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喪女ですが不本意ながら聖女になりました  作者: 川音
第2章 喪女、助聖女選抜試験をうける
23/32

23. あの美少年は誰?


 わたしは最後列から前を見渡した。

 この女子校(仮)はすでにスクールカーストができあがっている。


 祭壇の真正面を陣取る、乗馬服姿のヴィクトリア。

(第1階層 クイーンビー=学園の女王様)


 そのまわりを囲む、信奉者たち。

(第2階層 サイドキックス=クイーンビーの取り巻き)


 そのうしろに並ぶ、ドレス姿の女の子たち。

(第3階層 その他大勢)


 さらにそのうしろにいる、粗い生地の長そで長ズボンを着たわたし。 

(第4階層 ナード=スクールカースト下位の者たち)



 ぐぬぬ……!


 いまは底辺にいるけど、絶対試験に合格して這い上がってやるんだから!



――と、心のなかで闘志を燃やしていたら、前のほうから稲妻のような歓声がわきあがった。



「キャー! 教皇様ー!!」


「まさかお目にかかれるなんて!」


「ルキウス様もご一緒よ!」



 感極まって泣いている子や、いまにもぶっ倒れそうになっている子もいる。

 街角に大スターがあらわれたかのような熱狂ぶりだ。



 祭壇に姿をあらわしたのは2人。


 1人は神々しい祭服を身にまとった老人。


 金色の宝冠。

 サンタクロースみたいに豊かなあごひげ。

 白くて光沢のある長衣を着て、その肩に豪華な金色の帯をかけている。

 背筋はピンと伸びていて、背丈と同じくらい長い金色の杖を持っている。



 もう1人は黒い立て襟の祭服――カソックを着た少年。


 控えめに言っても、二次元の住人としか思えないくらい類まれな美少年。

 少しくせのある金髪がすっきりした頬を飾っている。

 鼻梁と唇の端麗さは、神様が時間をかけて丁寧に丁寧につくりあげた奇跡のようだ。

 そんな完璧な美少年が禁欲的なカソックを着ているのだからたまらない。



「ルキウス様!」


 祭壇の真下から恋する乙女の声で呼びかけたのは、なんとヴィクトリアだった。


 それを碧色の双眼が冷たく一瞥する。

 まさに凍てついた星の輝き。

 あの縦ロールお嬢様を無視するなんて、この美少年はいったい何者なんだ?


 わたしは小声でクララに問いかけた。


「ねえ、あの美少年は誰?」

 

「あのかたはルキウス・フォン・テオドロス様。聖女マリアンヌ様と、元皇太子のユリウス様との間に生まれたお子様よ」


「あ、それなら聞いたことある。たしかバルドル神の化身って言われてるんだよね?」


「ええ。本当にお美しいわよねぇ……」


 クララはうっとりした目で祭壇に立つルキウスを見つめた。


「……あんなに素敵なのに、女嫌いなんて残念……」


「え? じゃあ男好きなの!?」


 思わず「ウホッ!」と叫びかけたが、残念ながらそういうわけじゃなかった。


「ちがうわよ! ルキウス様は自分の生まれのことを散々責められて育ったから、恋愛がお嫌いらしいの」


「へー」


 なるほど。推測できなくもない。


 父親は姦通罪で処刑。

 母親は光の加護を喪失。

 両親が性行為をしたせいで、世界は暗黒時代に突入した。


 そんな両親から生まれたルキウスが「自分の存在は罪」→「性行為は罪」→「恋愛は罪」→「女は嫌い」と順々に思春期をこじらせていったのはしかたのないことだったのかもしれない。



 クララはルキウスをかばうような発言を続けた。  


「でもルキウス様に憧れている女の子は大勢いるのよ。あのヴィクトリア様だってルキウス様にお熱なんだから」


「まああれだけの美少年だったらねぇ……」


 女嫌いなところまで魅力的だと思っちゃうかもね。 


 そういえば彼はガーディの子孫にあたるはずだよね?

 生前のガーディもあんなに美少年だったのかな?




 クララとこそこそ話をしていたら、急にまわりが静かになったのであわてて口を閉ざして前を見た。


 サンタクロースのおじいさん――じゃなくて、教皇が祭壇の中心に立っていた。

 その斜め後ろにルキウスが立っている。


――教皇なんかきっと邪悪な面構えの黒幕なんだ――


 そう思いこんでいたのに、実際に見てみたら、おだやかな顔つきの好々爺だった。



 教皇がゆっくりした口調で言葉をつむいでいく。


「みんなよく集まってくれたのう。これから1次試験の説明を行うぞい。いまからわしの言うことをよ~く聞いて、決して忘れないようにしておくれ」


……ざわっ


 神妙な顔で聞いていた女の子たちがそわそわしはじめる。

 教皇みずから試験監督をしてくれるなんて恐れ多くてとても信じられないようだ。

 むしろわたしは、その庶民的な言葉づかいのほうに驚いていたけれど。


「筆記用具をもってきた者はメモをとってもいいぞい。今回はわしの孫娘も参加しておるが、けっしてエコヒイキはしないから安心して試験に挑むがよい」


 わたしは肩にかけていたトートバッグから鉛筆とメモ帳を取り出した。

 クララに『使う?』とクチパクで聞いたら、首を横にふられた。

 メモ取りは社会人の基本なのに……。

 異世界の17歳の女の子にサラリーマン文化を押しつけることはしないけど。

 

「ちなみにうしろにいるのは助手のルキウスじゃ。試験中なにか困ったことがあったらルキウスに助けを求めるがよい。ただしルキウスはただでは動かんぞ。わしのお願いだってなかなか聞いてくれないんじゃ。このまえも菓子が食べたいと強請ねだったら、大聖堂のまわりを1周歩いたら許すと言われてのう……」


「私の助力が必要ならば、相当の対価をいただかないと困ります」


 いままで黙っていたルキウスがはじめて言葉を発した。

 声変わりの途中なのか、地声と裏声が混じったようなかすれた声をしている。


 教皇はわざとらしくプルプルと怯えた演技をした。


「ああ、ルキウスは恐いのう……。では、受験者には対価に何を望むんじゃ?」


「そうですね。私の助力が必要になったときは、私の目の前でスクワットを10回していただきましょう」


――キャーッ!!


 女の子たちがいっせいに悲鳴をあげた。


 みんな相談にかこつけてルキウスとお近づきになりたいと思ったんだろうけど、憧れの人の前でドレスでスクワットは恥ずかしいよね。

 

 でも、そんなひらひらのスカートをはいてくるほうが悪いのさ!


 わたしはフフンと荒い鼻息を出しならメモを書いた。


『美少年の目の前でスクワット10回』


 この指示にいったい何の意味があるんだろうと思いながら……。

ブクマ、評価、ありがとうございます!(><)

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