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Command Wand  作者: 赤茄子
第1章 Spread Spirits
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第11話 やったね!

「理巧、次は私たちの番でもいいですか?」


 そう発した燐は、その右手で陽斗の左手首を掴み”私たち”を示しているのだが、掴まれている側の陽斗は案の定ガチガチだ。そういえば、昨日2人で仮説を立てると言って図書館に行っていた。


「いいよ。お先にどうぞ」


「それでは、さっそくですけど私たちの仮説は、雷雨喘息(らいうぜんそく)です」


「UFOに関しちゃ、雷の誤認としか言えないっすけど、人が倒れた理由に関しては説明できると思います。じゃあ雷雨喘息の説明は、よろしく」


「うん。雷雨喘息っていうのは、名前のとおり雷雨の際やその後に発生しやすい急性の気管支喘息です。その原因は花粉なんですけど、雨によって湿度が上がると花粉は水分を吸って膨張、この水分が雷雲の中で電気的刺激を受けると花粉は破裂します。破裂した花粉は通常より細かいので気管支の奥まで届きやすく、吸ってしまうと咳や息切れの他、最悪呼吸困難に陥ります」


 燐は説明を終わると陽斗に続きを話すよう目配せをする。


「えっと、当日の雨雲レーダーを見てみると、会場でゲリラ豪雨が発生する3時間前にも雷雨があったみたいで、そのときに上空で細かくなった花粉がゲリラ豪雨の前の下降気流で一気に地表に降りて来たのではないかと思われます。実際、映像の中では胸を抑えるように苦しむ人も映ってたし、幸い病院がすぐ近くにあったので死者は出なかったっすけど、何人か意識不明の人がいたっていう報道もあったすね」


「付け足すと、めまいや頭痛を訴えていた人がいたのも、ゲリラ豪雨で急激に気圧が変化したことが原因だと考えられます」


 一通り説明を終えた2人。燐は満足げな、陽斗は緊張がほぐれて疲れた顔をしている。それにしても進学校での発表の豊富な経験がこんなところで発揮されるとは。


「ヘッポコ八代の仮説よりずっと現実的だな」


「ヘッポコ言うな! でもうん確かに、これなら色々と説明がつくね」


 先輩2人も納得の様子だ。

 確かに今も含めて事件の日もスギやヒノキが花粉を飛ばす時期に間違いない。地球温暖化に伴う異常気象によって、ここ1世紀、世界各地で雷雨喘息の報告が挙がっているらしい。


「にしても、なんで花粉だなんて思いついたんだ?」


「あぁそれは俺の母さんがアウトドア好きなくせに、いや好きで山駆け回りすぎたのか花粉症でさ。ちょっと前に調べたことがあって」


 理巧の質問に陽斗が答えるが、


「えっと、花粉症ってなんだっけ」


 続けて百華が質問した。


 花粉症。その始まりは戦後の住宅需要に答えるために大量に植林されたスギとされている。避暑地ならぬ避粉地(ひふんち)として街が栄えるほど大きな影響を与えたが、現在では品種改良によって7割が無花粉スギに植え替えられているために、罹患者はだいぶ少なくなったらしい。


「花粉症ってのはスギとかヒノキの花粉をアレルゲンとするアレルギー反応だ。鼻水、くしゃみ、目の痒み、人によって症状は様々だが結構つらいらしいぞ」


 ファイが答えると、


「あぁなんか聞いたことあるかも」


 と、百華。今やこんな反応をされる花粉症は、日本人の国民病ではないのである。結果、花粉のシーズンにマスクをする人が減り、インフルエンザにかかる人は増えたのは残念な弊害だ。


「それにしてもオレも正直驚いた。UFOを見たって証言と同心円状に倒れていったこと以外はこれで説明できそうだな。病院に行けば何か分かるかもしれないが」


「守秘義務で答えてもらえないでしょうね」


 那由多の言葉の続きを燐が代わる。


「ただ、雷雨喘息だって分かったなら病院側から何かしら発表があってもいいような気がするけどね」


「確かに、理巧の言うとおりなんだよな」


「秘密結社からの圧力!」


「誰が何のためにするんだ?」


「んー分かんない!」


 那由多は百華にやれやれとした表情をしつつも話を進める。


「とりあえず、雷雨喘息ってのは有力な仮説として検証するべきだろうな」


「有力な仮説だって、やったね陽斗!」


「お、おう」


 顔を向けて微笑まれ、燐から目を逸らす陽斗。逸らした先に理巧の顔。


「な、なんだよ、その顔は」


「別にー」


 理巧は2人の様子を温かく見守る。ここでしか摂取できない栄養、もといセロトニンのような癒しホルモンがあるのだと主張したい。


「じゃあ、2人の話はここまでで大丈夫かな」


「「はい」」


 陽斗と燐の2人に確認を取り、百華は討論会を進める。


「じゃあ最後に、次元君の仮説を聞いてみようじゃないか」

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