22. 神様なんてどこにも存在しないのでは?
リーン、ゴーン……
リーン、ゴーン……
凍りついた広場に、朝8時を告げる鐘が鳴る。
同時に、大聖堂の正面入り口がひらかれた。
大聖堂の入り口は、巨大で精巧な3連の扉で構成されている。
あいた扉の左右には、半球体の水晶玉をもった修道女が立っていた。
そのなかの1人が大声をはりあげる。
「受験者の皆さま! 6列にお並びいただき、受験カードを水晶玉におかざしください! 受付が終わりましたら、大聖堂奥の主祭壇前までお進みください!」
その説明を聞いて誰より早く動いたのは縦ロールのご令嬢――ヴィクトリアだった。
他者を寄せつけない圧倒的存在感で、中央の扉にむかってモデルウォーク。
スタイリッシュに受験カードをかざして「お先に失礼いたしますわ」と艶やかに笑い、赤茶色の巻き髪を揺らしながら大聖堂の奥に消えていった。
「キャー!!」
「ヴィクトリア様! ステキー!!」
信奉者たちがあとを追いかけて扉に殺到する。
それにつられて他の女の子たちもあとに続き――。
あっという間に6本の列が形成された。
パッと見、1列あたり100人以上並んでる。
1次試験の受験者はおそらく1000人を超えているだろう。
わたしとクララも、おしゃべりしながら列に並んだ。
「ねえ、ショーコって何歳?」
「……えっと、17歳だよ!」
罪悪感を感じながらも大胆に年齢詐称する。
「わあ、うれしい! 私たち同い年よ!」
美少女の無邪気な笑顔が、小心者の胸にグサッと刺さる。
ごめんなさい!
本当はあなたの2倍以上生きてる35歳なの!
「ヴィクトリア様も17歳なのよ」
「……へーそうなんだ。たしかお祖父さんが教皇様だって言ってたっけ? もしかしてものすごいお嬢様?」
「そうよ? 知らないの?」
「うん。……実はわたし、昔の記憶があんまりなくて」
「えっ!?」
「一般常識はもちろん、家族のことも覚えてないの。魔物に追われた恐怖でいろんなこと忘れちゃったみたい」
「あら、そうなの……」
クララは痛ましそうに眉尻をさげた。
「だから有名なバルドルギアス家のことを知らないのね」
「バルドルって……光の神様の名前だよね?」
「ええ。記録によると――バルドルギアス家当主の敬虔な信仰心が神に通じて、バルドル様から直接その姓を賜ったそうよ」
…………
ええー?
本当にござるかぁ?(ゲス顔)
せっかく教えてくれたのに疑って悪いけど。
ひょっとして逆じゃないの?
神様の名前から姓の一部をもらったんじゃなくて、
自分の姓の一部を神様の名前として捏造したんじゃない?
実はバルドルなんていう神様はどこにも存在しないのでは?
バルドルギアスという一族が世界を掌握するために宗教を利用してるんじゃない?
転生前に精神界でバルドル様にまみえたという教皇の話も眉唾ものだよね?
どうもわたし、教皇=教会陰謀説にとり憑かれているみたい。
だって守護者と交信するたびにその疑いが強くなる。
ガイアスと別れてから今日までの5日間。
暇をもてあましたわたしは何度かガーディを呼びつけた。
ウォルフの召喚には遠慮を感じるけど、ガーディの召喚(?)にはまったく遠慮を感じない。
異世界転移後いきなり3日間放置されたから、こちらとしても割り切りやすいのだ。
ガーディの話をまとめると――。
皇帝は、教会と教皇の守護者。
元皇帝のガーディも生前はバルドル様を深く信仰していた。
死後も守護者の役目を忘れずに精神界で戦っている。
わたしが思うに、この世界の誰よりも頑張っている。
それなのにバルドル様は一度もガーディの前に姿をあらわしたことがない。
――こんな話を聞かされたら、よっぽど無慈悲な神様か、存在しないかのどちらかだと思わない?
なんて不謹慎なことを考えてたら、受付の順番がやってきた。
ICカードで自動改札を通り抜けるのと同じ要領で、水晶玉に受験カードをかざして大聖堂の入り口を通り抜ける。
すぐに受験カードの裏面を確認したら、『助聖女選抜試験/1次試験選考中』の表示に切り変わってた。
大聖堂のなかは圧倒されるほど豪華絢爛だった。
まずドームの高さ。
てっぺんまで見上げるには背中も反らなきゃいけない。
30階建てのオフィスビルくらいの高さがある。
天井には宗教画がびっしり描かれている。
背景は銀河のような星の海。
光り輝く剣をもつ金髪の美青年が、悪魔のような黒い影から、輪廻転生を待つ魂たちを守っている――そんなストーリーを感じさせる絵だ。
きっとバルドル様の活躍を描いたものなんだろうけど、わたしにはガーディに見えてしまう。
天井に見惚れながら身廊とよばれる大通路を進んでいくと、目の前にひときわ豪華な装飾がほどこされた4本柱の東屋(?)があらわれた。
「クララ、あれはなに?」
「大天蓋よ。その真下には代々の教皇様が眠る霊廟があるらしいわ」
ふーんと横目に見ながら通りすぎる。
教会の最奥には、光り輝くステンドグラスと金ピカの祭壇があった。
一段高くなっている祭壇の前に少女たちが集まっている。
友達同士でおしゃべりしている者もいれば、おとなしく前を向いている者もいる。
まるで女子校の朝礼前のように。




