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Command Wand  作者: 赤茄子
第1章 Spread Spirits
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第4話 仮引数

 日本においては全ての魔法は著作物である。それは、芸術的な創造性に対するものではない。著作権法第十条九項にはプログラムが著作物に当たることが明記されている。何が言いたいのかといえば、魔法はプログラムであるということだ。


 さて、プログラムとはif文やswitch文などによる条件分岐、for文やwhile文などによる反復処理、そして順番に実行する順次進行という、3つの基本構造から成る電子的な指令である。


 魔法を設計するプログラミング言語をまとめて魔法記述体系と呼び、特にOrder Code(オーダーコード)と呼ばれる言語が世界的によく使われている。

 理巧が魔術に用いた杖は魔道具の一種であり、魔法を杖で実行するには、普通コンパイル、すなわちコンピュータが読める形に変換して実行する必要がある。しかし、まだそれだけでは実行しても魔法は顕現しない。


 魔法には、普通仮引数(かりひきすう)と呼ばれるパラメータが存在する。例えば、火の玉を飛ばす魔法である【火球(ファイアボール)】では、半径、温度、初速度、顕現させる座標などが引数となる。それらは実行後、顕現前に入力する必要があり、何も入力しない場合は半径、温度、初速度の絶対値には規定値が入り、初速度の方向と顕現させる座標は杖の杖の向きと杖を基準とした相対座標により定められる。


 すると当然【念力(サイコキネシス)】にも仮引数が設定されている。速さを0にするまでの時間や適用する領域などが挙げられるが、


「あの魔法、どうやったの? 魔法に引数を入れている様子がなかったんだけど、」


 倒置的な疑問を投げかける百華。魔法を扱い慣れた魔術師なら誰もが違和感に気が付くだろうが、【念力(サイコキネシス)】の領域には規定値が存在しない。引数を入れている様子がないのに魔法が発動できているのは、本来あり得ないことなのだ。


「あぁ、確かに普通じゃないですよね」


「階級もそうだけど次元くんって実は超優秀な魔術師だったりする」


 百華は顎に手を当て吟味するように理巧を見た。


「いやいや、そんなことはないですよ」


 自分の胸についた橙色を基調としたバッジを一瞬見て理巧が謙遜すると、


「そうだな、天才っていうのも間違ってはないと思うけどな」


 そう本を机に積んでいたファイが喋り始めた。


「まず、初めて会ったときの紹介にもあったと思うけど、ボクは魔法の補助に優れていてね。術者の意図を汲んで引数を入力するのはお手の物なのさ」


 なるほどね、と百華が納得。


「さすがに魔術師試験のときは許されませんでしたけどね」


「もう5年も前になるな」


「ちょっと待って、5年も前って中学2年生ってこと!?  私が5級取れたの高校2年生の時なんだけど、」


 5級とは第五階級魔術師免許のことを指す。バッジは理巧や百華が胸につけているような橙色。7段階中上から3番目の階級であり、受験者合格率平均は23.8%の難関国家資格であるが、それを中学2年生で突破したとなると、


「やっぱり天才なんじゃないかな!?」


「そ、そうですかね」


 少し照れる理巧に対してファイはどこか自慢げだ。


「じゃあさぁ今度模擬戦の相手してよ」


「第六階級試験のためですか?」


 第六階級試験の内容は魔法記述体系と模擬戦だ。模擬戦があるのは単純に戦闘能力が問われるからである。


 日本の治安が長年の間高い水準を保ってきたのには、やはり銃刀の厳しい規制があるだろう。今は銃刀法がその規制を担っているが、過去を振り返れば刀狩令も一種の規制だったように思える。


 そんな現代社会に突如として現れた、なんでも出る銃こと魔術。その悪用に対抗する魔術師はやはり戦闘力が求められる。


「まぁ試験のこともあるけど、腕試し、かな」


「腕試し、ですか?」


「こう見えても私、戦闘には自信あるんだよ」


 椅子に座った百華は、片手を頬に当ててこう話す。


「ボクにはそうは見えないけどな」


「先輩って、魔法芸術科でしたよね」


 理巧も机の反対側に座ってこう問った。魔法芸術学は魔法の視覚的効果(エフェクト)や魔道具の見た目について扱ういわば魔法のデザインをする学問だ。


「そうだよ。……ははーん、さてはイメージと違うって?」


 百華が理巧をジト目で見つめる。


「いや、まぁ、はい」


 天然なところのある先輩を思うと、戦闘好きと言われてもピンとこない。そういえば最初に会った日にも同じようなことを言っていたような。


「うん、でもほら、アートはエクスプロージョンっていうしさ」


「……すみません、よく分かりません」


 まだ出会って数日しか経っていないが、この先輩はどこまでも天然だ。

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