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女神を手に入れる僕の話  作者: 天川ひつじ
みんなでお出かけ
95/95

95.薫る清らかに 光る麗らかに、透る

僕は答えた。

「僕もバスで皆を集めて回るの、懐かしい気分です」

「だろうねぇ。まぁでも立派になって嬉しいよ」


もう25歳にもなったけど、リクさんに褒めて貰うと今でも嬉しい。

「リクさんも来ますか? 行き先は我が家ですけど」


「いや、今日はソルトが保護者として行くから、僕は留守番だ」

「そうですか」

「ねぇねぇ、向かいましょ、サクくん。皆さん待っておられるわ」

ソルトが僕たちの会話を止めさせた。


見れば、研究所から乗り込んできたソウとソルトに、皆が興味津々の視線を向けていて、あのソウが動揺していて、ソルトにピッタリ肩を寄せている。


おっと。

そうだ。


「全員そろったから、ここでもう皆を紹介しておくね」

僕は発車よりも先に、車内に向かって声をかけた。


少しでも仲良くなるといいな。

それにせっかくだから、僕もできれば良い運転手になりたい。


***


ちなみに月に1度の集まりの、行き先など内容は参加者の話し合いで決められる。


一方で、僕の畑は普通にはないと有名で、皆が見学を希望したので、初回は僕の家に皆をお招きすることになった。


僕の地域を羨ましがった他地域の人たちには、了解を取った上で、中央のチーム人たちが育てている畑などを紹介した。少なくとも2グループが、チーム関係の牧場と畑に遊びに見学に行くことになったそうだ。

迎え入れる側の都合もあるけど、今後も交流が生まれそう。チーム関係の人たちも、楽しみ、嬉しい、との事なので良かったと思う。


なお、僕の地域はそのうち研究所にも見学に行く予定。

だったら、いっそ全員の家に順番に行くのも良いねという話になっている。

それから、泊りがけになるけど、ガーホイを頼って海にも行く予定。


ところでガーホイだけど、町に住むご老人方から紹介を受けた人と、仲良く過ごしている。


結婚も同居もしてないけど、恋人なのは間違いなくて、ほぼ毎日一緒にいる。僕も何度も会ったけどとても快活な人だ。

ガーホイの家に遊びに行くと、彼女もガーホイの手伝いとして色々動いていてくれる。


ひょっとして僕たちが遊びに行くから、結婚や同居をしないのかなぁ、と思ったこともあるのだけど、ガーホイは皆に来て欲しい、と常々言ってくれるし、色んな生き方があるのだから、今の関係が今の2人に良いのかな、とも思う。


***


さて、今。


紹介の効果もあって、車内は色んな組み合わせで話し始めている。

ソウには、後ろに座っていた女の子が声をかけていた。

「研究所に住んでるの?」


「うん。きみは?」


「えっと、どう言ったら良いかな? ママー」

「なに?」


「私たちの家、どこにあるの?」

「メリンザは分かる? そこにあるのよ」


「ふぅん・・・。きみは何歳? 僕は11歳なんだけど」

「私10歳。1つお兄ちゃんなのね。名前何だっけ」


「ソウ」

「私はマフィーね」


「うん。それから、こっちが、僕の姉のソルト」

「お姉ちゃんなんだ。若いと思ってた! 私はママよ。ラティスっていう名前なの」

「初めましてー」

「初めまして」


保護者のソルトまで交流させた。ソウって、ここぞという時に気が効く大人みたいだ。すごいなぁ。

あと、普段のヤンチャさが控えめだ。

彼なりにお行儀よくとか色々考えてるのかな。


そして、息子のカオルの方は、初めに話しかけてきた子と話し込んでいる。

気が合うのかな。


友達になるのかな。

なんだか自分の事みたいに息子の事って嬉しいんだな。

リクさんも、僕たちを育ててくれながら、こんな気持ちになったりするのかな。


「運転手さーん、音楽かけて」

女の子がリクエストしてきた。


「うん? 何が良い?」

尋ねた僕に、カオルの方が困ったみたいだ。

「僕のパパだよ」


「うん、知ってる」

「ケンカしないで、チコ。すみません」

「ケンカじゃないもん!」

「大丈夫、僕はカオルのパパで運転手でもあるから両方正しいよね。音楽、どうする? 皆何が良いんだろう」

年齢層もバラバラだし人数も多いからどうしよう。

そういえば、昔バスの運転手をしていた時は音楽なんてかけなかったなぁ。


口々に希望を言いだしたので、多数決で勝っているっぽいご指定の音楽番組の音声を車内に流してみる。


一人が歌いだした。もう一人も。

カオルはちょっとびっくりしている。大人しい性格なので、初対面に近い子たちが集まる前で歌う事に驚いているんだろう。

ソウは歌いだした子を驚いて見つめながら、なんだか気分が盛り上がってきたようで瞳がキラキラしてきている。


いつか、全員が大合唱する日が来るのかな。


***


我が家に到着。


「カオル、皆を家に案内してあげて」

「うん」


カオルが一番に降りて、皆を誘導するように家に向かう。皆がカオルの後についていく。

なかなか息子が立派に育っているなぁ、なんてこんなところで感慨深い。


家の前、到着の連絡を受けていたユリが、キヨラを連れて迎えに出ていた。


キヨラは大勢を見てかなり驚いているけれど、カオルとソウの姿を見て嬉しそうに笑った。

「にぃにー! ソー!」

「ただいまー!」

「カオル、おかえりなさい。皆さん、ようこそいらしゃいませ」


初めて我が家に来た人たちがそれぞれユリとキヨラに挨拶しながら家に入っていく。

家の中には、人型AIのユニとフィンが待機している。

もう1体のゼンは先に畑の方にて待機中。


車内に忘れ物が無いか一応チェックしてから僕も降りる。

ユリがキヨラと共に、僕を待っていてくれた。


「おかえりなさい」

「ただいま」

「パパー」


幸せな日が続いている。


今日も、きっとこれからも。









『女神を手に入れる僕の話』END


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