第31話 もしかしたら
「そ、それって、どういうことです? あの忍びは幽霊だった、みたいな」
防犯カメラに戦ったはずの相手が写っていない事態に、百華は突拍子のないことを言い始める。
「八代先輩、流石に幽霊はないですって」
「確かに、あいつ物理攻撃効いたや」
判断基準そこなんだと思いつつ、理巧は田口に重要な質問をする。
「それでその映像、動画解析ソフトにはかけたんですか?」
「おぉ、そういうの詳しい子? もちろんかけたさ。俺じゃなくってもっとコンピューターに詳しいうやつが、だけどね」
「それで、結果はどうだたんですか?」
理巧はやや前のめりに回答を聞く。
「異常検出無し。映像に編集した形跡は全くなかった」
理巧は姿勢を元に戻し、冷静に質問を続ける。
「それで、その忍びに関する他の情報は?」
「現時点で分かっていることは残念ながら、この人相書きくらいだな」
理巧のインターネットにおける検索スキルでも、魔対の捜査権を以ってしても忍びの正体はほとんど分かっていないことになる。
「次にこのカードについてなんだが、何か知ってることは」
チャックのついたビニール袋に入った一枚のカード
「はいはい、それ多分魔道具です。私、それを口元に近づけてから忍者が魔法みたいの使ってる見てるんです」
「やはり、か。一部が欠損しているが、うちの解析の結果、魔法素子が埋め込まれているのが分かった。」
魔法素子――魔道具に1つは備え付けられている部品である。
魔法を顕現させるのための情報波には、幽子が電子に崩壊する際の”熵量超過”を用いる。魔法素子はその原子核反応の触媒としてはたらき、さらには情報波の調律を行う。
忍びの使ったカードに魔法素子が使われていたということは、
「つまりこのカードは魔道具と見て間違いない。もちろん、魔法省に届け出のない違法なものだ」
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その日は戦闘中に気付いたことなどを田口に伝えて、ひとまず事情聴取は終わりになった。理巧がダークウェブで調べたことは流石に伝えていないが、それでも田口からはとても感謝されてしまった。
理巧と百華は受付に入場許可証を返却し、総合庁舎の玄関から外へ出る。複数の地方省庁の入った総合庁舎は埼玉県庁の近くに立つ。彩球市役所もそう遠くない距離にある彩球の官庁街だが、彩球の中心大宮よりも南にあり正直アクセスが悪い。
幸い理巧は彩球県庁駅から桜線に乗れば乗り換え無しで自宅まで帰れるが、かなり大回りする桜線、乗り替えは面倒だが日々草線に乗った方が速いだろうか。
などと考える理巧に百華が話しかける。
「ねぇ次元くん、このあと何か用事ある?」
「いえ、特には」
「じゃあさ、お昼食べにいかない? 新しいお店がオープンしたみたいでさ」
時刻は正午過ぎたあたり、百華の操縦する魔法箒に理巧も跨がり少し北に離れたレストランに向かう。
魔法箒の2人乗りは操縦者が免許を取得してから1年経過しているかつ、操縦者と同乗者が【浮遊】、【飛行】、【飛翔】、またはそらに準ずる宙に浮ける魔法が使用できることが条件だ。
百華は高校生のときに免許を取ったので取得から1年以上経っているし、【浮遊】が使える。理巧は【飛行】が使えるので燐も喜ぶ合法の2人乗りだ。
さて、空を飛んで敷かれた道に依存しない道を通ると思うことがある。
「やっぱり彩球都市高速鉄道って便利ですけど、」
「路線入り組んでて移動距離と所要時間が相関しないよね」
理巧のぼやきに百華が同意するように続ける。
「乗り換えも場合によっては結構面倒ですし」
「そうだね。あっ、知ってる? 都市高速の路線が変に曲がったりしてるのは彩球の地下に避けなきゃならない部分があるからだって噂」
「あー都市伝説ってやつですか? その噂は初めて聞きましたけど」
「あまり、信じていなそうだねー」
実際理巧はあまり信じていない。東京のように道路が同心円状に発展した都市や、大阪のように碁盤の目状に発展した都市には、その形に沿って地下鉄の路線が敷かれることになる。地下鉄は基本的に公道の下を走るように計画されるからだ。
対して彩球市は東京の近郊にある故の扇型の道路配置に加えて、複数の市の合併という成り立ちから中心地が複数存在するという複雑な都市構造をしている。大規模な再開発が現在進行系で進んでいるとはいえ、既に発展した都市に後から路線を敷いた結果が今の複雑な路線を成したのだ。
というか、理巧はそういう話を小学校の社会科の授業で聞いた記憶があるが。
「そういえば八代先輩ってどこ出身なんですか?」
「生まれも育ちもここ彩球だよ」
「じゃあ都市構造って……」
「あー小学校で習ったじゃないかって? 次元くんは分かってないなー。都市伝説が教科書に乗ってるわけ無いじゃん」
「まぁそれはそうですけど」
「もしかしたら秘密結社が地下施設を作ってるかもしれない。もしかしたらそれを隠すように事実が教科書が書き換えられてるかもしれない。もしかしたら……」
確かに科学者はUFOを、幽霊を、秘密結社の存在を否定できない。でも現実的に考えてあり得ないとは言える。目撃や漏洩の確率を統計モデルで考えれば、存在するかもと長年知られているのに存在の確証ができないものを存在するはずだというのは難しい。
雨宮先輩はこのサークルはあり得ないものを科学の範疇に収めることが目的だと話した。でも八代先輩は、まるで超自然の存在を求めているように思われて。
「『もしかしたら』って、先輩は……」
「ん? あ、お店着いたから、続きは食べながら話そっか」




