アーサー魔導師
2歳になった頃。アルフレッド父様の元に一人の魔術師が帰還したと連絡に来た。
彼はフルブラント・A・ペルデリア・アーサーと名乗った。
名前にあるフルブラントは国名だ。
この国はフルブラント王国、なぜ分かったのか…それは母親との買い物でフルブラント産の文字を見たからだ。
AとかSはまだ分からない。
ペルデリアは苗字だろうか?それも分からない。
彼はとりあえずアーサーという人だということはわかる。
この国で魔導師は極めて稀で、魔法適性があるだけで将来有望という実力主義な王国だ。
アーサーさんはかなり有力な魔導師で、領土を広げる開拓作業に向かっていたらしい。
領土と言っても国の領土ではなく、国の中に一般的に立ち入れない場所があるため、そこの開拓だ。
アーサーさんはアルフレッド父様に挨拶をした後に自分の前に案内され始めて顔を見た。
目覚ましいゴールドの髪を三つ編みにし、小さな金属でできた輪状の髪飾りでとめていた。瞳はガーネットのように深く、赤い。耳にはドラゴンの鱗で作られたであろうピアスを下げていた。
顔立ちもよく、まるで絵に描いたような青年だ。
表情は無表情だが、なぜか私の前にやってきた時に笑顔になった。
子供が好きなのかもしれない。
服装はやはり国王に会うのにふさわしいフォーマルな衣服で、着慣れていないように見受けられることから、普段はもう少しラフな姿でいるのであろうと予測できた。
「殿下、お初目にかかります。アーサーです」
「こんにちは」
挨拶をされたから一応挨拶で返す、2歳児の言葉数的に変じゃないだろうかと考えて話しているが、話そうと思えばもっと話せる。
アーサーさんは形式だった挨拶をしたが、アルフレッド父様は笑ってそんな硬くなるなと背中をバシバシと叩いていた。
どうやら普段はもう少し砕けた仲だということもわかる。
では無表情なのは緊張していたからなのだろうか?
アーサーさんはアルフレッド父様に促され、私を抱き上げた。
もう2歳だというのに…
喋ろうと思えば喋れるが、今のこの雰囲気からして口を挟むのもどうかと思い、ただ見つめるだけにしておいた。
「とても…かわいいな」
「そうだろう?そうだろう?お前も早く嫁をもらいなさい」
「私は跡継ぎでもありませんので、そこまで焦ってはおりません」
「売れ残っても知らないぞ?」
そこまで美形ならそんなことはないだろうとは思ったが、実際出会いは重要だし、出会いがなければ売れ残るかもしれない。
出会いがあれば売れ残ったりはしなさそうだけれど。
「で、どうだアーサー」
「それが…」
何が「どうだ」なのだろうか、不思議そうに抱えるアーサーさんを見上げる。
アーサーさんはキリッと国王陛下に向き直り、しっかりと見据えた。
「殿下には適正があります。私と並ぶか超えるかといったほどの実力者になるでしょう」
「そうか…」
もしや”全能”によるものだろうか。確かにあの不思議な空間で「特殊適正がほしい」と言っていたから、それの影響の可能性は高い。
「将来有望で何よりだが…長男や次男には適正がないからな」
むぅと悩み出すアルフレッド父様、そのことはアーサーさんも分かっているらしく、深刻そうだ。
「跡取りが、長男でも次男でもなく長女なのは良くないな…」
「左様ですね、争いになりかねません」
時期国王はこのままだクリス兄さんになる、もしもの事があればエメスト兄さんがその後に控えている。だというのに男でもなければ順番的に三番目の長女を全面に推すのは良くないどだとか。
“全能”も立場によっては不幸になりかねない様だ。
立ち振る舞いは気をつけよう。
しかし、特殊適正もあるのだからいよいよワクワクしてきた。
「とうさま、がんばる」
2歳児の振る舞いなど分からないが、こんなところだろうと笑顔で話す。
特に変なところは無いらしく、疑問はもたなかったようだった。
(特殊適正か…)
適正があるのならば知りたいのは当然のことで、このお城のどこにあるかわからない書斎で勉強でもしてみたい。
クリス兄さんやエメスト兄さんに言って書斎を教えてもらおう。
文字を書いたりする紙は持っていくとバレるので、暗記しておくほかない。
生前では中卒だったこともあるし、勉強は苦手だったので、暗記などできるかわからないが…。
しかし、この人生では絶対に幸せになると決めているのだから努力は惜しまない。
アーサーさんとアルフレッド父様が何かの話をしている間、クリス兄さんとエメスト兄さんを探す。
今日は休日だからいると思ったが、二人はどこにもいなかった。
途中出会ったメイドさんに話を聞くと、二人とも家庭教師とお勉強だそうだ。
兄さんたち…なんて大変なんだ…。
今後は兄さん達により敬意を示して兄様と呼ぶことにしよう。
書斎は教えてもらえたが、子供向けの方だけで難しい本は置いていなかった。
絵本ばかりで欲しい情報は得られない。
せっかくだからと絵本をかたっぱしから読む。
『魔法使いのリッシュ』というタイトルの本をみて、兄様達を思い出し読む。
その内容はあまりにも可愛らしく隠されており、分厚い方の内容を知っている私としてはかなり物足りない。
これは兄様達がつまらないと言って投げ出すのもわかるかもしれない。
他にも、『リッシュの大冒険』や『リッシュと魔法の杖』なんていうリッシュシリーズがあった。
どれも優しい内容だが、きっとあの本みたいに「脳髄が~」や「臓物が~」なんてのが可愛くされただけなのだろう。
特殊適正を伸ばす本が欲しかったなと、『リッシュとお宝島』というリッシュシリーズの一つを読む。
『リッシュは かいぞくに むかって まほうを となえました。「ヴォルフマグナ」すると、ゴウゴウ!リッシュのてから おおかみのような ひが とびでてきたのです。「うわあ!あっちっち!」』
ふと、別のリッシュシリーズに手を伸ばす。
『リッシュは ドラゴンに まほうをとなえました。「アースピア」』
『リッシュは たくさんのまものに まほうをとなえました。「ウィンズアロー」』
もしかしなくても、この魔法は使えるものなのではないだろうか。
アースピアは土の槍、ウィンズアローは風の矢、ヴォルフマグナは狼型の炎
どれも書斎で試せるものではないが、試しに叫んだ程度でとなえられるものだとは思えない。
きっと上位の魔法だ。
「レアー、兄様お勉強終わったよー」
ひょこっとエメスト兄様が顔を出してくれた。
兄様にはたどたどしく「ほん つまんない」とだけ言う。
兄様はそれがわかったらしく、誰にも見つからないようにとあの本がしまわれている書斎へ連れて行ってくれた。
しかし、今回はここにルミニア母様がいたので門前払いを食らってしまった。
ちょっと落ち込むエメスト兄様と子供向けの書斎に戻り、兄様の好きな絵本を読んでもらった。
兄様も私もそのチープさにげんなりし、やっぱりあっちがいいねと二人してふてくされたのだった。