第10話 可能性
2051年5月、桜の花もとうに散り切った頃に、あるニュースが世間をざわつかせる。
「未知の物質の発見か」そう題されたネットニュースだった。
既存の元素とは異なる核子から成る原子核。その周りを衛星のようにクルクルと回るのは電子ではなく幽子。これらの名称が決定されたのは、魔術の原理であるMGC理論が確立されてからのことだが、魔法がまだオカルトだった時期に未知の物質を”魔素”と名付けたのは、ただの偶然だった。
魔素はどこから来たのか。地中から湧いて出たのか。突如として空中に発生したのか。もしくは誰かが作りばら撒いたのか。魔素がどこから来たのかの答えは、当時運用されていた民間の宇宙ステーションでの観測によって明らかになる。
魔素は空から降ってきた。正確には宇宙から降ってきた。もっと正確に言うならば、希薄な魔素のガスに満たされた宇宙に地球が、太陽系が、落ちたのである。
これこそが降魔の、今なお続く降魔期の始まりであった。
「私たちが地球で魔術を確立するより前から目撃されているUFO。魔法を飛行に使っている可能性が高いことを考えると、地球外の知的生命体が作ったって考えるのが妥当じゃなぁい? 魔素は宇宙から来たんだから」
既に発見されている恒星のいくつかは、元素である水素の代わりに魔素である波素が燃えているとする研究結果もある。正確には燃えていると言う表現は適切ではないのだが。
「なるほど」
ともあれ、理巧は百華の説明に納得させられた。陽斗と燐、そして意外にもファイも同じ様子だ。ただ、
「ちょっといいか。気になる点が2つある。まず、UFOの存在を認めるにしても、その魔術が確立されてない時代のUFOと今回の騒ぎのUFOが同一なわけではない。過去のUFOは宇宙人が作ったって予想まではいいが、帰納法的に今回のUFOも宇宙人が作ったってのは言い過ぎじゃないか。目的はともかく現代の人類なら作ろうと思えば作れるだろ」
むむっと痛いところを突かれた顔をする百華を横目に那由多は話を続ける。
「2つ目に、そもそもこの映像を見る限りこのUFOの機動力は別に高くないぞ。まぁだいたい次元がまだこの映像だけでUFOの映像を確かなものとして扱うなって言ってたろう」
「でもさっき映像で確認したっすよね」
「そうだそうだ!」という百華の賛同を得る陽斗の疑問に那由多は再び映像を見せて答える。
「これ、なんだか分かるか」
映像の下の端に映る黒い点。那由多が指でピンチアウトし、画面を拡大すると理巧がその正体に気が付く。
「……木の先端?」
「おそらく、そうだ。街路樹かなにかだろうな。で、問題は動画を再生したときだ」
那由多が少し巻き戻して再生したのを見て陽斗が呟く。
「UFOと一緒に動いてる? これって」
手ぶれの影響か、街路樹と思われるものは画面に見え隠れするが、UFOと同じ速度で動いてる。
「境の考えてる通りだ。UFO自体は動いてない。動いているのは画角だ。だいたいだ、八代。いくら魔法で機動力があろうが、あんな急な方向転換したら中身にかかるGはジェットコースターの比じゃないぞ。まぁ戦闘機だっていうなら分からなくもないがな」
自身の案の決定的な間違いに気が付かされ、百華はしょんぼりとした顔をする。心なしか、頭の右側の特徴的な三つ編みも萎れているように見える。
そんな、顔を見て那由多が再び喋る。
「お前の期待は分かってる。でも、宇宙人じゃなくたって、人間の秘密結社が作ったってでも可能性は残るだろう」
理巧は那由多の言う”可能性”がなんのことなのか分からなかったがそれについて聞くことはしなかった。
「……それで、百華先輩の仮説を白紙に戻した雨宮先輩は、他に案があるんですか」
「ない」
「では、聞かせてもらっても……ない?、ないんですか!?」
初日からそうだったが、もう下の名前で呼び合う百華と燐はかなり仲がいい。百華は少し調子を戻した様子だが、燐は一矢報いるべく那由多に問うも、予想外の返事が返ってきた。
「雨宮はねぇ、ちゃんと証拠が揃ってれば……。でもそうじゃないときはポンコツなの」
「ポンコツいうな」
「今はまだ色んな可能性が重さね合ってたり縺れたりしてるんでしょ?」
「そんな量子的な思考してないわ!」
「ふふっ」
思わず、燐が失笑すると、理巧と陽斗もつられて笑った。
「なんていうかコント見てるみたいっすね」
陽斗の発言に、
「19歳のボケにツッコミ入れてやってるだけだ」
と、那由多。百華はそれに頬を膨らませて那由多を睨むが、口から息が漏れて萎むとともに話を元に戻す。
「さてと、じゃあ雨宮は案の精査に徹してもらって、次は1年の3人にお願いしようかな」




