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セシルからの手紙

「リンカ、なぜこんな夜中に私の部屋に忍び込んだ?」


リンカがミルクを飲み干すのを見届けてからルシファーは、単刀直入にに尋ねた。


「カリイナと顔を合わせたくなかったから」


「だからと言って…

だいたいお前は何の目的でここに来た?私に渡したいものとはなんだ?」


「話すわ。最初から事情を。

お願い、聞いて」


ルシファーは彼女が順を追って話をすることを許した。




「私はこの屋敷を辞めて退職金を手にした時、そのお金で行方不明になっているお父さんを探しに行きたくなったの。

少し前にN村で見かけたってお父さんの昔の知り合いが教えてくれたから」


「N村?私が育った孤児院のある村だ…」


「そうなんですってね。

私はその村の教会で寝泊まりしてお父さんの情報を集めていたんだけど、教会に来た人からこの村の孤児院で知らせの一族の嫡子が暮らしていたんだって聞かされて驚いたわ。


私は自分が知らせの一族の屋敷で働いていたことを内緒にしていた。

ほら、だって…みんなに変な目で見られるといやだし、知られたら教会をクビになるかもしれないと思ったから。

本当は正直に話してあなたやカリイナの近況を教えてあげればあなたたちの知り合いは喜んだんでしょうけど。


ただ一人だけ私が知らせの一族の屋敷で働いていたことを話した相手がいるの。

私の身の上に同情して親切にしてくれた娘。

小間物屋で働く綺麗な娘。セシルっていう」


「!」


リンカはルシファーの顔色が変わったのを確認した。


「セシルは…あなたに謝らなきゃいけないことがあるって言ってた。

それが何かは教えてくれなかったけど。

ただ手紙を預かってきた」


「手紙?」


「そう、結局お父さんは見つからなかったし、私は残してきた弟のことが心配だから都に帰るってセシルに挨拶に行ったとき、彼女私に手紙を託したの。

ルシファーに届けて欲しいって」


リンカは着てきた服のポケットをまさぐり、しなびた封筒を取り出す。


「濡れてこんなになってしまった。

私、今日帰ってきたばかりなの。

一刻も早くこれをあなたに届けたくって。

セシルのために。

だってセシルは本当に私に親切にしてくれたんだもの。

でも、だからと言って私、焦りすぎたわ。

封筒がこんなに濡れて…

インクが滲んで読めなくなっていたらどうしよう」


封筒を大事に抱えてるリンカをルシファーは身じろぎもせず見つめていた。




ひったくるくらいの勢いでこの手紙に飛びつくと思っていたのにこの冷静な態度。

ルシファーはもうセシルのことはきっぱり諦めたのかしら…

なんとも思ってないのかしら。

そうだとしたらあの村で過ごした日々は無駄だった…

そう思いながらリンカは手紙をルシファーに差し出す。


ルシファーは少し考えた末に手紙を受け取った。

封筒の宛名は滲んで筆跡がよくわからない。

ゆっくりと封を開け中の便箋を取り出す。


ああ…

セシルの筆跡だ…


便箋にはただ一言、迎えに来てと書いてあった。




リンカは黙って便箋を見つめているルシファーが今何を考えているのか分からなかった。

けれど彼の心の中でいろんな感情が渦巻いているのは確かだろう。


とりあえず自分がやるべきことはやった。

ここに長居は無用だ。


「ルシファー、私の用は済んだ。帰る」


「帰れ。入って来たところから。

お前が今着ている服はくれてやる。

私はここを片付けてから部屋に戻る」


リンカにはルシファーが怒ってるように感じた。

けれど「リンカ、もし今度この屋敷に用がある時は…

昼間、玄関から入ってこい」と言われ、ああ、やっぱりルシファーはセシルからの手紙を届けた私に感謝してるんだと思った。




部屋に戻ったルシファーは便箋を手にひどく考え込んでいた。


違和感しかない。

この手紙には。


セシルがこんな手紙を書くだろうか…

彼女にも今のこちらの状況がわかってるはずだ。

カリイナの件。自分との結婚を前提に父が引き取り手として孤児院との書類も交わしてある。

院長の書類の整理を手伝っていた彼女がそれを知らないはずはない。


セシルはなんでも自分の思い通りに振舞っているように見えてその実すごく気遣いのある娘だった。

大人しいカリイナのことも常に気にかけていた。

そんな彼女がカリイナのことを顧みずこんな手紙を書くだろうか?

それともなにか事情があって、そんなことを考えられないほどの状況に陥っているのだろうか?


この末尾の跳ね方…

何度見ても彼女の筆跡だ…

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