21. 縦ロールなんてリアルではじめて見た!
1次試験の集合場所である大聖堂前は、着飾った女の子たちでいっぱいだ。
石畳の広場を埋めつくすピンクやアクアブルーのひざ丈ドレス。
まるで花が咲いたように華やかだ。
…………
ここはどこ? わたしはだれ?
わたしは広場の入口で、白目をむいて立ちつくした。
顔から血の気がひいていく。
パーティ会場によれよれのTシャツできちゃったみたいな場違い感。
弥生時代ルックのわたしはこの場から完全に浮いている。
ズボン姿の子がまったくいないわけじゃないけど、それでもよそいきな雰囲気。
事前に教会からお金をもらってるんだから、オシャレしてくるのが当たり前だったのか……?
でもいまさら着替えなんか用意できないし……。
もういっそ消えてなくなりたい。
口からエクトプラズムを吐き出して昇天しちゃいそう……。
そんなわたしを現世に引きとめたのは、道の先から轟いてきた馬車の音だった。
2頭の立派な白馬が、車輪まで金ピカの宝石箱を引っ張ってくる。
豪華絢爛な馬車が、わたしの立っているすぐそばに横づけされた。
取り巻き(?)の少女たちが馬車の前に集まってくる。
広場に咲き誇っている花たちもこちらに注目してどよめいている。
真っ白な騎士服をきた御者がうやうやしく馬車の扉をあけた。
なかから登場したのは――。
「みなさま、ごきげんよう」
モデル級の美少女が、艶然と微笑みながら馬車からおりてきた。
「ごきげんよう! ヴィクトリア様!!」
あたりから黄色い歓声があがる。
美少女の身長は170センチくらい。
髪の色は赤茶色。
髪型は長い巻き毛を黒いリボンでまとめたお嬢様結び。
そしてなんといっても、顔の両サイドに巻かれた縦ロール!
すごい! 縦ロールなんてリアルではじめて見た!
服装はお嬢様風乗馬スタイル。
燕尾服みたいな赤いジャケット。
ピチッとした白いパンツ。
ひざ丈の黒いブーツ。
顔が小さくて足が長いから、女のわたしでもうっとりしてしまうほどビューティフル。
「あら、みなさま……」
美少女は遠くのほうまで広場を見渡し、ため息を吐いた。
「ちょっと着飾りすぎじゃありません? 事前の説明会で動きやすい服装でくるよう指示がありましたよね? 助聖女選抜試験は美少女コンテストじゃありませんのよ? そんな格好でこのわたくしと競争できるのかしら?」
その発言を聞いたドレス姿の少女たちが居心地悪そうにうつむきはじめる。
我が物顔で咲いていた花がしおれていくみたいに。
お? 形勢逆転か?
いいぞ! いいぞ!
もっと言ってやれ! 縦ロール!!
心の中で声援を送っていたら、美少女の茶色い瞳と目があった。
でもすぐに視線をそらされ、ボソッとつぶやかれる。
「……ちがう方向に気あいが入りすぎた奇妙なかたもいるようですわね……」
ガーン!
それって間違いなくわたしのことだよね?
心強い同陣営があらわれたと思って喜んでたのに!
結局わたしはボッチな喪女なのかよ!(血涙)
美少女は片手を腰にあて、もう片方の手で縦ロールをはらいのけた。
「やはり助聖女にふさわしいのは、尊き一族に生まれ、教皇を祖父にもつ、このわたくし――ヴィクトリア・フォン・バルドルギアスをおいて他にいないようですね!」
「キャー! 当然ですぅ~!」
「ヴィクトリア様、ステキ~!!」
声援は無視して、美少女は哀れみの笑みを浮かべる。
「……でもどうか悲観なさらないで? この試験は合格者の上限を特に設けていません。みなさまにも等しく助聖女になるチャンスがあるのです。わたくしのいる高みをめざして頑張ってくださいね?」
最後に美少女――ヴィクトリアは、女王陛下のように広場にいる全員を睥睨した。
モブになり下がった少女たちはその場に凍りついている。
ヴィクトリアの取り巻きたちだけはキャーキャー黄色い悲鳴をあげながら、大聖堂にむかって颯爽と歩いていく彼女のあとを追いかけた。
…………
嵐が去っていった。
「何者だったの、アレ……」
「代々教皇様を輩出しているバルドルギアス家のご令嬢、ヴィクトリア様ですよ」
「わっ!」
思いがけない返答に飛びあがって振りむいた。
儚げな美少女がくすくす笑いながら立っている。
「驚かせてしまってごめんなさい。1人参加のかたですか? 私も1人なので、思い切って声をかけてしまいました」
なんだと……?
天使かよ。
こんな浮いた格好をしているわたしに声をかけてくれるなんて……。
見た目もまさに天使だった。
ストレートロングの銀髪に赤い瞳。
優しげで繊細な顔立ち。
身長はわたしより目線が低い155センチくらい。
華奢な身体は白いワンピースで包まれている。
バブみを感じさせる癒し系。
ちょっとアイリスさんに似た雰囲気かも。
「私の名前はクララ・エマチカです。あなたのお名前を聞いてもいいですか?」
「あ、わたしはモリ・ショーコ! ショーコって呼んでください!」
「ショーコ、ね。では私のことはクララって呼んで?」
「わかった、クララ!」
「まあ、うふふ」
ああ……。
美少女の微笑み……。
たまらん……。
神々しくて昇天しかけた。
アウェイで感じていた孤独が癒やされていく。
わたしが男だったら絶対この子に惚れてるわ……!




