↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/4

六月の読切(よみきり)・後編

 前(まえ)の机(つくえ)に座(すわ)っている彼女の背中(せなか)へ、私が説明(せつめい)を求(もと)める。つくづく、作業(さぎょう)机(づくえ)が向(む)かい合(あ)わせになってなくて良(よ)かったと思(おも)った。面(めん)と向(む)かってストレスが溜(た)まる会話(かいわ)を続(つづ)けていたら、今頃(いまごろ)、彼女の鼻(はな)は私のパンチで折(お)れていただろう。


「うん。さっきも言(い)ったけどストーリーも決(き)まってないからね。だからヒロインが誰(だれ)かも決(き)まっていないのよ。だから思(おも)ったの、『さぁ、皆(みんな)で戦(たたか)って、ヒロインの座(ざ)を勝(か)ち取(と)って見(み)せなさい!』って。これ、新(あたら)しい創作(そうさく)方法(ほうほう)だと思(おも)わない?」


「思(おも)わないわよ。どうせ問題(もんだい)が起(お)きて、上手(うま)く行(い)かなかったんでしょ。だから問題(もんだい)って何(なん)なのかを説明(せつめい)しなさいってば」


「ええ、そうよ。上手(うま)く行(い)かなかったの。とりあえず頭(あたま)の中(なか)で、バトルロイヤルで戦(たたか)わせてみたんだけどね。誰(だれ)を勝(か)たせればいいか、それが分(わ)からなくなっちゃったのよ」


 あー、なるほど。一人(ひとり)ジャンケンで、自分(じぶん)の右手(みぎて)と左手(ひだりて)を戦(たたか)わせたら、いつまでもアイコが続(つづ)いて決着(けっちゃく)がつかないというような状況(じょうきょう)だろうか。藤子(ふじこ)〇二(じ)雄(お)先生(せんせい)のマンガで、そういう描写(びょうしゃ)があったなぁ。


「話(はなし)の都合(つごう)でしょ、結局(けっきょく)。基本的(きほんてき)にはヒロインが勝(か)つストーリーが、読者(どくしゃ)から好(この)まれるんだから、そういう展開(てんかい)で完成(かんせい)させればいいのよ。ヒロインを先(さき)に決(き)めないから、『誰(だれ)を勝(か)たせればいいか分(わ)からない』なんて言(い)って困(こま)ってるだけじゃないの」


「違(ちが)うのよ、そういうことじゃないわ。誰(だれ)がヒロインだろうが、誰(だれ)が勝(か)とうが、必(かなら)ず問題(もんだい)が発(はっ)生(せい)しちゃうのよ。それで今(いま)、私は困(こま)ってるの。ねぇ、どうしたらいいかしら?」


 さぁ、私のパートナーが、本格的(ほんかくてき)に訳(わけ)の分(わ)からないことを言(い)い出(だ)した。そろそろ私は、彼女の頭(あたま)をはたいて、物理的(ぶつりてき)に脳(のう)をシャットダウンさせるべきじゃないだろうか。


「だからさ、問題(もんだい)って何(なん)なのか、そこの説明(せつめい)がされてないのよ。話(はな)しなさい、早(はや)く!」


「ああ、そうだったわね。うっかりしてたわ。じゃあキャラクターの説明(せつめい)に入(はい)るけど、さっき話(はな)してたカ〇コンのスト6(シックス)みたいな世界(せかい)を思(おも)い浮(う)かべてね。そこで活躍(かつやく)する女子(じょし)のキャラクターを複数(ふくすう)、イメージしてほしいの。身体(からだ)が大(おお)きくて筋肉質(きんにくしつ)のキャラ、胸(むね)が大(おお)きいキャラ、お尻(しり)が大(おお)きいキャラ。逆(ぎゃく)に身体(からだ)が小(ちい)さい、子(こ)どもみたいなキャラ。太(ふと)ってるキャラ、スリムなキャラ。まあ、そんな感(かん)じで」


「思(おも)い浮(う)かべたけど……それで? さっき言(い)ってたわね、『誰(だれ)が勝(か)とうが、必(かなら)ず問題(もんだい)が発生(はっせい)しちゃう』って。どういう意味(いみ)なのよ?」


「順(じゅん)に説明(せつめい)するわ、まず身体(からだ)が大(おお)きくて筋肉質(きんにくしつ)のキャラね。スト6(シックス)にもいる、あんなタイプ」


 ああ、ヘビー級(きゅう)のボクサーみたいな、そんなキャラクターがいたなぁ。あのキャラ、投(な)げ技(わざ)も強力(きょうりょく)だったと私は思(おも)い起(お)こした。そうしてると彼女が説明(せつめい)を続(つづ)ける。


「それでね。マンガってキャラごとに区別(くべつ)しやすくなるように、極端(きょくたん)な差(さ)を付(つ)けるじゃない。【身体(からだ)が大(おお)きくて筋肉質(きんにくしつ)のキャラ】だと、まあ一八〇(ひゃくはちじゅっ)センチ以上(いじょう)とかで、他(ほか)の女子(じょし)より少(すく)なくとも十(じゅっ)センチ以上(いじょう)の差(さ)があって。当然(とうぜん)、体格(たいかく)も体重(たいじゅう)も、他(ほか)の女子(じょし)より上(うえ)なのよ。これって現(げん)実(じつ)的(てき)に考(かんが)えたら、戦(たたか)って勝(か)つのは当(あ)たり前(まえ)じゃない? 男子(だんし)と女子(じょし)が戦(たたか)うようなものだし」


「いや、そうかも知(し)れないけど。私たちが描(か)くのはフィクションだからさ。何(なに)も問題(もんだい)ないでしょうよ、体(たい)格(かく)差(さ)がある戦(たたか)いを描(か)いたって。筋肉(マッスル)キャラが勝(か)ってもいいし、別(べつ)のキャラが勝(か)ってもいいのよ」


「いやぁ、文句(もんく)を言(い)う読者(どくしゃ)って、世界(せかい)の何処(どこ)かには居(い)ると思(おも)うなぁ。『トランス女子(じょし)は、女子(じょし)じゃない!』って、声高(こわだか)に主張(しゅちょう)する人(ひと)とか。男性(だんせい)から女性(じょせい)に性別(せいべつ)変更(へんこう)しても、絶対(ぜったい)に女性(じょせい)だとは認(みと)めない人(ひと)とかね。そういう読者(どくしゃ)は『こんな、男(おとこ)みたいな女(おんな)を出(だ)すな!』って言(い)ってくると思(おも)うのよ。問題(もんだい)だわ」


「知(し)らないわよ! ハリー・〇ッターの作者(さくしゃ)がトランス女性(じょせい)を認(みと)めなくても関係(かんけい)ないわよ! 大体(だいたい)、『絶対(ぜったい)に認(みと)めない』って姿勢(しせい)の、狭量(きょうりょう)な読者(どくしゃ)には何(なに)を主張(しゅちょう)しても無駄(むだ)だし不毛(ふもう)でしょ。いいから貴女が言(い)う、『問題(もんだい)』に付(つ)いて説明(せつめい)を続(つづ)けて。次(つぎ)は【胸(むね)が大(おお)きいキャラ】の話(はなし)だっけ?」


「ええ。これも最近(さいきん)は、コンプライアンスの問題(もんだい)で描(か)きにくくなったわ。ちょっと前(まえ)に日(にっ)〇新(しん)聞(ぶん)で、巨乳(きょにゅう)のキャラが出(で)てくるマンガの広告(こうこく)を大(おお)きく載(の)せたら、国連(こくれん)女性(じょせい)機関(きかん)が抗(こう)議(ぎ)してきたし。もし巨乳(きょにゅう)キャラが格闘(かくとう)マンガで勝(か)ったら、『はいはい、男性(だんせい)読者(どくしゃ)に媚(こ)びたいのね』とかバカにしてくる読者(どくしゃ)が出(で)るわね。かと言(い)って【お尻(しり)が大(おお)きいキャラ】が勝(か)ったら、『男(おとこ)を尻(しり)に敷(し)いてくる女(おんな)かよ、うぜぇ』とか言(い)われるのよ。八方(はっぽう)塞(ふさ)がりだわ、問題(もんだい)ね」


「知(し)らないわよ! どうせ私たちのマンガはそんなに注目(ちゅうもく)されないから! ついでに言(い)えば、胸(むね)もお尻(しり)も個性(こせい)でしょ。女子(じょし)テニス選手(せんしゅ)の胸(むね)やお尻(しり)が大(おお)きかろうが、何(なに)も問題(もんだい)ないから!」


「他(ほか)のキャラも、【身体(からだ)が小(ちい)さい、子(こ)どもみたいなキャラ】だと『ロリコンかよ。こんな小(ちい)さなキャラが強(つよ)いとか無理(むり)があるだろ』と言(い)われるし。【太(ふと)ってるキャラ】はブタとか言(い)われて馬鹿(ばか)にされて、【スリムなキャラ】は『モデルみたいな体型(たいけい)ですね。表面的(ひょうめんてき)な美(うつく)しさしか認(みと)めないのは差別(さべつ)だと思(おも)います』とか言(い)われるのよ。どうすりゃいいのか分(わ)からないわ、問題(もんだい)ね」


「いいのよ、フィクション! フィクションなんだから! フ〇ーレンなんか子(こ)ども体型(たいけい)でスリムな魔法(まほう)使(つか)いじゃない! 魔法(まほう)や気功的(きこうてき)なエネルギーで解決(かいけつ)よ。太(ふと)ってる女性(じょせい)を馬鹿(ばか)にする読者(どくしゃ)は論外(ろんがい)だから、論外(ろんがい)!」


「そこでね、最初(さいしょ)に言(い)ったでしょ。『女性(じょせい)キャラの足(あし)って、重要(じゅうよう)だと思(おも)うの』って。足(あし)が綺麗(きれい)なキャラって、描(か)いても批判(ひはん)は、されにくいと思(おも)うのよ。貴女の足(あし)って綺麗(きれい)だから、ちょっと良(よ)く見(み)せてくれない?」


「マンガの話(はなし)を描(か)けぇ! ハイキックでも喰(く)らわせてやろうかぁ!」


 いつまで経(た)っても文字(もじ)通(どお)り、話(はなし)が進(すす)まない。今(きょ)日(う)中(じゅう)に読切(よみきり)マンガのネームを完成(かんせい)させないといけないのだ。私たちの遣(や)り取(と)りは夜(よる)遅(おそ)くまで延々(えんえん)と続(つづ)いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。