第6話 チキチキトランプ大会
電車はいつの間にか全路線全線運転再開していたようで、八代先輩に言われるがままについて来たが、
「ここって……」
家に着いた。ただいま。
「えっと、ここですか?」
「うん、そう。ここのパフェめっちゃ美味しかったの!今日は他のも食べてみたいなって。おっと、食べてもらいたいなって」
ただの食欲が垣間見えたような気がしたが。
階段を少し降りて、半地下にあるドアを開けると、リンリーンとベルが鳴る。聞き慣れた、今日の朝も、昼も聞いたものだ。
「あら、お帰りなさい。あら、陽斗くんに燐ちゃんも、それにそちらのお二人さんは?えっと、女の子の方は最近来たことあるかしら」
店長である母さんが5人を出迎える。
「えっと、今日入ったサークルの先輩で。えっと、」
「雨宮那由多です」
「八代百華です。えっと、どういう関係で?」
まだこの奇跡の帰宅を理解していないようだ。それともこれも奇蹟だろうか。
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「理巧くんのお母様だったんですね!!」
説明を受けて驚きの声が響く。
名字が同じだからか下の名前を呼ばれて自分も驚く。
「お母様なんて、私の名前は紗千よ。名前で呼んでくれていいわよ」
「じゃあ紗千さんと呼ばせて貰いますね。今日は3人の歓迎会をやろうかなと。たまたま前食べに来た時、美味しかったのでここでって。迷惑じゃなかったらですけど」
「全然全然。百華ちゃんに那由多くん、これから3人をよろしくね」
母は陽斗と燐の2人も親しい仲だ。
「それにしても、3人で同じサークルって、何に入ったのかしら?」
「えっとね、……超自然学だよ」
「ふーん。なんか分からないけど、3人が入ったんだもの、面白そうね」
超自然学を怪しいものと解釈されなくてよかった。変な心配はさせたくない。
「さぁ何を注文するのかしら? 小さいカフェだけど、メニューはいろいろあるわよ」
理巧はミートソースパスタを、百華はカルボナーラを、陽斗はハンバーグを、燐はオムライスを、那由多はビーフカレーをそれぞれ頼むと、紗千はそれらを1人でも手際よく作った。
アルバイトをしていた子もいたのだが、現在受験勉強で忙しいらしい。
みんなが黙々と食べる中、
「なぁ八代、なんか歓迎会っていうかガッツリ夕食だな」
「あっ! 美味しすぎて、食べるのに夢中になってた……。食べ終わったら、なんかしようか」
しばらくして、全員がペロリと食べ終わった。
「母さん、トランプってあったっけ?」
「そこの引き出しに入ってるわよ」
おっ、あった。
「トランプ持って来ました」
「ありがと。よぉっし、これからチキチキトランプ大会を、始めまぁす!!」
「何のゲームをするんですか?」
と、燐が尋ねると、
「えっとね。……何しよっか?」
無計画だった。
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それは5人でできるトランプゲーム。それは運と戦略によって勝敗の決まるスリリングな頭脳戦。
「さっ、大富豪を始めよう!!」
大富豪とは基本5人で行うトランプゲームの一種で、このゲームでは最初にすべてのカードを手札として全員に配り、山のカードより強いカードを出していく。場に出すと効果のある数字のカードは役札と呼ばれ、それが戦略要素となるのである。
各地で広がるローカルルールをありったけ取り入れて……革命、階段、縛り、5スキップ、ろくろ首、7渡し、8切り、9リバース、10捨て、Jバック、Qボンバー、etc。もはや役札の方が役無しより多いゲームとなり果ててしまった。
「スペル発動、『7渡し』。さぁこのカードをくれてやろう!」
やや台詞めいた発言と共に八代先輩が雨宮先輩にカードを渡そうとするも、
「よく見ろ、『縛り』だそのカードは出せないぞ」
「あっ?えっ、自分のカード晒しただけじゃん……」
――そうこうして第4ゲームが終わった。富豪は陽斗、平民は雨宮先輩、貧民は燐、そして大富豪は……カードをさらした八代先輩。なぜだ。つまり自分は、
「大貧民か……」
最初に手札のなくなったプレイヤーから順に大富豪、富豪、平民、貧民、そしてあがれなかった者は大貧民となる。次のゲームではカードが配られた後、貧民は富豪に1枚、大貧民は大富豪に2枚、自分の手札の中から強いカードを渡さなくてはならない。富豪と大富豪は同じ枚数好きなカードを返すことになる。
「そろそろ次でラストにしよっか。このまま5連続大富豪狙うぞ~」
第5ゲームが始まる。八代先輩にJokerと2を持っていかれた。手持ちの最強はKだ。勝てる気がしない。富豪と貧民も交換している。
「陽斗、あんたバカなの? どのカードが強いかぐらい覚えなさいよ」
「いや俺、燐より位高いんだけどな。」
富豪が貧民に渡すカードは自由であるから強いカードを渡したようだが、さりげない優しさも鈍感の前では無力だった。
「さぁ、大貧民の次元くんから始めてこう!」
「その言い方嫌なんですけど!」
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「ふっふっふっ。私の手札は残り2枚。そして、この山はこのJokerで終わる! 山を流して私の勝」ち
と、八代先輩が言いきろうとしたところで
「残念だが、『♠︎3』返しだ」
『♠︎3返し』とは本来どのカードよりも強いJokerが場に出ているとき、スペードの3だけはその上に出せるというルールだ。そしてそのままもう一枚を出して雨宮先輩が上がる。
「ぎゃー、私の5連続大富豪が……でもせめて富豪には」
意気込んでいるところ申し訳ないのだが、
「先輩は前回大富豪なので、『都落ち』により強制的に大貧民で終了です」
「あぁ、そんなぁ……」
その後、燐、理巧、陽斗の順であがっていき、ルールてんこ盛りのハチャメチャ大会が幕を閉じた。
「ん~悔しい~。でも楽しかった。……悔しいけど」
「先輩負けず嫌いなんですね」
「私、強いから普段は負けないもん」
それが魔術による戦闘という意味なら、どう見てもこの先輩が強そうには見えないのだが、
「そーなんですか」
「あっ、信じてないって顔してる~」
「いや、そんなことは……」
「ふーん、まぁそれはさておき、そろそろ歓迎会もお開きにしよっか。明日から大学本番だし」
他のみんなもそれに賛同。一時はどうなるかと思った今日の1日だが、かなり楽しい日になった。
4人を桜木町駅まで見送って、家に戻った理巧は自室のデスクトップパソコンへ向かう。
「またボクの更新中にずいぶんと楽しんでいたようで」
声の主は画面の中、一羽の小鳥が不満げな表情をしていた。