葛藤2
「もしもし、洋子か。俺だけど、今大丈夫か?」
「あら大介、今日はレコーディングじゃなかったの?」
「それがさ、路上ライブができる場所がないらしいんだ。
だから、今回のレコーディングは中止になった。
もともと満足のいく楽曲ができなかったから助かったよ」
「それで電話してきたんだ」
「うん、洋子と説子の話をメンバーにしたところ参加がOKになった。
それで山中湖で合宿をする話になって、
洋子と説子も誘われたんだけど、どうかな」
「合宿って何をするの」
「みんなの意識を高めるんだ。
スタジオを借りて曲を作ったり、セッションしたり。
今後の方向性なんかもみんなで意見を出し合って、
それにバーベキューなんかもするらしい」
「私たちは何をしたらいいの」
「まずはみんなと交流を深めることだ。
環境に慣れて、洋子たちもコーラスとか、
簡単にできる楽器で参加してみるのもいい。
ハーモニカとかリコーダーでもいいんだ」
「リコーダーって小学校や中学校でやった縦笛のこと?」
「そうさ、あれならハードルが低いからすぐにできるだろう」
「あんな楽器でロックをするの」
「洋子、今まで音楽をやろうなんて
考えたこともなかったんだから、ピアニカでもいいんだ」
「B'zとはほど遠いわ」
「ユキチがヴォーカルだからB'zというわけにはいかないけど。
洋子もロックが好きなんだからすぐ溶けこめるはずさ」
「説子も一緒でいいのね?」
「うん、みんなの了解は取ってある」
「わかったわ、まず何をすればいいの?」
「合宿のスケジューリング
とスタジオや宿泊先を決めなければならない。
みんなの意見は俺が受け持つから洋子と説子はまず
ネットで調べてどこがいいかリストアップしてほしい。
それから大部屋にみんなで素泊まりして、
食事は自炊することになったから献立と材料の手配。
スタジオはどこがいいかわからないだろうから
松本実って奴に引き受けてもらう。
宿泊代と食材の予算は1日だいたい1万円。
2泊3日で30000円以内に抑えてほしいんだ。
それから費用はみんなで引越しのアルバイトをして
稼ぐことになったから洋子と説子にも参加してほしい」
「そんなに一気にいわないでよ。日程は決めたの?」
「ウィークデイなら値段が安いし、
結構簡単に宿泊先も決まるんじゃないかな。
それに俺たちは夏休みだし」
「本当に強引なんだから、私断れないんでしょう」
「 コラ、俺の顔を潰す気か。
一番の狙いは親睦を深めることなんだから
絶対に不参加は認めない」
「わかったわ、説子に電話して相談してみる。
実さんがリーダーなんでしょう。
具体的な内容も知りたいわ。
近日中に会えるかしら」
「うん、できれば今日の午後に品川駅に来てくれないか。
俺が迎えに行くから実の家まではそこから10分ぐらい。
みんなに紹介する」
「それじゃ、今から説子に電話して折り返し連絡する」
「あいよ、それじゃあ、一旦電話を切るよ」
「うん!」
と洋子はすぐに大島説子の番号に手をかけた。
彼女はまるで待機していたかのように
1回目のコールでつながった。
「あら説子早いわね、大介から今電話があったわ。
私に協力してくれる」
「バンドに参加するっていうんでしょう。
あまり乗り気じゃないけど、洋子のためなら仕方ないわ。
そんなに大介がいいの」
「自分でもよくわからない。
ただ自分の気が済むまでやってみたいの」
「向こうは何をやれっていってるの?」
「うん、合宿をやることになったんだって。
だからみんなで一緒に引越しのアルバイトをして、
お金を稼いだら山中湖での宿泊先を決めて、
自炊をするから献立を考えて、
それから食材も揃えてくれっていうの」
「まあ、なんて無茶振りするのかしら。
洋子そのまま素直にやるっていったの。
私料理なんてまともにしたことがないわ」
「だって、断れないわよ。
私も献立なんて考えたこともないし、
料理も自信ないけど…。
彼の立場もあるし。
それに今日みんなを紹介するから
午後に品川駅に来てくれって」
「え〜今日?」




