対価1
初日から激しい雨が降っていた。
昨夜、実から連絡がきて
この日から大介は引っ越し
のアルバイトをすることになった。
スケジュールに合わせて、
働く日はみんな別々だったが、
2週間のうち5日
働く約束になっていた。
今日は実と謙二と大介が
JR品川駅で待ち合わせて、
五反田の引っ越し
センターに行くことになっていた。
大介は待ち合わせの7時30分
より15分も前に到着して、
携帯で今日の
天気予報を調べていた。
そこへ実が合流する。
「よう、大介早いな」
「初めから遅刻する
わけにはいくまい」
「心がけが違うな」
「実、ユニフォームは
あるのか」
「ああ、もちろん。
だけど、家の中を頻繁に出入り
するから、靴は履きやすい
ものじゃなきゃダメだって」
「じゃあ、紐靴じゃないほうがいいのか。
今日は俺はバスケットシューズだけど」
「次から気をつければいいさ」
そこへTシャツに
短パン姿の謙二が到着した。
「よう、待ったかい」
実がすかさず、
「いや、俺も今来たところだ。
どうでもいいけどずいぶんラフなカッコだな」
「だってユニフォーム
貸してくれるんだろ」
「だけど、短パン
はユル過ぎないか」
「そうか、夏向きで
いいかと思ったんだけどな」
「だけど雨だぜ」
すかさず大介が、
「実、もう向かわないと遅れるぞ」
「そうだな、五反田駅から
歩いて8分ぐらいと聞いて
いるから少し急ごうか」
3人は山手線で五反田駅で降りると、
中央のエスカレーター
に乗り改札口を通って、
右へ回り大きな通りへ出た。
雨はなかなか
止みそうになかった。
片側3車線の大きな通りに
出ると車の交通量も多かった。
実がiPhoneの地図を頼りに
先頭を歩いて行き、
山手通りの横断歩道を渡って、
右側にコースを変え、
しばらく歩いたところで、
小さな通りを右に入った奥に
トラックが何台も駐車
している建物が目に入ってくる。
実がそれを確認すると、
「おい、到着したようだ」
「着いたか」と謙二。
大介も携帯を見ながら
「実、急がないと」とヤバいぜ。
「奥に事務所があるはずなんだ。
急ごう」
「OK」と2人があとをついて行った。
場内はブルーと白の鮮やかなツナギ
を着た人が忙しそうに出入りしていた。
配車はもう決まっているようで、
実たちが事務所に入ると
黒縁メガネのひょろっと
背の高いおじさんが
3人に声をかけてきた。
「今日から手伝ってくれる高校生か?
サイズ別にユニフォームが
ダンボールに入っているから
早く着替えてくれ。
松本君が1番、桐原君が2番、
中村君が3番と書かれた
トラックにそれぞれ乗り込んでくれ」
と指示を出したのはここの
所長で宮崎という名前の男だった。
3人は急いでユニフォームに
着替えて指示されたトラックに向かった。
大介は2番とサイドに書かれた
トラックの前に着くと、
すでにドライバーが
運転席に座っていた。
大介は助手席のドアを開けて
乗り込むと挨拶をはじめた。
「おはようございます、
今日からアルバイトをする
桐原大介といいます。
よろしくお願いします」
「おお、新人若いな。俺は渡辺だ、
よろしく頼む。今日は天気は最悪だが、
お前ついているぞ。お客さんは単身の女子大生だ」
「本当ですか?」
「ゾクゾクするだろ」
「僕の姉も女子大生ですが、
全然魅力を感じない」
「兄ちゃん、まだまだアオイな。
身内と一緒にしちゃいけねえ」




