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霧都ヴァル・ロンドリア探偵事件簿ー怪物に戸籍のある街で  作者: 虫松
破滅のコイン

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第8話 破滅のコインの正体

煙の残る大広間。

崩れた梁の隙間から、朝の光が差し込む。


手錠の金属音が、やけに鮮明に響いた。


ガルム警部補がドーランの両手を取る。


「ドーラン。連続殺人および爆発物使用で逮捕する」


カチリ、と音がして拘束が完了する。


ドーランは抵抗しない。

ただ視線をラドックへ向ける。

怒りでも、勝利でもない。


深い疲労。


その横で、警官がラドックにも手錠をかける。


「バルトロメオ・ラドック。銀行強盗の共犯容疑で逮捕する」


ラドックの膝が崩れる。


十年守り抜いた沈黙が、崩れ落ちる音。


彼はうわごとのように呟いた。


「……破滅のコインは巡っただけです」


誰に向けた言葉でもない。

自分自身への言い訳のように。


証拠袋に収められた黒銀のコインが、朝日を受けて鈍く光る。



連行される二人。


足音が遠ざかる。


屋敷に、ようやく静寂が戻る。


崩れた天井。

散乱したガラス。

焦げ跡。


三人の死。


十年前の強盗。

裏切り。

復讐。


大広間に残るのは

アレクシスとミレイア。


ミレイアが小さく息を吐く。


「終わった……んですね」


「終わったのは“不幸の連鎖”だ」


「だが始まりは十年前だ」


ミレイアが問いかける。


「破滅のコインが友情の破滅をもたらしたんでしょうか……」


「それとも、恨みや怨念が破滅のコインになったんでしょうか?」


静かな問い。


アレクシスはわずかに微笑する。


「どちらでもない」


「黒銀コインはただの金属だ」


「人がそこに意味を刻んだ」


友情の証。

成功の証。

沈黙の証。


そして裏切りの証。


「罪を共有するための印が、やがて罪を思い出させる印になる」


ミレイアが崩れた屋敷を見回す。


「全員が不幸になりましたね……」


三人は命を失い。

一人は復讐で人生を終わらせ。

一人は罪で捕まり。


アレクシスは静かに言う。


「破滅のコインは巡っただけだ」


「持つ者の心を映して」


外ではすでに記者たちが集まり始めている。


噂は広がるだろう。


“破滅のコイン”


呪いの黒銀貨。


三日間の死の予告。


そして破滅のコインを持つものは、不幸になる。


人は物語を欲しがる。

きっとまた、語られる。

破滅のコインに悪魔が宿っていたと。


だが真実は違う。

悪魔は、人の選択の中にいた。


警察車両のエンジン音が遠ざかる。

屋敷は静まり返る。

割れた窓から差し込む光が、床に長い影を落とす。



『破滅のコイン』事件 終幕。



続く

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