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女神を手に入れる僕の話  作者: 天川ひつじ
みんなでお出かけ
92/95

92.月を見る

夜。

蒼がふと思い出したように提案して、皆で海の上に出ている月も眺めに行った。

残念ながらソルトは寝てしまっていたので、ソウと共に、リクさんもお留守番だ。


でも、ソルトも見たいと言いそうだ。

「ソルトを起こします?」

「駄目だ。特に子どもにとって良質な睡眠はとても大事なんだ。初めてのことばかりで今日は疲れてる。見たいとは思うけどさ、明日もあるから気にしないで行ってきて」


「分かりました・・・。僕が留守番しましょうか。リクさんも、海、初めてなんでしょう?」

「大丈夫。ユリちゃんと楽しんでおいでよ。そっちの方が大事だからさ」


「・・・はい」

ちょっと後ろ髪を引かれる気分。


とはいえ、現金なもので、皆で出かけると僕はあっという間に浮かれてしまった。


海は視界が開けていて、何も無いところに月が浮かんでいるように見える。

良い月だなぁ、と、ガーホイと僕とユリと蒼と茜でしみじみと見入る。

波の音も磯の香りも全て新鮮で、来れて良かったと本当に思う。


「僕たちは、視覚も嗅覚も触覚も味覚も聴覚も、全部再現できる環境で手軽に見るけど。本当に見ていると思うと、こう、特別な感じになるね」

と蒼が言ったのが印象的だ。


ガーホイは逆に首を捻っていた。

「あのよ、再現されてるもんは、全部中途半端だろ? 本物とは違うぜ?」


その言葉に蒼と茜が驚いたのが分かったので、

「ガーホイさんは、視力とか味覚とかすごいから、本物と再現されているものとの違いがよく分かるんだ」

と僕が皆に説明しておく。


皆がガーホイに、すごい、と感心した。


***


翌日。


今日はガーホイが釣りに誘ってくれて、皆でガーホイの船に乗ることに。

ガーホイ専用になっている港で準備をしていたら、ご老人の1人が散歩がてら様子を見に来たようだ。

「今日は大勢じゃなぁ」

とニコニコしている。


「キューメじぃさんも船乗るか?」

「冗談はよせよ、陸もヨロヨロしてるんじゃから。まぁ気を付けていっといで」

「おぅ」


皆で、行ってきます、と声をかけて出港だ。


***


予想以上に船は揺れた。でも、これでもまだ穏やからしい。


ガーホイオススメの釣りポイントに着く前に、蒼と茜とユリが船酔いになった。

ちなみに、リクさんとソルトとソウと僕は平気。まぁ、そういうことだってあるだろう。

8人のうち3人が青い顔になって弱ってしまったので、陸にすぐ戻る事になった。


「ごめんなさい・・・」

と弱っている3人が呟くけど、皆ぐったりしている。

寝ている状態が楽みたいなので、陸に戻って、シートを引いて、休ませる。


リクさんが水分補給にとドリンクを渡してくれた。

「ありがとうございます。あの、リクさんはソルトたちと遊んできてください」

「うん、そうさせてもらうよ。リクはユリちゃんの傍だろう?」

「はい」

「じゃあ、任せた。何かあったらすぐ呼んで」

「はい」


リクさんは、ガーホイと、ガーホイに抱きかかえられているソウと、ソルトのところに歩いて行った。

ガーホイは釣り道具を船から降ろしている。

見守っていると、港の先端に行って、釣りをすることにしたようだ。


そのうち3人も徐々に回復して、僕たちの釣りをさせてもらった。

とはいえ、全く釣れなかったのは残念。陸の近くには、魚はあまりいないらしい。


最後の方には、皆でどこまでウキを遠くまで飛ばせるか、という競争に変わっていて、それはそれで楽しかった。

勿論ガーホイが一番だけど、二番手がユリだったので驚いた。


***


ソウを小さな浮き輪にいれて一緒に海に浮かんだり。

一人がお題を出して、皆で一人一人、砂に大きく絵を描いて出来栄えを競ってみたり。

無意味に穴を掘ってみたり。


何も考えずに遊んでいた気がする。

とても楽しかった。


***


僕たちは2泊させてもらうことになったので、夜にまた月を見に行くことができる。

ソルトが、今日こそは、と意気込んでいた。


晩御飯を食べて、皆リビングで遊んでいた時だ。

ソルトが、チラチラと僕を気にしていることに気がついた。

なんだろう。

僕も見つめてみると、目線をドアの方に向けて僕に促す。

密やかな話があるようだ。


「ちょっとトイレ」

と僕は立ち上がってみる。

「あ、私も!」

とソルトも慌てて立ち上がる。


トイレと言い出しにくかっただけかな?

僕の後ろをソルトがついてくる。


部屋を出て皆の姿が見えなくなってから、ツイツイ、とソルトは僕の服を引っ張った。

そして、ソルトはコソコソ、と、廊下の端っこに僕を連れていって耳打ちした。

「お願いがあるの」

うん、と僕は頷く。


「月を見る時、リクさんと2人きりにしてほしいの」

・・・うん。

頷いてから、ソルトの顔を見る。ソルトも頷いた。


「ありがとう」

とソルトが言った。


「・・・協力者としてユリにも伝えておいても良い?」

「リクさんにバレないようにして。自然に」

「分かった」

僕の言葉に、ソルトは真剣な顔で頷きを返してくる。


・・・ソウはその時間に寝ていてくれるかなぁ。


***


夜。

リクさんは上手くソウを寝かしつけたようだ。

今日は僕が留守番をします、と言っていたので安心した。


「じゃあ、ソウをお願いできるかな、サク」

「はい」

「なぁ、せっかく来たんだからよ、サク坊は行って来いよ。俺が留守番してるからよ」

とガーホイが僕たちの会話に入ってきた。


「・・・」

申し訳ないな、という気持ちで、答えられずに困ってしまう。

とはいえ、ユリにお願いしたとはいえ、行った方がソルトの願いを叶えやすいとは分かっている。


「ユリちゃん行くなら、サク坊もいかねぇと変だろ」

ガーホイが心配したように不思議そうに言う。


「・・・本当にお言葉に甘えても良いですか?」

「おぅ。遠慮なんていらねぇぜ」


「ありがとうございます。・・・リクさん、ガーホイさんにソウをお願いして、僕も行って良いですか?」

「あぁ・・・ソウは一度寝たらぐっすり寝る子だしなぁ。留守番いらないかもしれないんだけど・・・」

「それだと可哀想だろ」


「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて、出かけさせてもらいます」

とリクさん。

「ありがとうございます」

と僕も。

「構わねぇよ。楽しんできてくれ」

ガーホイが安堵したように答えた。


***


昨日と同じ場所に来た。

月が今日も浮かんで見える。

きれいだなぁ。


チラ、とソルトが僕たちに視線を送ってきた。

そしてリクさんを突っついている。

「私、あっちに歩いてみたい」

「うん? 良いよ」

とリクさんも答えている。


それからリクさんが僕たちに視線を向けたので、僕はニッコリ笑って手を振った。

「僕たち、あっちに行ってきます」

とユリの腕を取ってみたりする。


「じゃあ、20分後ぐらいにここに集合で」

と蒼が今いる場所を示して見せ、茜が蒼と手を繋いで肩に頭の重みを乗せるようにした。


リクさんが目を丸くしてから、苦笑した。

「了解。じゃあそれぞれに」

「はい」



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