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亡き前妻だけを愛する王よ、わたくしはもう、あなたを必要としない~白雪姫の継母に転生したので、鏡と義娘と生きていきます!~  作者: 赤林檎


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23.簒奪者の支配を許すな!(3)

 わたくしは中央広場の裏にある細い道に着くと、次々にやって来る伝令兵の報告を聞きながら、反乱軍の最後尾が中央広場に入るのを待った。


「弓矢を構えさせよ!」


 ついに反乱軍のほとんどが中央広場に足を踏み入れた時、わたくしは片手を上げて、騎士団長に命じた。


 中央広場を見下ろす建物の屋根には、騎士団の副団長をはじめとする弓部隊が配置されていた。


『弓兵が伏せられていた』と言った方が、『兵法を知っている感』が出て格好良いかしら?


 屋根にいる弓兵たちが、一斉に弦を引き絞る。


 銀色の矢尻が、真夏の陽の光を反射して鈍く光りながら、反乱軍に襲いかかる時を待っていた。


「――放て!」


 わたくしの声と共に、矢の雨が中央広場に降り注ぐ。


 手練れの弓兵ばかりを配置したので、矢は反乱軍の兵士たちに当たることはなく、石畳に突き刺さっているはずだ。


 悲鳴と怒号が入り交じり、中央広場は大混乱に陥った。


 反乱軍が王都に入り込んだのだ。まさか女王から『人と馬に矢を当てるな』なんていう命令が出されているとは、普通は思わないでしょうね。


 反乱軍の兵士たちは、女王の軍隊に包囲されて、殲滅されかかっていると思っちゃうわよね。


「ええい、落ち着け! 落ち着くのだ! 我が兵たちよ!」


『先王の隠し子』を名乗る若い男は、なかなか根性があるみたいね。


 反乱軍の兵士たちの混乱を静めようとしている。



 うん、彼もなかなか悪くないわね。



 わたくしは騎士団長たちに守られながら、中央広場の裏にある細い道を出た。そのまま大通りを通って、『先王の隠し子』を名乗る若い男の前に進み出る。


 男はたしかにゴールデンブロンドの髪にブルーグレーの瞳で、そこだけはルドルフに似ていた。


 この男はブランカよりだいぶ年上なので、ルドルフが王立学院時代に平民と遊んでできた子供とか、そんな感じの設定なのかしら?


「貴様がテレージアか! 偽りの女王よ! お前を討ち、この国に正統なる王家の血筋を取り戻す!」


『先王の隠し子』を名乗る男が、わたくしの姿を見つけて叫んだ。


 彼、すごいやる気だけど、絶対に『先王の隠し子』ではないわよね。


 本気で自分を『先王の隠し子』だと思っているのかしら?


 それとも、『先王の隠し子』のふりをしたら、贅沢三昧させてやるとか言われたの?


 そこだけは、いくら調べても、なぜかわからなかったのよね……。


「この俺こそが先王の血を引く、正統なるこの国の王である! 簒奪者の支配を許すな――!」


 広場でそう叫ぶ男の背後では、反乱軍がまだ大混乱に陥って、中央広場から逃げ出そうとしていた。


 馬がいななき、人の悲鳴が上がり、反乱軍の兵士同士で殴り合っている者たちまでいる。


『先王の隠し子』を名乗る男は、わたくしに向かって矢をつがえた。



 その時――、わたくしの横を一陣の黒い風が通り抜けていった。



「女王陛下への無礼は許さぬ!」


 わたくしの乗る白い馬の進路を塞ぐように、黒い馬が立っていた。


 馬上で弓矢を構えているのは、黒髪をポニーテールにしたブランカだった。


 ブランカは武芸の訓練用に仕立てた黒い騎士服を着て、わたくしの前にいた。


「女王陛下、お怪我はなさっていませんか?」


 ブランカは、わたくしに問いかけている間も、『先王の隠し子』を名乗る男から決して目を離さなかった。


「ブランカ!? え、ええ……。大丈夫よ」


 わたくしは驚きながら、ブランカの背中を見る。


 ブランカは手勢を率いて来たようで、エドモンドと王子様、七人の小人たちがブランカのまわりを固めている。



 ……手勢だよね? こういう時に率いてくる配下の軍勢って、手勢って呼ぶのよね?



 白雪姫には手勢なんてものはいなかったと思うんだけど……。


 どう見たって、彼らはブランカの手勢だわ。


 七人の小人は、小人の国からの使節団として、ブランカの立太子式を祝うためにこの国にやって来た。そして、立太子式が終わると、小人たちは一度は全員で小人の国に帰っていった。


 けれど、その後、ブランカに仕えるために、全員でこの国に移住してきたのよね……。



「王太子殿下を見た時、なぜか他人のような気がしなかったのです」


 などと、七人の小人たちは語っていた。



 ああ……、うん……、そう……よね……。


『白雪姫』の物語では、白雪姫と七人の小人は、仲良く一緒に暮らしていたものね……。


 小人たちは『白雪姫』の物語の中で、白雪姫が毒林檎を食べて仮死状態になった時、白雪姫の棺を王子様に渡すのを、だいぶ渋っていたくらいですもの……。


 ブランカに対して他人のような気がしないことも……、あるわよね……?


 うん、あるある……。



 七人の小人たちは、ドワーフらしく斧やハンマーを手にしている。っていうか、あの七人の小人ってドワーフだったんだ……。



 七人の小人たちには、この国では、各地にある鉱山の採掘の責任者を任せていたはずだったんだけど……。


 ブランカには、高位貴族に支払わせる税金の額を上げると決めた時に、こういう事態も起こりえると伝えてあった。


 きっとブランカは、わたくしの話を聞いて、すぐに七人の小人を呼び戻したのだろう。


 ブランカはまだ子供なのに、文句を言うことしかしない貴族たちよりも、ずっと有能になってきているわ……。



「おお……! なんと愛らしい方なんだ……!」


『先王の隠し子』を名乗る男が弓矢を下げた。


 男の目はブランカに釘付けになっている。



 わたくしの娘は、たしかに世界で一番かわいいけど……。



「なぜだろう……。俺には、あんたを殺すことなんてできないよ……!」


『先王の隠し子』を名乗る男は、弓矢を投げ捨てて白馬から飛び降りると、ブランカに近寄った。


「我が麗しの姫君に近付くな!」


 王子様が制止すると、男はその場で足を止めた。


「姫君……。なぜだろう……。俺はあんたを殺すことを考えると、かわいそうで胸が締め付けられるんだ……」


 ブランカが「え……?」と言いながら、小さく震えた。


 いきなりなんなのかしら、この男……。



 まあ、怖いわよね……。



 七人の小人たちも、ブランカを守るために馬を進める。


「なあ、俺もあんたの配下に加えてくれないか? なんだよ、そっちの女王様も、落ち着いて見てみたら、すごい美人じゃないか! こんな美人の母子だとは聞いていなかったよ。なあ、美しい女王様……。俺はあんたの頼みなら、殺しだって引き受けてやるよ……?」


 反乱軍の旗印が、いきなり寝返ってるんだけど……?


 しかも、『殺しでも引き受ける』って……。


 この男、以前は暗殺者でもやっていたの……?



 いいえ、違う!


 違うわ!


 暗殺者なんかじゃない!


 わたくしの頼みなら、と限定していたじゃないの!



 この男、もしかして狩人なの……!?



「捕らえなさい! その者は、王家の者ではない! 先王の子は、ブランカただ一人です!」


 なんだかおかしな展開になっているけれど、反乱軍は、わたくしを侮り、ブランカの正統性を否定する者たちよ。


 再起などできないよう、一人も逃がしてはならないわ。


 わたくしが命令を下した次の瞬間には、騎士団と軍隊からなる本隊が現れて、圧倒的な人数で反乱軍を包囲した。


 広場のまわりの建物の屋根からは、さらに反乱軍に向かって矢が放たれる。


 反乱軍の兵士たちは、斥候からの報告によると、なかなかの腕前らしいけれど、すぐに武器を捨てて膝をついた。



 やっぱり数の暴力は強いわ!



 ブランカのせいで戦意をすっかり喪失している『先王の隠し子』も、七人の小人によって取り押さえられた。


 死んだり、再起不能なほどの怪我をした者は、騎士団と軍隊にも、反乱軍の兵士たちにもいなかった。


 わたくしは、なるべく無傷で反乱軍の兵士たちを捕らえたかったのよ。


 せっかく戦える人材が集められたのですもの。


 反乱軍の兵士たちは、西の魔境伯の元に送って、根性を叩き直してもらい、魔獣との戦いに身を投じてもらうことが決まっていた。


 わたくしも、西の魔境伯も、兵士を育成する手間が省けて大助かりだわ。


 さらに、武器を量産できる鍛冶場と職人たち、砦と訓練施設まで手に入った。


 鍛冶場と職人は、ちょうど欲しいと思っていたのよね。


 七人の小人たちのおかげで、鉱山で採れる鉄鉱石の量が増えたから、武器を量産して騎士団と軍隊に配布したかったのよ。


 この国は、今は軍事面の強化が最優先だけれど、いずれは農民たちに鉄製の農具も配布したいしね。

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