葛藤4
「大介、古い家ばかり。ここ高輪だよね」
「そうだ、説子。品川駅は港区にあるんだぜ」
「そういえば、芝浦も品川区じゃなくて港区よね」
「へぇー、説子わかってるじゃないか」
「大介、見くびらないでくれる」
「別に見くびってたわけじゃないぜ。普通そんなこと気にしないだろう」
「私街を歩くの結構好きなの」
「人知れず、遠くまで行ってジョギングでもしているんじゃないのか」
「なんで私がジョギングするのよ」
「だってこの頃少し躰が絞れているじゃないか」
「やっぱ隠してもわかるんだ。大介が私の躰に興味があるとは思わなかったわ」
「別に興味なんかねえよ、そんな派手な格好しても躰のラインはすぐにわかる」
「洋子、気をつけたほうがいいわよ。大介、関心のない女の躰まで観察するんだから。普段どこ見て歩いているかわかったものじゃないわ」
「説子、大丈夫よ」
「何よ、まるで問題外じゃない。私にだっていいよってくる男の1人や2人はいるんだから」
「説子、洋子に悪気はないさ」
「まあ、面白くないわ」
「なぜ説子が怒るの、おかしくない」
「なんで怒るんだろう、嫌だわ。大介なんて全然タイプじゃないのに」
「そんなこといってる間にもう着くぜ」
「あらやだ、もう敵地!」
「なんだよ、敵地って」
「いいのいいのわからなくても。でも、洋子とあの人がかちあってこれから先一体どうなるの?」
「そんなことわからないよ」
「でも大介、洋子が大切ならこんなことする必要があるの」
「説子いいってば」
「でも、洋子だって不安なはずよ。大介だけが頼りなんだから。もし裏切られたら逃げ場がないじゃない」
「説子がいいたいことはよくわかるよ。俺もどちらかを選んだほうがいいのはわかってる。だって傷ついたとしてもいつかは立ち直ってくれるだろう。でも、選べないんだ。ありのままの姿を見せて、それでも俺がいいなら、信じてくれるなら、どこにも逃げたくないんだ。洋子とユキチがいるから今の俺があるんだよ。
中途半端な気持ちではないんだ。だから、わがままを許してほしい」
「大介、大丈夫よ。そんなに思い詰めないで。私も音楽をやるきっかけになったし」
「わかったわ、もういい。口は出さないわ。楽しくやればいいじゃない。私も歌うことなら誰にも負けないわよ 。凄いんだから」
「誰でも1度は歌手に憧れるよね」
「さあ、おふたりさん、あれが実の家さ」
「あら由緒正しそうな人が住みそうな家ね。松本さんだっけ、キーボードの人でしょ」
「そうだ説子、この辺りはマンションも進出できないほど旧家が多い街なんだ。あそこにファミリーマートがあるだろう。コンビニ作るときもみんなの賛成が必要だったって話だよ。この辺はWingぐらいでしか買い物ができないから、何かあったらコンビニのありがたみがよくわかるだって実が話してた」
そう大介はいってから年季の入った扉を開けて、ふたりを玄関まで誘導した。木造家屋独特の重厚感が洋子と説子を異次元の世界へといざなう。戸惑いながら立ち止まっている彼女たちを見ながら大介は、
「実の家族も出入りするからさ、靴は邪魔にならないように奥にしまっておいてくれ。さあ、2階でみんなが待っているから急ごう」と促すと、
「本当にデリカシーのない奴」
と説子が口を尖らせながら大介の後をついて行き、洋子はこれからはじまる人間模様に少しだけドキドキしていた。




