設置されていました。

実際には壁であり、その先は空間です」


エレノアの視線が揺れる。


「拳銃で威嚇し、逃げ場を失ったご主人は走った」


「……そして落ちたのですね」


「はい」


「だまし絵の裂け目から、ご主人の毛髪が検出されました。

手をかけ、足を踏み出した証拠です」


沈黙が落ちる。


エレノアはゆっくりと言った。


「彼は……最後まで、逃げたのですね」


アレクシスは否定しない。


「責任と向き合う前に、逃走を選んだ」


涙が一筋、静かに頬を伝う。


「スターでしたから」


エレノアは自嘲気味に微笑む。


「舞台の上では、常に勝者。現実でも同じだと思っていたのでしょう」


アレクシスは立ち上がる。


「これが、我々の調査結果です」


ガルム警部補が静かに一礼する。


三人は屋敷を後にする。




■■■


ガルム警部補と別れた帰りの馬車内。


夕暮れの光が流れていく。


しばらく沈黙が続いたあと、ミレイアが口を開く。


「ドミニクさんはレオナルドさんが隣のビルに逃げると、

どうして思ったのでしょうか?」


アレクシスは窓の外を見たまま答える。


「彼は俳優で映画スターだ」


一拍。


「常にスポットライトの中心にいた男だ」


低い声。


「舞台では、どんな危機も演出で乗り越える。失敗や落ちることなどない

映画スターで栄光の世界で生きてきた」


ミレイアが静かに聞く。


「だから、あの絵を信じた?」


「信じたというより、疑わなかった」


アレクシスは続ける。


「自分には常に“次の舞台”が用意されていると、無意識に思っていたのだろう」


夕陽が馬車内を赤く染める。


「だが現実には、演出家はいない」


ミレイアは小さくうなずく。


「彼は最後まで、舞台の上にいるつもりだったのですね」


「そうだ、だが幕は突然下りる」


馬車が角を曲がる。


「逃げ道に見えたものは、ただの絵だった。そこに隣のビルの屋上はなかった。」


長い沈黙。


やがてミレイアが言う。


「……悲しい事件でしたね」


アレクシスは目を閉じる。


「正義が勝ったとは言い難い」


低く、淡々と。


「事件の当事者は誰も救われなかった」


夕陽が沈む。


そして夜が来る。

『裸の王様』事件は終わった。



続く

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