第3話 怪人統計表
霧都警察本部。
重い鉄の扉の奥。
資料室。
棚には古い事件記録と帳簿が山のように並んでいる。
机の上には一冊の分厚い帳簿。
ガルム警部補が言う。
「これだ」
彼は帳簿を開いた。
タイトル。
【怪人登録台帳】
霧都では怪人の存在は公的に管理されている。
【獣人】狼人間 猫人間 犬人間 猿人 その他獣人
【翼人】天使 堕天使 鳥人 悪魔 その他翼人
【魚人】 人魚 、半魚人、タコ人 、その他魚人
【鬼人】 吸血鬼、鬼人、その他鬼人
【巨人】 魔人、ゴーレム、その他巨人
種族、住所、職業、年齢
すべて記録されている。
オズワルドが驚く。
「こんなものあるんですか」
ガルム
「怪人事件が多いからな」
「管理してる」
ミレイアがページをめくる。
「この人…」
「最初の被害者」
ページの名前。
ガルド・フェンリル
狼人間。
住所。
怪人地区。
オズワルドが別のページを見る。
「二人目」
リタ・スカイウィング
翼人。
さらに。
三人目。
半魚人。
四人目。
石化症患者。
沈黙。
ミレイアが言う。
「全部」
「この台帳に載ってる人」
アレクシスが静かに言う。
「当然です」
「怪人なのですから」
オズワルド
「いや」
「師匠それじゃなくて」
彼は帳簿を指す。
「被害者」
「同じページに載っている。」
沈黙。
ガルム
「偶然か?」
アレクシス
「いいえ」
即答だった。
「偶然ではありません」
ミレイア
「じゃあ」
「誰かが」
アレクシス
「台帳を見て」
「標的を選んでいる」
ガルムが眉をひそめる。
「警察内部の犯行か?」
アレクシスは首を振る。
「いいえ」
彼は机の上の別の書類を見る。
ガルム
「それは?」
アレクシス
「新聞記事です」
記事の見出し。
白亜党、怪人社会調査開始
オズワルド
「白亜党?」
ミレイア
「最近、移民反対や怪人の排除をとなえ」
「急激に支持者を増やしてます。」
記事を読む。
内容。
霧都の社会問題を調査。
怪人犯罪率。
医療費。
社会保障費。
統計調査。
ガルム警部補
「政治調査だな」
オズワルドが言う。
「つまり」
「怪人のデータを集めてる人物」
ミレイアの顔が曇る。
「それって…」
「まさか」
アレクシスは言う。
「そのまさかです」
沈黙。
ミレイア
「標的リスト?」
オズワルド
「いやいや」
「政治家がそんなこと」
アレクシスは静かに言う。
「政治家ではありません」
「官僚でもありません」
彼は記事の写真を見る。
そこに写っている人物。
銀の眼鏡。
整ったスーツ。
冷静な表情の女性。
記事の名前。
エリザ・クレイド
白亜党の広報責任者。
ミレイア
「この人が」
アレクシス
「怪人調査の責任者です」
ガルム
「ただの統計だろ」
アレクシス
「統計は」
一拍。
「武器になります」
オズワルド
「武器?」
アレクシス
「数字は」
「人を殺します」
部屋が静まる。
ミレイアが写真を見る。
「この人」
「怒ってない」
オズワルド
「え?」
ミレイア
「怪人が嫌いとか」
「そういう顔じゃない」
沈黙。
ミレイアが小さく言う。
「この人」
「本気で」
「正しいと思ってる」
アレクシスは写真を見つめる。
銀の眼鏡。
冷たい瞳。
彼は静かに言う。
「もし」
「怪人を社会問題だと定義したら」
オズワルド
「どうなるんです」
アレクシス
「簡単です」
「解決策が必要になる」
沈黙。
ミレイア
「解決…」
アレクシス
「政治の言葉で言えば」
一拍。
「整理です」
■■■
窓の外。霧都の霧が流れる。
その霧の向こうで。
静かな会議室。
銀の眼鏡の女性が資料を机に置く。
エリザ・クレイドは言う。
「怪人は社会コストが高い」
議員たちが黙る。
彼女は続ける。
「これは感情ではなく」
「統計です」
霧都の政治は
静かに、
そして冷酷に動き始めていた。




