未知(NPC)との遭遇
「おー、夕日が綺麗だ、空気も澄んでるしきっと、星空が綺麗だろうなー」
私は現実逃避をしつつようやく見つけた街道らしき道を歩いている、時刻は午後5時、お握りは食べつくしてしまった。ストレージに入っている生肉を調理をするには、せめて川原にでもたどり着かないとかなり残念なことになりそうだ。
食材や調味料があっても調理道具がなければ話にならない、ここまでに歩きながら薪に出来そうな木々や、換金できそうな薬草は拾ってストレージに入れ集めている、薪束ということで1アイテム扱いでストレージに入るのでとにかく持てるだけ持ってはストレージの薪束にまとめておいている。
手間なことをしているとは思うが、見渡しても草原、山、森しかない状況ではすることもなく見つけては拾っているのだが、休憩を挟みつつとはいえ4時間も歩いているとこの体ではそろそろ疲労で動けなくなるかもしれない、というか、しんどくてこれ以上歩きたくない。
幸いというか肉食系のケモノとかモンスターには出くわさずにここまで来られたのだが、倒れるまで疲れたら逃げられないので、いい加減火を焚いて休まなくてはと思っていた時、街道の先に天幕と集団が見えてくる。
「未知との遭遇、か、善良な人間だと助かるんだが」
念のために街道から少し外れ、近くまで歩いていくと馬車数台と天幕が見えてくる、どうやら文明のある人たちが居るようだ。
できることなら合流させてもらって町か村まで乗せていってもらいたいものだが、まっとうな人間でなければそのまま身包みはがされ奴隷として売られるとか、よからぬことがおきかねないため、慎重にその集団へ近づいていく。
「さて、なんていい訳しよう、見た目7才の子供が、旅の装備も無し、金もなし、見たこともない洋服を着て一人でこんな時間に、街道を歩いてるなんて、、、不審者だ」
①記憶喪失!
②正直に異世界からの旅人
③隠者の弟子で追い出されて、着の身着のままさまよってる
ファイナルアンサー? ③が無難そうなんだが、何で追い出されたかが問題だ、①も捨てがたい、これなら「なにもわかりません」と言ってれば通りそうだが、善良な人相手に仁義にもとる行為だ、まっすぐに目を見れそうにないなー
②を選んだら、マジでナニされるかわからないな、ぶっちゃけ②はないな、選択肢だしといて何だけど。
まぁ、善良な人間だったならの話だし、とりあえず可能な限り近づいて様子をうかがおうか、ボッチキャラ用のスキル「危険感知」「気配感知」「隠形」に期待しよう、全部1Lvしか持ってないが。
感知系スキルが告げる、これ以上近づいちゃダメよ範囲ぎりぎりからの様子をみると、どうやら10人ぐらいで商人集団のようだが良く見ると装備が冒険者並に調っている、武装商団といったところだろうか。 馬車の積荷や、人の笑い声、10代前半ぐらいの子供も居るところを見ると、たぶんだが話ぐらいは聞いてくれそうな雰囲気だ。
「とにかく話ぐらいしてみよう、最低でも現在地がわからないことにはどうにもならないしな」
いったん来た道を戻り、街道沿いに商団へ近づいていき声を掛けることにする、その前にスキル発動「偽装」GMからもらった独自スキル、これを使うとそのステータスや概観を一部変更することができる神スキル、これで目の色を茶系に変更して、ステータスの亜人を人間に書き換えてと、これで見た目は人間に見えるはず。
火を囲む人たちの顔が見えるあたりまで近づいたところで、向こうもこっちに気づいて話を止めて警戒の眼差しを向けてくる。
「すみません、道に迷っているのですが、お聞きしてもよろしいですか?」
こちらに気づいたのを確認できたところで立ち止まり、聞こえる程度の声で話しかけると、男達の一人が立ち上がり、訝しげな表情でこちらへ歩み寄り声をかけてくる。
「こんな時間に子供一人で、だれか同行者は居ないのか?」
日が暮れて薄闇になった周囲を警戒しつつ、そう言いながら私の背後や周囲に視線を送りながら近づいてくる、身のこなしからして強そうな感じがする。
年は40頃、背丈は180ぐらい、細身だがしなやかそうな筋肉がミッシリ詰まってそうな腕、物腰は礼節を持った人間の立ち居振る舞い、この集団のリーダーなのだろう。
火の回りの男達は横に置いてある武器をそっと近くに寄せている。
「はい、私一人です、近くの村か町へ向かいたいのですが、道を教えていただけませんか?」
私はあくまでにこやかに話しかける、戦う意思がないことを理解してもらうまで私が迂闊に動くことはできない。
男は私まで3歩のところで立ち止まる、距離、手の位置、目線からして、腰の後ろにナイフ以上ショートソード以下の武器があるようだ、何かあれば横なぎに喉を切り裂く気であろうことが、パッシブスキル「知る者」が教えてくれる。
このスキルは、「物質鑑定」「魔力鑑定」「人物鑑定」を同レベルで取得すると「知る者」と言うパッシブスキルに変更できる、習得ポイントが高い代わりにチートなヘルプ機能を発揮してくれるのだ、そのスキルが教えてくれる、敵対したら5秒と持たずに殺されるであろう実力差を。
内心の焦りや恐怖を押し殺し、後ろに下がりたくなるのを我慢する。
「ここから一番近くの村か町までどれぐらいの距離がありますか?」
「ここからだと、馬車で1日南に行ったところに、「ファルタ」という町があるが、そこが一番近いことになるな、見たところ何も旅支度をしてないようだが、本当に一人なのか?」
男は私に敵意がないと解ってくれたのか緊張を解くとそれとなく私の衣服を品定めしているようだ、敵ではなければ次は商売っ気が出るのか、見たこともない製法の衣服に思わず足が一歩前へでるほどのようだ。
「 「ファルタ」ですか、南に1日は私の足では少し遠いですね、商人さんのようにお見受けしますが、宜しければ少し話を聞いていただけませんか?」
男は私の対応や口調を聞いて一瞬驚いたような目をしたが、すぐに表情を消すと商人らしい笑顔で答えてくれた。
「私は、ファーレン商業組合のロンダと申します、よろしければあちらで火に当たりながらお話をお聞かせいただけますか?」
年齢に合わない丁寧な口調と衣服から私の事を貴族だと思ったようで、言葉遣いを改め自分達のキャラバンに案内してくれた。
「失礼しました、私の名前はエイジア・アーガスと申します、宜しくお願いします」
「そうでしたか、なるほど大変な目にあわれましたな、大丈夫ですよファルタまでは私達キャラバンがお連れいたしましょう。」
私は火に当たりながら供された食事をありがたくいただき、これまでの経緯を話していた。
私はとある魔術師の家の者で、師でもある父親と共に転移魔術を研究していたところ、私が誤って転移魔法陣を発動させてしまいこの近くの草原に転移したこと、とりあえず実家に連絡をつけるのに近くの町へ向かっている途中であること、実験最中だったため装備と言えるものも所持金もないことを説明し、道ながら集めた薬草をポーションにしてお金を捻出するので町までの同行をお願いしていた。
「すみません、助かります、町に着いたら費用はお支払いできると思いますので、宜しくお願いいたします。」
せっかく貴族だと思ってくれているので、社会人経験を活かし礼儀正しく話を進める。
「明日の早朝には出立して、昼過ぎには町に到着するでしょうから、子供達と同じ天幕で申し訳ないのですが今日はそちらでお休みください。」
ロンダはそう言って天幕へ案内し、中で休んで居た子供にエイジアの接待を命じて焚き火へと戻っていった。
お読みいただきありがとうございます。
しばらくヒロインとTueeが出てきませんが、飽きれずにお付き合いいただければと思います。
一部改稿しました。