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―3―畏怖の世界線「ジパン・バルラー」  作者: 醒疹御六時
一章、始まりの手ごたえ
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4、友よ

同じ国なのに、別の文化が交流する。

同じ大地で生きているのに、語源が異なり意味も異なる。

大事な話、大切な時間、お互いの許容範囲を超えて話し合う。


孝弘と道彦は時折、食事を共にする。

店の前を通るとグルメとは鼻を突く。

そこは“幹の鼻・デリシュス”を指す。

友よ、便利な嗅覚を得ているのか。

それとも友は有意義な時間を酒と共に嗜むのか。

現われる生命と共に、根付く大地は今日も生きる・・・。


「座るならあの店がいい。勿論、俺が奢るし一緒に食べに行かないか?」

「食べに?・・・お前も会社が設立してから安月給とか言っていたような?」

「それが実は・・・年間ボーナスのほうがねぇドンッと入っていたんだよォ!」

「え?ほんとかそれ?俺にはなかったぞ?嫁さんと子供には?もっと食わせてやれよ?」

「いやぁそれには事情があってさ、認められたんだよあの相木俊郎あいきとしろう先輩からだよ?」

「相木先輩が?あの人が?・・・もしかすると俺もそろそろ・・・!」


 彼等は28歳という年齢で副社長同士の関係となっていた。その労働対価は通常の年収よりも高く設定されている筈だった。それが相木俊郎の目指す人工生命体ビジネスという方針で年収が示された。だが実際は研究費用に見合った成果でスポンサー企業からの収入に依存しているのである。

 道彦はその人工生命体の開発責任者で、博士号をも取ってみせたのだからそれはもう孝弘からすれば、それは念願であり唾の出るほどの嬉しい事なのだ。


「あぁ、やめとけ。俺は特別だったんだ。さぁ~て食うぞォォ~ッ!!」

「ズルい!『あの研究は』もう、終わったのかぁ――ッ」


――――――待てよォォ――ッ

―――まったく、いつの間に俺が速くなったんだ?


 孝弘と道彦が自然と分かち合う。普段、仕事場で無理をしていた様だ。だから酸素量の得られないような環境で疲れていた事を病院のほうで指摘され、道彦から“偶には食べるよりもおいしい空気を吸いたい”と孝弘へ漏らしていた。


 その孝弘も取引先から“研究項目の課題について是非それを教材にどうか”と話があった。そこで道彦の方から趣味を語らう事を始めたのである。食を終えると緑が恋しくなる。



――美侍乃公園みじの・こうえんにて


「なんだかかんだ、身体を酷使するものだ」

「仕方がない。皆、夢中になるから忘れていたんだ」


 公園には多くの光子パネルが設置されている。太陽光を吸収する光線板で、浅黒の背景に青緑の図面が名称と説明文によって紹介されているものだ。このジパン・バルラーという世界では生命の温存を重きとしている。


「自然が生命に辿り着いてから、俺達は機械を扱っている」

「コアとして、人工生命体とは自然の理屈より遥かに尊い」


 技術の発展とその資材の元となる素子コケが随分と消費されてきた。我々人類は各国と資材の奪い合いにならないよう、温存することを選んだ。その資源である銀板だと17年という経年劣化で鉱石素材が必要となる為に、発明し光子パネルという歴史を生んだ。


 それとは別に、普通捨てられる筈の動物や人間の油が、煮詰める事で固まるという事から放置すれば100年から300年間もの期間は劣化しないという事から、光学パネルの保護をも可能としたのである。それが剥がれると、本機能に搭載された温度調整が成され、更に500年間の耐久度を持つという変化の兆しを施した。新たなる進化は新たなる変化であり、介入である。


「光学パネルはなぁ、」


 たとえ目が見えなくとも触れると脳幹を伝う音色を放つことで、聴膜が聞き分けられる仕様となっており方向を記憶するには大変便利だと謳われている。


 それで記憶喪失になった者の記憶が戻せるというのなら、パネルの中に搭載された、温存チップを軟膏的に扱うという意味では、人工生命体の元となる理論で遺伝子を脳の神経自体に組み入れると簡単に記憶が蘇ることを、二人は既に研究発表をしていた。


「課題、溜まるよなァ。特に文章量を纏めると脳・・・」

「これが自然で、生命が機械と呼ばれてきた由縁だよな」


 孝弘は“お前はどうして研究論文を纏めているのか”と尋ねると、道彦は“書きたいように書く、在るがままに文字は走る”と答える。

 そこには自然に関する“テーマが多い”だろうと孝弘は甘えるが、道彦は“教材は変化しないが、人は変化したがる”と応答する。

 そこで彼は自然の根源たる“波”をテーマに語ることにした。


―――話せよ、「なぁ孝弘、“話す”とは何だろう?」という具合に。

―――語れよ、「そりゃ、“落着”を決める為だろう」って感じでさ。


 道彦は“現に土から芽から大地を踏んでいる”ことを伝えたかった。それは山も宇宙へ初めて着陸した時も“到達したという感情”であると示した。孝弘は父の死から感情を捨てている。そこを“感動”に変えたなら人工生命体を理解できるだろう、と持論を呈してみせた。


「例えば・・・、俺とお前のこの場の関係を表すと・・・そこは海だった」


 二人は4歳から12歳の頃、共に出掛けた海にはゆっくりと大いなる自然を耳にした。その中で走って転んでまた走るを繰返しお互いの声を挙げていた。

 その声がやがて生命の謎を解くように、彼等は虹の空の元で砂に図面と文字や記号を描いていた。宇宙の流れは感情だけではない。

 昔と比べ随分と、季節の流れも変化していたのを感じ取れた。


「孝弘、“流れ”とは何だ?」

「“流れ”とは空気だろう?」


 道彦は焦りを隠していた。言葉で説く事の多さに肉体が付いて行かない。だから図面が必要だったのに、この日は公園に行くだけなのでペンとノートの存在を忘れていた。公園の土は既に砂もなく整地されているため指先でなぞる事すら出来なかった。だからか、声が高まる。


“だって、俺と一緒にこうしているだろう?


“まて、そりゃどういう理論だ?”


“例えば食べたり座ったり歩いたりするよ。そこはそもそも俺とも気が合うし・・・”


“聞けよ道彦。お前の言いたい事って水泳なの?”


“・・・そう。水泳の相談だって乗ってあげているし、自然っていいよな~孝弘?”


◇ ◇ ◇


 そこで道彦は著書『肉汁の滴る、血の理論』を説いてみせた。それは叔母の計らいで選んだ学校を卒業した18歳の頃に放浪の旅に出掛けていた話に遡る。その著書には戦地跡で目にした死骸を見続けた経験を取入れた内容も描かれていた。


 それが車用に開発した筈の鉄鋼で岩よりも固くてミサイルよりも速い銃弾としたのになぜ、生命を貫くのか、貫いたらなぜ血が出るのか、その血はどの栄養へ分類され移るのか等と説く。


 その戦地跡を体現したはずの彼の意味深で爽やかな笑顔が何処から来るのかと孝弘は心配したのである。


「彌汲孝弘くん、是非とも教材のテーマにしてくれ・・・よい味だったと!」

「臣子道彦博士殿、申し訳ない。学生は数式学での生態分析を求めています」


“いやいや、待てよ!血肉は肥料になるんだよ?”


“俺にはそんな趣味などないッ!生命豊かであれ~”


“まあ、そう言わずにお前のテーマに取り入れてくれ”


“だからさ、すまん、この本だけはやめてくれぇ~ッ!!”――――――


―――ところで、聞きたい事がある。

―――なんだ?

―――なぁ、宇宙は年収をも上回るのか?

―――意志の通りだ。


・・・


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