5、お互いの理論
お互いが駆け巡る灯に勝る炎、囚われた時間がやがて自由の時となる悲しみ・・・。普遍なる宇宙の金縛りに線が揺らめく頃には、戒をも上回る憎しみに時間を割いたと笑うだろう。ただし、お互いが異なる存在で意志を受け取れたなら、その太陽の矛盾にさえ驚くだろう・・・。
――臣子家で孝弘と。
ようやく博士号を得た道彦だったが、相木俊郎社長の退任によって新社長として就任した。ところが人工生命体の開発状況に行き詰まり、業績不振に至ったのである。特に収入面はスポンサー契約が3社となり、激減していた。そこで副社長である孝弘へ相談を持ち掛けた。
―――えっと、それってどういう・・・?
「だっておかしくないか?折角俺達は妻子を持っているのに収入減退か?」
「俺だって研究成果とか受賞さえすれば知名度も収入も爆上がりだった」
「俺は人工生命体を開発したし博士号もある。そしてまた新開発を任される」
「それって振り出しだよな。未だ量産段階でもなく研究とは不便なもんだ」
「あぁ本当だよな。経営も低迷していて酷くハードな状況になったのさ」
孝弘が博士号を得るのはもっと先の事だった。だからといって更なる新型生命体を開発しなければ試験段階を踏まえることも出来ず、商品としての開発事業にも乗り込めなくなる。新事業として始めたら発表を認められたなら契約業者があるなら宣伝効果も表れると思っていた。
だが、そんなあらゆる分野で活躍するスポンサーなんているのだろうか、などと頭を悩ませていた。食べる為に。
――――だが、道彦には更なる研究ベースがあるのだった。
「それは、一体何という商品なんだ?」
「まったく・・・惜しいよ、コレは―」
それは人工生命体をベースにしたプロトタイプだった。部品として活用すれば生産業に医療分野、自動生成並びに機械開発分業、補学事業や家庭用品にも活用できるというものだった。これなら多くの開発事業費が得られるかもしれず、版権があれば宣伝費用も少なからず得られるし、生活の質も上げられるだろう、と打ち出す予定だった。
――――だが欠落しているものがある事を道彦は訴えている。
「生前の人の魂、いわゆる脳という意志とか意識がほしい!」
「それなら既にプログラム上で再現してるし大丈夫だろう?」
「そうじゃない!自然なムーブミンツが必要なんだ、“曲”が」
その当時の技術では声や音声に“震動”のような違和感があった。これが直接人体に触れると神経障害を引き起こすので長期使用は芳しくなかった。
動作も重心に沿うようになったものの、自重と重力に対する反動を生んでしまう。それなら生前の体を移植すべきだと道彦は思っている。
生命学を続けるための医師免許、つまりドナーが必要だった。
「道彦さん、孝弘さん、お茶を用意しましたよ」
「あっと佳津江ありがとう。孝弘も休憩しよう」
お互いの距離が縮まるまで、宇宙の起動はそれほど流れてはいなかった。何万、何億年もの時が流れるにつれて、お互いの理解を超越し、確かなる感触を得られる研究に没頭すると、機材や棚を机にしては、食事と酒と資料に目を配る毎日を送っていた。
その間の息抜きなら特別、問題ない訳でもなく、互いの距離と理解を補うための行動を“友”と呼んでいた事もあった。時に教師にさえ転身する事も在った程だ。
「先生、人工生命とは如何なる理由で作られたのですか?」
「元素と宇宙から織り成す遺伝生命が我等の地上に降りて来た。それは、現・人類に代わって如何なる脅威であろうとも、失われた遺伝操作によって創られた人工細胞が肉体となっていたんだ」
「では、それはどのようにして接合し、人工生命体と成ったのでしょうか?」
「医学博士文学書の一説によると、破損した我々、人間の体内が異常な加速可変動作を行う事で痛みを克服するという。別に用意された細胞変革を起こした、たった一滴の非副作用薬物を垂らし、一気に肉体の一部となる。それを失われた体の部位と結合する手術を受け、人工生命体となる仕組みである、と書かれている、」
「つまり?無理して接合すると・・・?」
「勿論、拒絶反応どころか、痛み狂うだろう。もしかするとその人工生命体の完成にこじつけられたなら、一度の点滴で同様と異なる遺伝生命体を創ることも出来るだろう。大体、機械的な古い文明で、死亡した人体の結合を行い、補助電源たる光学技術が進歩すれば勿論の事、更なる生産技術に追い付くだろう・・・」
―――あれさえ完成すれば
“世界線をも統べる生命体が誕生する”と証明したのに―――ッ!
◇ ◇ ◇
光の屈折を生命に宿している内に、虹の鉱石の存在を目にした。それにしても考え深い内容からライト・オブ・ホールやダーク・オブ・ホールから現れる遺伝子が現存するように、研究資料から見つかると、現物を見ようと山を駆け巡る。
その山はかつて道彦の両親が亡くなった跡地であったり、旅した戦地に近い場所であったり、様々、二人して完成するべきテーマを土台にして、手にしていた。前途、光学チップの要領を人工生命体の理論に活用すれば、記憶喪失が治る事を考えていた二人。
それが道彦だけ医師となって活動すると、開頭手術などしなくても頭蓋外から注射するだけで生命の遺伝子が人工的に補い、壊れた神経組織を修復、吸収させる事を発表し、成功を指せている。
それに従う様に孝弘が、生命理論を解読するとそれが道彦の手腕によって補われるという形が取られるようになっていた。
――――それを屈折すると言っていたな?
「表情筋が自然に動くという・・・」
「まあ、そうだが・・・一度に動かせるには4日間掛かるだろうし、数カ月あれば1日で元通りだ。そういう意味で屈折するだろう・・・」
――――ところで、話題を戻すけど・・・、
「それで生命たる光が湾曲すると、生命線のように屈折は丸くなるんだったな?」
「ああ、その通りだ。俺達はかつて親子だったかも知れない。もしかすると恋人だったかも知れない。逆を感じるんだ、このガラス玉の様に光源を通してみればもしかすると、ライト・オブ・ホールが“ソウル”となり、ダーク・オブ・ホールが“ヘル”へ変換される事態が起きるかも知れない!」
「かつての、最古の研究家になった気分だな、先生よォ」
「止まるなよ!そこ、支えていてくれ・・・」
「性別変更もやがて可能になるだろうから、大丈夫かも知れないな・・・?」
「現段階では、ノイズが走るレベルだから局部だけ変更可能だろうが、一度にするには2カ月間の入院治療期間とリハビリが必要だろう、」
ところで、孝弘・・・
―――テュディス・カウという言葉を知っているか?
知らないものを受入れる場合に使われる言葉だよな。一度に複製すると、破棄されるという恐ろしくも抽出しては、使えなくなると終わりを迎えるという宇宙の真理に基づく推論で使うことも出来る・・・道彦まさか?
破棄、テュディス・・・する・・・いい案かも知れない。
――破棄するなよ、再生しろよ。
破棄と再生は同じ時間帯で繰返される。
そこは白の幹に緑の葉が生い茂っていた。
それなのに、まるで水分を欲しようとしないのは何故だ?
「光合成とかつて呼ばれていた」
「今は、光斑点創と呼んでいる」
生物にも細胞がある様に、生命の血液を通す様に、光が点々と土の栄養を与えられる様に、斑点状の反射を起こしては吸収させる。かつて、向こう側の宇宙にも光たる太陽が起き得たように、創を埋め合う様にお互いの光が反響し合う。
交点と反転が交互に重なり合う時にようやく、同じ時を繰返す事から、それを“時”と判断する科学者も居たほどだ――――。




