第1話 society 7.0
2051年5月、桜の花もとうに散り切った頃に、あるニュースが世間をざわつかせる。
「未知の物質の発見か」そう題されたネットニュースだった。
さて、それから早半世紀、22世紀の地球では魔法が使われている。
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魔法の仕組みを解説するにはこの余白は狭すぎる、というより前提知識が多すぎるためにここでは割愛するが、1つだけ情報を提示するなら先のニュースの未知の物質、後に魔素と名付けられた粒子が重要な役割を担っている。
時の流れによって、そして魔法の発展によって社会は大きく変化した。
日本の総人口は約8000万人まで減り、高齢者の人口割合が28%を超える極超高齢化社会に突入。医療の発展によって日本の平均寿命や健康寿命は上がり、高齢者という扱いの年齢をもっとあげるべきだという意見も少なくない。
AIの発展も目覚ましい。AIとは言ったが、これは1世紀も前の表現で、現在ではPOFと呼ばれている。
現在AIというと別のものを指すので、ロボット掃除機にAI搭載なんて書くのは果汁100%じゃないオレンジジュースのパックにオレンジ果実の断面を載せるようなもの、景品表示法第三十一条の違反に当たる。
POFの発展はsociety 6.0、自律社会の実現に寄与したが、一方で多くの労働者が仕事を奪われた。ある調査では日本人の労働者の5割がPOFの影響で失業したという結果も出ている。
今やPOFは就職のライバルという時代すら終わり、POFにできる仕事は求人すらないという就職氷河期状態である。
ひとまずそんな暗い話は置いておいて、最も注目すべきはやはり魔法だ。繰り返す通り魔法には魔素が大きく関わっているが、魔素と名がついたのは魔法が、正確には魔法を扱うための科学技術、魔術が確立されてからのことだ。
魔術が開発されてからしばらくして、日本の公的機関としての魔法省や国連システムとしての世界魔法機構が設置されるなど、魔法を管理するための体制が整えられた。これはsociety7.0、魔法社会への突入だった。
「魔術はなんでも出る銃だ」
そう魔術を比喩する者もいたが、言い得て妙だ。
魔法とは魔術によって顕現された現象を指すが、それは世界を書き換えることを意味する。
火を、水を、風を生み出し、天気を、地形を、空間を変化させる。ある時には建造物を破壊し、またある時には人の命を奪うかもしれない。
魔術という超自然的とも言える科学技術は、人類にとってあまりに突然で、あまりに画期的だった。良くも悪くも可能性は無限大。
そんな混沌ともいえる社会の未来像に、世界が打ち立てた対策。魔法に関する公的機関とその機関の運用する免許制だ。
日本の魔法省の所管する『魔法犯罪対策法』、通称魔対法は、魔術の使用及び魔素の利用を制限すること等により、魔法による事件や事故を防ぎ公共の安全を確保することを目的とされている。
日本における魔術行使のための免許は、この魔対法第百四十二条一項に定められた魔術師免許だ。WiLicとも呼ばれるこの免許の取得には魔法に関する高度な知識と魔法による戦闘技術が求められる。もっともWiLicには初歩的な第一階級から応用的な第七階級まであり、最初から戦闘を求められるということはないが。
ともかく、魔法絡みの犯罪や事故が起きた際に警察などと協力し、幅広い知識で、ときには実力行使で問題を解決へと導き得る存在。それこそが魔術師と呼ばれる者たちなのだ。
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そして、ここにもまた、1人の魔術師がいる。
次元理巧。今年度から市立彩球魔法大学の新一年生だ。