ゴブリンのアジトへ
ゴブリン退治の依頼を引き受けたムラサメとリミスは、遭遇したゴブリンの群れを一掃した。その中で、ムラサメは群れを率いていたゴブリンのリーダーを操り、アジトへ案内させた。
歩き始めて数分後、ムラサメたちの前に小さな洞窟が現れた。周りに人の気配がないため、アジトにするならここがうってつけだなとリミスは思った。
「あの中にゴブリンがいるようだな。よし、中にいるゴブリンの数と、お前の上司について教えてくれ。そうだ、分かりやすいようにジェスチャーで教えてくれ」
ムラサメがこう言うと、ゴブリンのリーダーは指や体を使って自身が所属している群れのことについて説明を始めた。ジェスチャーを見て、リミスは大体のことを理解した。
「ゴブリンの数は三十匹。そのうちでかい奴が一匹いて、そいつがあんたの上司ってわけね」
「詳細は分かった。それじゃ、こっちから仕掛けるとするか」
ムラサメは笑みを浮かべ、ゴブリンのリーダーに近付いた。しばらくして、ゴブリンのリーダーはふらつきながら洞窟へ向かった。
「あいつに何かしたの?」
様子が気になったリミスは、ムラサメにこう聞いた。ムラサメは笑みを作りつつ、答えた。
「アジトに戻って、仲間に攻撃を仕掛けろって命令した。仲間から攻撃を受ければ、あいつらは混乱するだろうなー」
「あんた、結構鬼畜なことを考えるわね。同士討ちって酷なやり方だと思うけど」
「俺が読んでいた本だと、ゴブリンは弱い旅人を襲ってえげつないことをしたり、美人は捕まえてエッチなことをしたり、とにかくえげつないことをするもんだ。こっちの世界のゴブリンもそうだろ?」
「まぁ確かに。ゴブリンのせいで被害を受ける人は少なくないわね」
「だろ? ちったーあいつらにはお仕置きが必要ってわけだよ」
と、ムラサメはリミスに向かってウインクをした。
ゴブリンのアジト内。ムラサメの催眠によって操られたゴブリンのリーダーは、ふらつきながらも仲間がいる部屋に到着した。ゴブリンのリーダーの姿を見た他のゴブリンは、歓喜の声を上げながら近くに置いてある水が入ったジョッキを渡したり、手を付けていない骨付き肉を渡した。その様子を見ていたのが、部屋の奥に座り巨大なゴブリン、デカボスゴブリンであった。
「あいつの様子がおかしいな。おい、俺の元に連れてこい」
デカボスゴブリンは近くにいた部下にそう言うと、部下はその言葉を聞いてすぐにゴブリンのリーダーの元へ向かった。だがその時、ゴブリンのリーダーは近くにあった包丁を手にし、目の前にいたゴブリンの額に突き刺した。その様子を見ていた他のゴブリンは驚き、慌てふためいた。ゴブリンのリーダーは走って逃げる仲間を追いかけては、手にしている包丁を振り回して攻撃し、近くにいる仲間に対しては何度も仲間の体に包丁を突き刺した。
「あいつ、正気を失ってやがる! 殺してもいい、あいつを止めろ!」
デカボスゴブリンの命令を聞いたゴブリンは、近くにある弓矢を手にし、ゴブリンのリーダーに向かって矢を放った。放たれた無数の矢はゴブリンのリーダーの体に突き刺さったが、それでも動きは止まらなかった。操られたゴブリンのリーダーによって、次々と斬られて倒れていく部下を見て、デカボスゴブリンは歯ぎしりしながら立ち上がった。
「俺がやる! お前らは下がってろ!」
デカボスゴブリンはこう叫ぶと、手にしている巨大なハンマーを振り上げ、包丁を持って暴れているゴブリンのリーダーに向かって振り下ろした。巨大なハンマーは、ゴブリンのリーダーを押しつぶしつつ地面を激しく打ち、周囲の置物を吹き飛ばした。攻撃を終えた後、デカボスゴブリンはハンマーを上に上げ、ゴブリンのリーダーの潰れた死体を目にした。
「こいつは確か、二匹の部下を引き連れて外に出て行った奴だ。何があったんだ?」
「テメーがボスか!」
声を発しながら、魔力を開放したムラサメがデカボスゴブリンに飛びかかり、その右頬に拳を鎮めた。攻撃を受けたデカボスゴブリンは悲鳴を上げながら吹き飛び、後ろの壁に激突した。
「ぐっ、貴様の仕業か!」
「だとしたらどーする? テメーがぺったんこにした仲間の仇討ちでもするのか鬼畜野郎」
ムラサメは挑発する仕草をしながらこう言った。デカボスゴブリンは怒りで体を震わせながら、周囲にいる部下に向かって叫んだ。
「あの猫の獣人をぶっ殺せ! あいつの体が気に入ったなら、性処理の道具としても使っていい。とにかくあいつを止めろ!」
「俺をヤる気か? 悪いが、テメーらみたいな気持ち悪い奴らと一発なんざ死んでもごめんだ!」
そう言いながら、ムラサメは<イビルアイ>を発動した。ムラサメの目を見たゴブリンの群れは催眠にかかり、動きを止めた。
「おい、どうした! どうして動きを止めた!」
「悪いねぇ、お前の大事な大事な部下、ぜーんぶ俺が貰っちまったぜ! ゴブリン軍団、あのデカブツに総攻撃を仕掛けろ!」
ムラサメの命令を聞いたゴブリンの群れは、デカボスゴブリンに向かって襲い掛かった。
どうしてこうなった?
心の中でそう思いながら、デカブツゴブリンは襲ってくる仲間の対処を始めた。
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