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Command Wand  作者: 赤茄子
第1章 Spread Spirits
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第1話 電脳生命体

「またボクの更新中にずいぶんと楽しんでいたようで」


 理巧の部屋のデスクトップパソコン、その複数のモニター内を自由に飛び回る1匹の小鳥。見た目は若干赤みがかかった雀だ。この雀の名はファイ、AIにして理巧の使い魔である。


 人工知能。POFとは少し異なる仕組みで動く、人工量子脳(アルファキューブ)を用いた完全自立型のプログラムである。そして学習の段階で"格"を得たものを特に電脳生命体:Cyli(サイライ)と呼ぶ。ファイはその電脳生命体の1体だ。


「おおよそ状況は理解した。サークルに入ったんだな」


「なんだ、聞いてたならくればよかったじゃないか」


「アップデート後の最適化中だ」


 それはそうと、ファイがトーンを落として、話題を変える。


「今朝のことなんかおかしいと思わないか」


「今朝のことって、路線が全部止まったことか?」


「それだ。原因はシステムトラブルってことになってるが、妙な話があるんだよ。SNSで複数のアカウントからダイヤにない回送列車が走ってたって投稿があるんだ」


「その投稿の信頼度は?」


「捨て垢とかじゃなく普通の鉄道ファンのものだったよ」


「そうか。まぁ気にはなるけど、今はそこまで優先するものじゃないかな。何か事件だったとしても解決すべきは警察だ。日本の警察は優秀だろ」


 そういえば確か陽斗のお父さんも警察官だったな。


「それもそうか、何かあれば依頼か、依頼がくるだろうしな」


「そゆこと。ところでファイはオカルトは信じるか?」


「オカルトなー。信じないって言いきりたいところだが、現代科学で説明のつかない事象が存在するのも事実だ。その点、超自然学サークルには興味があるな」


 それに、と一拍置いてファイは続ける。


「もしかしたら、その超自然現象にはボク以外の電脳生命体が関わってるかもしれない」


「……そうだね」


「じゃ、最適化も進めるからぁあ~、もうおやすみ」


 欠伸交じりにファイがそう言って眠りについた。AIの記憶整理に睡眠は必須だ。


「おやすみ」


      ―――――――――――――――――――――――――


 サークル部屋には5人と1匹がいた。


「じゃあ挨拶して」


「理巧の使い魔でSyliのファイだ。これからよろしく頼む」


 茶色と白を基調とした体表に黄色い(くちばし)、頬には黒い丸を付けたその雀らしい生物、ファイは理巧の合図でその小さな嘴を開き、2人の先輩に向って自己紹介をした。


「Syli!?!」「使い魔!!!」


 雨宮先輩と八代先輩がファイの自己紹介にそれぞれこう反応する。


「ファイちゃん、アップデート終わったんですね」


 肩より下まで伸びたさらっとした長い黒髪を後ろに降ろした少女ーー燐がファイのことをを微笑みながら見ている。その様子を陽斗が微笑みながら見ている。いつも通りの2人、それに比べて先輩達はまだ驚きを隠せない様子だった。


 ファイは今、画面内ではなく魔法の応用で現実世界に召喚されており、現在様々な場面で利用されている空中結像技術とは違い実際に手で触ることができる状態だ。


「サ、Syliって日本政府が国家運営を補助するために国立の研究機関に開発させた人工知能じゃなかったか? なんでそんなものを次元が持ってんだ?」


 雨宮先輩が全うな疑問を投げかける。


「持ってるという言い方は心外だな。ボクはモノじゃないんだぞ」


「それはすまん」


「まぁまぁ。父が開発に関わってて、ファイは開発途中の試験個体だったんです」


 電脳生命体の運用は西暦2099年、今から4年前に開始され、開発の成功は第二次技術的特異点セカンダリーシンギュラリティと呼ばれるほど世界に衝撃を走らせた。


「あぁーなるほどな?」


 少し気になることがありそうな雨宮先輩。そこに、はいはいー、と八代先輩が手を挙げる。


「使い魔っていうのは? 黒猫とかフクロウたいな!? いいよねそういうの!」


 自己完結型の質問だ。とはいえ、一般的な使い魔というと自我をほとんど持たず術者に絶対服従するイメージだが、ファイの場合そうではない。理巧とファイはあくまでも対等な関係だ。


「そうですね。ファイは魔法の補助に関して優れているんです」


「ボク1人でもつかえるけどな」


 八代先輩は「なるほどー」、と頷づいた。


「じゃあ、もう1つ。量子脳(りょうしのう)っていったけか。それはどこにあるんだ?」


 2つ目の雨宮先輩の質問に対し、それなら、とバッグの中を覗き込んでルービックキューブほどの大きさの立方体を取り出す。その6面は深青色(しんせいしょく)の物質に覆われ、窓から入り込んだ光を反射し輝いている。


「これがファイの脳みそ、アルファキューブです」


「脳みそって言い方はあんま好きじゃないんだよな。」


「……Brain(brān)です。」


 ファイのこだわりに合わせて呼び直す。


「そっちの方がいい」


 今や鉄道や送電、核融合発電など多くの分野でその性質を買われている常温常圧超電導物質。それはもちろんコンピューターの開発にも大きな影響を与え、特にアルファキューブを始めとした量子コンピューターの分野では冷却の必要が無くなったため、かなりの小型化がなされた。


「その中に"プログラム"の全てが詰まってるの?」


「ちょっと、そこらのPOFと一緒にされちゃ困るよ」


 八代先輩の質問にファイが眉を歪めて答える。

 POFはPre-Optimized Functionの頭文字を取ったもので、日本語に直訳すれば既最適化関数となる。現在も言語処理や自動車の自動運転に利用されるが、AIとは別のものなのだ。


「ボクはプログラムを順に実行するだけのPOFとは根本的に違うんだからね!」


「オレなんか逆鱗に触れた?」


「大丈夫じゃない? この子は雀じゃん。鳥類の体表は鱗じゃなくて羽毛だよ」


 冗談なのか本気なのか分からないような八代先輩のコメントに雨宮先輩は


「いや、そうじゃなくない?」


 と、返すのだった。

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