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霧都ヴァル・ロンドリア探偵事件簿ー怪物に戸籍のある街で  作者: 虫松
裸の王様

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第8話 正義は、いつも美しいとは限らない。


劇場の大広間。


ガルム警部補が前へ出る。


「ドミニク・ショウ。殺人幇助および計画的過失致死の容疑で逮捕する」


手錠の金属音が響く。


ヴィクトリアが涙を流す。

アレクは崩れ落ちる。

監督は目を閉じる。


手錠をかけられたドミニク・ショウの両手が、わずかに震えている。


誰もすぐには言葉を発せなかった。


最初に口を開いたのは、若手俳優のオリバー・グラントだった。


「……あんた、本気だったのか」


怒りとも、困惑ともつかない声。


「脅すだけじゃなかったのかよ」


ドミニクは視線を落としたまま答える。


「脅すつもりだった」


「なら、どうして……!」


「レオナルドは、追い詰められれば逃げる男だった。それも知っていた。」


ヴィクトリアが震える声で、言う。


「やめて……」


全員が彼女を見る。


「私のために、誰も壊れないで」


涙が頬を伝う。


「私は復讐なんて望んでいなかった」


ドミニクが顔を上げる。


「望んでいなくても、俺は許せなかった」


「でも……命まで奪うなんて」


「奪うつもりじゃなかった!」


声が初めて荒れる。


「俺は……あいつに責任を取らせたかっただけだ」


ヴィクトリアは静かに首を振る。


「責任は、死ぬことじゃない」


その言葉が、重く落ちる。


チャールズ監督がゆっくり前へ出る。


「……私にも責任がある」


全員が驚く。


「私は長年、レオナルドの問題を見て見ぬふりをしてきた」


低い声。


「役者として才能があった。興行収入を支えていた。だから守った」


苦い沈黙。


「今回も、ヴィクトリアのことを知りながら止めなかった」


ドミニクが顔を向ける。


「俺はドミニクを止められた」


「止めるべきだった」


監督は目を閉じる。


「だが私は、何も選ばなかった」


アレク・サンドルス


壁際で崩れそうになっていたアレクが、かすれた声を出す。


「俺は……ただ絵を描いただけだ」


誰も反応しない。


「遠近法なんて、舞台じゃよく使う手法だ」


アレクシスの視線が向く。


「だが今回は、用途が違った」


アレクは涙ぐむ。


「頼まれたんだ。“レオナルドを怖がらせるだけだ”って」


ドミニクが低く言う。


「俺が頼んだ」


「断れなかった……」


アレクの声は崩れる。


「彼女のことを思うと……俺も腹が立ってた」


ガルム警部補に腕を掴まれながら、ドミニクが言う。


「俺は守りたかっただけだ」


静寂。


「でも、守る方法を間違えた」


ヴィクトリアの目から涙があふれる。


「あなたが壊れてしまったら、意味がない」


ドミニクは微かに笑う。


「……それでも、あいつを野放しにはできなかった」


オリバーの拳が震える。


「俺だってレオナルドを憎んでた

何度も殴られた。侮辱された。でも……殺してほしいとは思わなかった」


「俺たちは被害者だったかもしれない。でも加害者になる必要はなかったんだ」


沈黙。


ガルム警部補が静かに告げる。


「連行する」


足音が響く。


ドミニクが最後にヴィクトリアを見る。


「……すまない」


ヴィクトリアは小さく首を振る。


「生きて償って」


ドミニクは頷き、連れていかれる。


重い扉が閉まる。


残された者たちは、誰もすぐには動けなかった。


アレクシスが静かに言う。


「正義は、いつも美しいとは限らない。」


ミレイアの瞳が揺れる。

舞台は終わった。

だが、それぞれの人生は、これからも続いていく。

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