記念小話.神の宴~裏話ならぬ上話~
「よう久しぶりだなぁ! 地球の!」
「あら久しぶりですねハイリシエールの。貴方が宴に参加するのは800年ぶりくらいでしょうか?」
100年に一度行われる神の宴。
我が主は800年ぶりの参加だ。
どの神も1人ずつ世話役を連れてきているが、私はハイリシエールの創造神であるブラフマー様の従者としてここについてきている。
普段はわざわざ集まるのが面倒くさいと言って宴には参加せずハイリシエールを眺めながらお酒を飲んでいるーーいつも呑んでいるからその日だけ呑んでいるわけではないーーが今回は目的があっての参加だ。
「おう、それくらいはサボってるな! 実はな、今日はお前に用があってな。」
「あら、わたくしにですか? なんの御用でしょう?」
「以前お前に茶会に誘われたときに『とある島国では異世界召喚などが物語としてある』といっていただろう。『憧れている人間も多数いる』とも。」
「えぇ言いましたね。」
「よし、ぜひとも俺の世界に地球のの世界の人間を記憶引き継いだままくれ!」
「……は?」
直球に言いすぎて思考が止まったように驚きの顔のまま止まる地球の神である『天照大御神』様。
「ちょ、ちょっと待って下さいまし。いきなりどういうことなのですか。」
「実はだなーー」
そういって我らの世界『ハイリシエール』の説明を始めるブラフマー様。
以前天照大御神様から聞いた地球の物語でよくあるように、剣と魔法の世界なのだが技術も、料理も、もう何百年も進化が見えない。
少し進化しそうかと思い眺めてみるも諦めが早く気付くとソレは進化することなく淘汰されてしまう。
だから目覚ましい進化で進んでいく地球の、特に島国の人間を異物として我が世界に記憶保持したまま生まれ変わりとして譲ってほしい。
というようなことを説明をした。
天照大御神様は無言で黄金色の酒の入った小さなグラスを傾けていた。
「なるほど、お話は分かりました。良いでしょう。
ただし、わたくしの大事な子を連れていくのです。条件をつけさせていただきますよ。」
天照大御神様のつけた条件は異物の子にとって破格の条件だった。
一つ、親の庇護がなくても問題のない年齢ーー高校生という学生以上ーーの自立した人物。
一つ、ゲームや異世界等の物語が好きなオタクと言われる人物。
一つ、拒否することが出来ないのなら拒否反応を起こさなそうな人物を選ぶこと。
一つ、恋人や伴侶などのいない人物。
一つ、転生前の説明はその人物の好みの見た目のモノにやらせること。
一つ、世界に破滅がもたらされない限り望む限りのチートを与えること。
「ーーということです。」
「そ、それで僕が選ばれたのは……」
「えぇ、もちろん選ばれた女性の好みに貴方が一致したからですよ。
あぁ、忘れてました、これもつけてくださいね。」
そういって『クロサワ』に渡したのは黒縁のメガネ。
もちろん御使の視力が悪いなんてこともないので度なしのもので、選ばれた女性の好みで太すぎない程よい細さのツルのオーバル型のメガネだ。
正直メガネなど皆同じだと思うのだが天照大御神様に妥協はするなと言われ頂いた資料は目を皿のようにして読んだから完璧だろう。
「め、めがねですか……。」
クロサワは我らハイリシエールの御使の中では少し有名人だ。
ブラフマー様の眷族である我ら御使は一体ずつである他の神の眷属と違い多数いる。
多数いるがその中でも黒髪はあまりいない。
金の髪やピンク、白など淡い色合いの多い中にいる黒髪なだけでも目立つのだが、整ったモノが多い御使の中でも上位の顔立ち。
位はさほど高くないが他の御使たちからも好かれている良いやつだ。
選ばれた女性は日本という島国に住む25歳の女性。
いたって普通の、親の仲がどちらかといえば少し悪いが家族仲は悪くない、といった普通の家庭で育った第二子の長女。
天照大御神様の書類を見る限り『腐女子ではないがどっちも萌えればイケる雑食系。』だそうだが、何故その情報は開示されたのかは分からないくらいどうでもいい。
神の宴開催中に条件は出揃ってすぐに候補者が200名あまり選ばれた。
天照大御神様の条件は前述の通りで、ブラフマー様の条件はただ一つ「女子』だ。
『せっかく観察するんだしむさい男より可愛い女の子がいいと思うのは仕方ないだろぉ!」と言っていた。
どちらでも良い。
約200名の候補者から更に絞って50名。
転生してくる際現在の容姿は関係ないのだが、何故かブラフマー様が「体型がふくよかすぎるのと細すぎるのはいかん!」とまたまた謎の我儘を発揮されたので150名ほど除外された。
日本のオタクという女子たちはどちらも極端なものが多かった。
その後50名まで減らされた後は「根暗も困る」だの「派手すぎる女子は好かん」だの多数の我儘を連発し6名まで絞られた。
が、ここからが大変だった。
天照大御神様は最初の200名なら誰でも問題ないと言い、ブラフマー様はこの中なら誰でも問題ないと言う。
かといって全員連れて行くことは出来ないので悩んだ結果、以前天照大御神様が提案してから宴で毎回取り入れられているビンゴで決めることにした。
ビンゴカードを7枚用意し、それぞれの紙に女子を当てはめる。
1枚多いのは、天照大御神様が「1人くらいハズレで男性を入れておきましょう。その方が当たった時面白いでしょう?」と言ったからだ。
そして当たったのが杉崎葵嬢だった。
天照大御神様が残念そうな顔をしていたのは見なかったことにする。
ちなみにビンゴをやり終わった後に「実はあみだくじというもっと簡単な決め方とかもあったのですよね。」と笑顔で言い出した。
天照大御神様は見た目や喋り方など楚々とした美人なのだがいい性格をしていると思う。絶対時間かかるビンゴを一生懸命やってるブラフマー様を見てニヤニヤするために言わなかったと思う。
あれから約10年。
ブラフマー様はクロサワを傍においてお酒を飲みつつ杉崎葵嬢、改めユイリエール・リシュール嬢の観察をするのが日課になっている。
ストーカーではない、あくまで観察だ。
今までは誰か特定の人物の観察なんてしていなかったからか、何やら父親のような感覚で見ているようでいつもうるさい。
クロサワはクロサワで一緒になって兄のような感覚で見ているようなので誰か2人を止めて欲しいものである。
「ユイさんは今日も可愛いですねぇ……あぁ、また美味しそうなものを作ってますね……ユイさんの手作りご飯が食べたいです。」
「ユイが可愛いのは当然だろ。あ、おいこら護衛! てめぇなに俺のユイにあーんしてもらってやがる!」
「あああ、護衛くんのロリコン! 幼女にあーんされて顔赤くしてるなんて! うらやまけしからんです!」
「『うらやまけしからん』ってなんだ?」
「『羨ましい』と『とんでもない・不届きだ』を合わせた日本の造語です。」
「なるほど、うらやまけしからん!」
「はい、うらやまけしからんです!」
遅くなりました。
なろう&アルファポリスブックマーク(お気に入り)累計1,000突破記念小話です。
まさかの神様側のお話。
自分でも予想外な出方でまさかのクロサワ氏が登場です。
本編あと1.2話で章が終わります。
ていうかこの章小話ばっかり……。




