第8話 ファーストコンタクト
「錫木勇樹教授。応用魔法学部魔法文化科担当の先生で、」
「このサークルの顧問をしているんだ」
「自称だけどね」
この大学のサークルには、運動系など一部のサークルを除いて1サークル1顧問という形で顧問が付いていることはない。自称ということは勝手にこの超自然学サークルに付いているということだろう。
「勧誘ポスターもはがされてるし何かあったのかと思ったんだけど、」
「あれなら入学式の次の日には剝がしちゃいましたよ」
起きて割とすぐに状況を理解した雨宮先輩が、ソファーに座りながらこう答えた。
「もう勧誘しないのかい?」
「騒がしいのは俺好みじゃないので、」
そういえば、初日も同じようなことを言っていたな。それってもしかして
「静かに寝てたいだけでしょー」
八代先輩が横目で見ながら、呆れるような口調でそう言った。
―――――――――――――――――――――――――
「で、この子がファイちゃん。なんとびっくり、Cyliなんだそうですよ」
八代先輩によって錫木先生に新メンバーの紹介がされた。先輩2人の初対面と比べて、ファイがCyliというにはそこまで驚かないようすだった。それにしても新年度は自己紹介の機会の多い時期だが、できれば一度に済ませたいものだ。
なお、教員のことを〇〇先生と呼ぶのは教授や準教授などの区別の間違いや階級による態度の差を防ぐためである。ちなみに錫木先生は博士号をもった教授なのだそう。
「すまないね。年度始めでいろいろバタバタしてて覗きに来るのが遅れてしまったよ」
「別に顧問じゃないので大丈夫ですよ」
「盗み見はやめてください」
ある意味距離は近いのだが、先輩2人の辛辣なコメントに少ししょげてしまった先生。かわいそうに思ったのか、陽斗が話題を変える。
「せ、先生は何の専門なんですか」
「僕の専門はね、民族学、とりわけ妖怪やUMAみたいな超自然的な文化を専門に扱っているんだ」
なんだろう、見た目も相まってこの先生がだいぶ怪しく見えてきた。そして、同じものを研究対象にしようとしている自分はどうなのかとも思ってしまった。
「一応、アドバイザーとして助言もらったりもしてるの。一応ね」
八代先輩が錫木先生に当たりが強いのは何かあるのだろうか。
「そうだ、錫木先生。明日UFOの調査に行くんですよ」
「えっ聞いてないんだけど!」
声を被らせるように反応する先生。
「顧問じゃないので、」
「ひどいじゃないか。オカルトと言えばUFO!18世紀から人類に多くの謎とロマンを与えてきたオカルト界のスーパースターだぞ!!」
「それじゃあ、先生。この動画知ってます?」
雨宮先輩がズボンのポケットからケータイを取り出しその画面を見せた。
「あぁ知ってるとも。そのイベント行きたかったやつだったんだよね。もしかしなくても、このときのUFO騒ぎについて調べるんだね」
「そうです。にしてもこのイベント知ってるんですね」
「あぁ、『つれりあん』のアニメイベント。あぁ単行本にサイン欲しかったぁ」
「その『つれりあん』ってなんですか? イタリアンみたいな」
アニメに疎い燐がそう問う。
「あれ、みんな知らない?」
「聞いたことはあります」
と、燐よりはアニメを見ている自覚のある理巧が答える。
「えっと確か、『連れて行ってよ、エイリアン!』って題名の漫画原作のやつですよね」
「そうそう。両親の虐待で絶望して日々を過ごす少女が、エイリアン・アブタクションによって連れ去られて世界各地を巡っていくうちに、少しずつ希望を取り戻していく話でさ、」
今序盤のネタバレを食らった気がするのだが、まぁプロモーションレベルだろう。
「自分の部屋から見る雑居ビルの隙間の朝日しか知らなかった子が、水平線から昇る太陽を見るシーンなんてもう、」
「先生ストップです」
いつの間にか涙ぐみ、舌を加速させる先生に八代先輩がブレーキをかけた。危うく、ネタバレという名の暴走列車に全員轢き殺されるところだった。いや、もう既にだいぶ轢かれたような気もするが、
「すまない。つい熱がこもってしまって」
オカルトマニアなのかアニメオタクなのかはっきりして欲しいが、この先生がどういう人のなのかは結構分かったような気がする。まぁそもそも何かにのめりこめなければ博士号など取れるものではないのだ。
「話を戻そう。明日このUFO騒ぎの調査に行くから僕にも手伝って欲しいって話だったよね」
「いえ、別に手伝って欲しいとは言っ……」
「調査なら僕に任せてくれ、と言いたいところなんだが明日は出張なんだ。本当に残念だが僕はいけないから君たちだけで頑張ってくれ」
結果的に当初の予定通りだが釈然としない。この先生は本当に教授なのだろうか。
「八代先輩、明日の調査って具体的には何をするんですか?」
磁界に影響された電子のごとく、逸らされた話を元に戻すために理巧が質問する。
「基本的には映像が取られた場所を確認する現場検証と、昨日雨宮も言っていたけど目撃証言も欲しいかな。SNSで連絡とれそうな人とは別にね」
「じゃあ、俺たちは特に何か持って行ったりはしなくてもいいんですかね」
錫木先生を怪しいものを見る目で見つめる燐。その隣で陽斗が続けて質問をする。
「そうだね、あ、でもケータイでもいいから何か記録できるものは持って来てね」
「了解しました」
これで3人と1羽が寄って無い知恵を絞りだす必要はなさそうだ。まぁ、この大学に受かるレベルの人間なら絞ればある程度知恵はでてくるので、この場合は知識と言った方が妥当かもしれない。
まぁ調査の内容についてはある程度予想のつくものではあったが、宇宙人と交信する装置だとか怪しいものが持ち物になくて安心した。
宇宙人へのメッセージはパイオニア探査機の金属板やボイジャーのゴールデンレコードなんかで十分だ。ちなみに、こないだ読んだ資料にもあった情報だが、1世紀以上たった今日でも宇宙からそれらしい電波は届いていないらしい。
「あぁ、そうだ僕がいない代わりといったらあれだが、最後に1つアドバイスを授けよう」
今までと雰囲気を変え、急に真面目そうに錫木先生が話し出す。
「百聞は一見に如かず、だ」




