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やわらかなるバレンタイン生活♪①

バカばかりです♪

『聴け!万国に巣くう孤独感にさいなまれし同志たちよ!!』


「「おおっ!!」」


特産品がワカメだけの地方都市に存在する、県立中学の運動場の一部をかねた広やかな屋上において、ちょっとアレな男子三人だけの【バレンタイン決起集会演説】が今、始まった。


『聴け!われら同志諸君!われわれ日本人の半分を占める男達が【決戦の日】と定めし運命の月日げつじつ。すなわち2月14日のヴァレンタインデーイ♪が今年もやって来たのだ!!』


「「やって来たのだ!!」」


演者でリーダー役の男子は、黒縁メガネのレンズ輝く細身の将来有望(自称)な若人わこうどであり、その彼が、屋上の一段高い位置に設置してある今時珍しい給水塔の金網を左手で鷲掴みにし、力強く右手の拳を天にも届けとばかり突き上げている。


ちなみに直下のコンクリ屋上の上で囃し立てる同級生の二人も、彼と似たり寄ったりの背格好で黒縁メガネのひょろっこい男子どもだ。


『我々が揃いも揃って生まれ落ちてからこれまで、【ヴァレンタインデーイ♪】なる〝チヨコレイトの祝祭〟から、これ見よがしに排除され虐げられ踏みつけられても負けずに歯を食いしばり、毎年毎年、周囲のクラスメイトたちがカップル化するのを横目に見ながら一切妥協せず、人としての底辺同然の扱いを受けても耐えに耐え忍んで生きてきたのは、一体なんのためだ!!』


「チヨコを勝ち取りたいが為である!!」


「人目もはばからず、チュッチュしているアホどもを見返してやるためだ!!」


『違う!諸君!それは断じて違う!!』


 将来有望なメガネ若人が、ツバキを盛大に下に飛ばし【左手】で大きく振りかぶって、力強く同志諸氏の意見を否定する。 


「ちょ!きたね!!」


「ツバ飛ばすな!ツバ!!」


ふたりの同志諸君の猛然たる抗議もなんのその、リーダーメガネは両手の拳を空に向かってグイっと突き出し演説に熱を込める。


『聴け諸君!そうではない!そうではないのだ!!』


「おまえこそ人の話聞けよ?!」


「勝手気ままな独裁者か!!」


『独裁?!そう独裁だ!独裁主義なのだ!!ヴァレンタイン・チヨコレイトこそ独裁政治の象徴なのだ!!』


「あれだろ、バレンタインにチョコ食べる様に仕向けたのはお菓子会社の陰謀とかいうアレだろ?」


「ああそれ、オレも聞いたことあるわ」


『それを資本家どもの独裁と云うのだ!!』


「「言わないぞ??」」


キョトンとする同志二人を尻目にメガネ男子たぶんリーダーは、青春の脂みなぎる額に汗をにじませて給水塔のてっぺんに繋がる鉄梯子てつはしごに左足をかけ、右手でしっかり鉄の棒を握り、ツバキをいっぱい飛ばして演説の勢いに拍車をかける。


「だから汚ねーって!」


「自重しろよおまえはよ!口ふけ口を!」


『シャラップ!だまらっしゃーーい!!』


うへっ!と、同志諸君は一歩、二歩、それぞれの心境に応じて後ずさりする。


これを見て取ったメガネ男子(勢いを得たリーダー格)は、彼らの態度に満足げにニヤリとほくそ笑んだ。


『諸君、親愛なる同志諸君!考えてもみよ!我々にとってチ・ヨ・コ・レ・イ・トなぞ、この世のどこにでも存在するありふれた嗜好品の一つでしかない!謂わば、ただの甘味品なのである!!そう大はデパートからスーパー。小は街角のコンビニから商店街の雑貨屋に至るまで、質さえ問わなければどこにでも格安で手に入る人類が生み出した汎用品・大量生産物のひとつにしか過ぎないのだ!!我々は、その重要点にこそ留意せねばならないのである!!』


「まあ確かに。安いっちゃ安いわな 」


「でも、くっそ高いのはスッゲ旨いけどな」


二人は笑顔で肩を叩きあって意気投合する。


「で、それがチヨコレイトの、なんだって?」


「そうだ!なんだなんだ!」


少しだけ怒気どきはらんだまなこで壇上の、、、もとい給水塔の端っこにスックと孤高に立つ若人メガネを、同志ふたりは威嚇しながら睨み付けた。


『諸君待たれよ。しばし、暫しの間、我の言葉を聞きたまえ!』


「あー。ハイハイ」


「聴いてやるからサッサと話せよ」


苛立つ二人に両足のすねを掴まれていたメガネっ子は、『ふぃー。とかく此の世は暴力的である』と安堵の声を発し、いざとなったら使おうとしていたゲパルト棒、略称〝ゲバ棒〟こと好物の〝どデカビッグ甘い棒〟入りのパッケージを背中にあるか確認していた。


彼は、このわりと固い棒菓子(メーカー希望小売価格300円・消費税含)を粉々にして、吸い込むように食べるのが気に入っている。


『さ、さきほど同志諸氏らは、この重大な点を無視して、チヨコレイト様こそが、我々が手にすべき神聖にして不可侵の御神体であると発言したのだ!!』


「いや、オレそこまでは言ってねーけど」


「チヨコさんにそこまでの思い入れはない!」


『再びだまらっしゃい!!チヨコ様の存在価値にも及ばない下賎げせんで小汚ないお前達が、チヨコ様は気安く口ののぼせてよい御方ではなぁーーい!!』


この瞬間。チヨコレイトは【麗都千夜子れいとちよこ】となり、彼らの心の中で顕在化し擬人化を果たした。


『だか、しかしである!我らが女神であり抗う術のない書記長である千夜子同志には、決定的に足りない部分があるのは確かなのだ!!』


「おいこいつ!我が党の最高指導者である【千夜子同志】に疑義を申し立てたぞ!!」


「重大な党規違反だ!!全人民を代表して逮捕せざるを得ん!!壇上から引きずり下ろせ!!我々は弾劾裁判だんがいさいばんの開催をここに要求する!!」


『ぬわ!同志諸君なにをする?!』


いったいなんの主義主張をもった政党なのか、そもそも世界のどこらあたりに存在しているのか、党名が何というのかも全く意味不明ながら、彼ら二人のあいだには確かに【我が党】への、いやそれどころか、世界のどこにも居もしない、もとはチョコレートの仮想人物【千夜子書記長】への絶大な忠誠心が具現化され心のうちに芽生えさせてしまったのだ。


そしてこの異様に高揚した気分が彼ら自身を囃し立て、彼らのリーダー格である黒縁メガネに対する暴挙へと心情を変換させるのに最早もはや躊躇ちゅうちょするいとまを与えはしなかった。


「革命だ!!この虚言きょげんていする為政者いせいしゃを、隠れ独裁者を我々の手で総括するのだ!!」


「いまこそ我々人民が正しい政治に人々を導くときである!!」


『ちょ!待って!ボクの純血ブリーフを引っ張らないで!!脱げちゃうから!!見えちゃうから!!ボクのデリケートゾーン的チェリーボーイ君が白日はくじつの下にさらされちゃうから!!』


いつの間にリーダーメガネは独裁政治家になったのか、どうかしているメガネ男子たちは給水塔の上と下でバカ騒ぎを始めた。


今は放課後。太陽はすっかり西に傾き陽射しは赤く大地を染めている。白日ってなんだっけ?


「「お前ら!何を屋上で騒いでいる!!」」


バタン!!


「あっ、やっべ!!」


「担任と学年主任だ!!」


『おいお前ら逃げるぞ!!』


突如、屋上に上がるために設置された階段に繋がる両開きの扉が大きく開かれ、ふたり組の男性教諭がなだれ込んできた。


それを見た三人は一斉に駆けた。もうね、捕まってたまるかとただ力一杯に駆けて逃げ出した。


そして、あらかじめ開けっ放しにしていた先生たちが出てきた扉から見て反対側の、東の屋上出入口の中へと転がるように飛び込み、そのまま一目散に校舎一階の下駄箱のある玄関の廊下に踊りでた。


「ひい!ひい!」


「ふへへぇー!先生追ってきてないよな?」


『だ、大丈夫だ。どうやら巻いたらしい』


ふひー。。と、彼ら三人は背中合わせで円座を組み、下駄箱ちかくの正面ホールの隅っこでへたり込んだ。


『くっそ!俺たちがなにしたってんだ!』


どの口が言うのか。


「せっかくセットしたイケてる髪型が台無しだ」


「オレなんか、【メンズoh no!】に載ってた通りのラフメイクをキメてたのに、見ろ!めちゃくちゃだよ!」


『あっ!だからお前なんか臭かったのか!』


「臭くねーよ!!ちょっと父ちゃんのポマード借りただけだよ!!」


「『昭和か!!』」


つい最近ネットで見た昭和時代の学生運動にかぶれた、付け焼刃全開の痛い三人組が何か言っている。


『にしてもだ。一カ月前の1月14日から今日まで、普段ならめんどくさくてする気さえ起らなかったイケてるおしゃれをさり気なくしていたというのに、誰も彼も女子たちは【千夜子書記長】を俺たちにみつがないのはどういう訳だ』


「さあな」


「頑張ったのにな」


彼らは女子の誰でもいいから気を引き釘付けにし、念願のバレンタイン・チョコレートをゲットし、あわよくばくれた女子を彼女となして、次いでに初体験まで済ませてしまおうと画策していたのだった。


まさに見事なまでの【絵に画いた餅】スタイルである。


つまりは、心の底からのバカたちであった。


        

        


            

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