20.ブランカの婚約式(上)
わたくしの即位から数か月後、わたくしはブランカの婚約式を行うことにした。
わたくしが戴冠式をした王都の大聖堂には、再び貴族や名のある大商人、各国の使節が華やかな衣装を纏って集っていた。
ブランカは純白のドレスに身を包み、人々の前に立っていた。背筋を伸ばし、挨拶に来る人々に丁寧に言葉を返す。ほほ笑みは決して絶やさない。
そんなブランカの姿は、まだ子供ながら、誰が見ても堂々たるこの国の王女だった。
ブランカの隣に立っている婚約者は、この国の筆頭公爵家の三男であるエドモンドだ。
プラチナブロンドにアイスブルーの瞳の、どこか王子様然とした男の子。
エドモンドはブランカの言葉に耳を傾け、時に小さく頷いている。
ブランカに婚約者がいれば、ルドルフがもしまた、わけのわからない結婚相手を連れて来たとしても、直ちに結婚させることはできないはずよ。
白雪姫の童話に出てきた王子様も、きっとこの世界のどこかにいると思うんだけど……。
あの王子様は、白雪姫の死体を『美しい』という理由で持ち帰るような男性なのよね……。わたくしはブランカをそんなおかしな男性と結婚させたくないわ……。
もちろん、わたくしが『白雪姫が王子様と結婚ルート』の先にある、『真っ赤に焼けた鉄の靴で拷問死エンド』が怖かったという理由もあるわよ。
だけど、わたくしは本当に、ブランカにはちゃんと幸せになれる相手と結婚してほしいと思っているのよ。
エドモンドは、わたくしがブランカと共に時間をかけて選んだ。
ブランカが好きになれて。
相手もブランカを好きになってくれて。
王家との繋がりのために仕方なく婚約するのではなくて、心からブランカを望んでくれる。
そして、平民や男爵令嬢のために婚約破棄したりしない。
そんな男の子を選べたと思う。
エドモンドの礼儀正しく落ち着いた姿は、エドモンドがブランカの婚約者に選ばれた理由を雄弁に物語っていた。
婚約式が始まる直前、わたくしは控え室にいるブランカの様子を見に行った。
ブランカは侍女たちに囲まれて、美しく着飾って立っていた。
「お母さま、どうか見守っていてくださいね」
ブランカは、人前に立つことの多い王女らしく堂々としていた。
「ええ、もちろんよ。大丈夫よ。わたくしは、あなたの一番近くで見守っているわ」
わたくしがブランカの手を握ると、ブランカは恥ずかしそうに笑った。
「ありがとうございます、お母さま。わたくしは大丈夫です。今のわたくしは、偉大なる女王陛下の娘ですから」
ブランカの瞳には、かつてのような孤独の陰はなかった。




