23話 三回戦 勝利への決意
一週間が経ってしまった……。
今週は何とか後二つは更新したい。
大会三日目にもなると残るのは強者ばかりである。
激戦をここまで勝ち抜いてきたのだから当然と言えるかもしれない。
大会三日目からは本戦は一試合ずつ行われる。
一つ一つの試合がレベルが高い為に十分盛り上がるし、何より人数が八人と少なくなってきたので三回戦だけで四回だけしか試合を進めなくて良いからである。
そして今は三回戦の第一試合。
今から壮絶な戦いが幕を開ける瞬間であった……。
★★★
『何と何とーーーーッ! 開始してから一分と経たずにカーラ選手の勝利だぁぁぁぁ!!』
……早々に決着が着いた……。
「これ……三回戦だよね?」
「ああ」
「強者ばかりなんだよね?」
「ああ」
「じゃあ何でこんなに簡単に終わるの!?」
「ミル、カーラさんは普通の人間じゃないんだ」
会場はカーラの試合に大興奮。
ヤマト達は逆に顔が引きつっている。
大体SSランクホルダーが出場すること自体が間違っているのではないか。
ヤマトはそう思えてならなかった
カーラの圧倒的な動きに相手はただただ息を呑み、圧倒的な雷の魔法に恐怖に覆われ、最後には何メートルも吹き飛ばされ地に伏した。
最早同情するしかない。
ヤマトも昔、カーラと打ち合った事があるが、そのときにこれでもかと言うほどの恐怖を埋め込まれた。
そのこともあり、ヤマトには対戦相手の気持ちが嫌というほど分かるのである。
「終わったぞ」
ヤマトはその声にビクッと肩を震わせる。
いつの間にやら背後には試合を終えたカーラが立っていたのだ。
「オツカレサマデス」
「なんだ、そのしゃべり方は?」
カーラが首を傾げる動作ですらヤマトは身を震わせる結果になった。
それは他の者も同じような感じである。
ミルなどはヤマトの後ろに隠れてヤマトのロングコートの袖を掴んでいた。
そんなヤマト達だが、時間が止まった訳ではない。
既に第二試合が始まっているのだ。
「――――言ってくる」
スレイはそう言って立ち上がる。
スレイは第三試合の出場者なのだからそろそろ控え室に行くのは当然だろう。
しかし、ヤマトは待てと声をかける。
呼び止められたスレイは僅かに硬直してヤマトの方を向いた。
その表情には疑問が浮かんでいる。
ヤマトは素早くスレイに近づいて耳打ちした。
「――対戦相手の面の男には十分気をつけた方がいい」
そう、スレイの対戦相手はあの面の男なのだ。
面の男の実力を知っているヤマトにはスレイが苦戦以上の戦いをしている姿がありありと脳内に浮かぶ。
本当なら相手がどれほど危険な思想を持っているかわからない故に棄権した方がいいとも思うがそれはスレイが許さないだろう。
だからこそ警告する。
スレイもヤマトの何時になく焦った様子に神妙な顔付きで頷く。
「頑張れよ」
ヤマトはスレイに拳を突き出す。
スレイはその行動に若干驚きながらも僅かに、ほんの僅かに微笑んで拳を同じように突き出した。
スレイはその後は振り返る事無く向かっていく。
その姿にヤマトはただ応援の言葉を心で投げかけるのであった。
★★★
『それでは第三試合を始めるぜ!』
――ワアアアア!!!
第二試合も無事に終了していよいよ第三試合を向かえる。
先の試合も中々に盛り上がったこともあり、観客もボルテージが増していた。
『一人目は全てが謎、謎、謎だらけの男! 面を被った選手! Sの登場だーーーーッ!』
ウルトの紹介と共にコロシアム内に姿を現すのは黒フードを被り、ローブに包まれた面の男――名はSと言うらしい。
静かに歩いては真ん中の円の中に入りただ試合が進むのを待っているようだ。
『続いては! まさかここまで勝ち上がっていくとは……! 俺の親友でもある、スレイィィィィ!』
対するスレイは私情を含んだ司会の言葉を受けながら棍を片手にスタスタと男の前まで歩いていく。
ちなみにここまで歩いたときに心にあった感情は不快感。
目の前の面の男にではない。
勿論、ヤマトの忠告にもあったように警戒はしているが不快感を向けているわけではない。
その本当の相手は司会であった。
「あの二人って親友なのか?」
「「全然」」
観客席ではヤマトがウルトの言葉を聞いて純粋に訊ねるが、リリーとローラは即ざに首を振った。
ウルトが聞いたら涙するだろうなと本気でそう思えるくらいに返すのが早かった。
「それよりスレイは勝てると思うか?」
カーラが難しい顔で述べていることから可能性は極めて低い事は分かっているようだ。
しかし、それでもヤマトはスレイがやってくれるかもしれないと信じたかった。
「俺はスレイを応援するだけだね」
見ればスレイも準備運動を終えたらしい。
棍を構えて開始の合図をまった。
『それでは両者準備が整ったようだ! 第三試合――始めッ!!』
ウルトの掛け声と共にスレイは面の男に向かい駆け出した。
面の男、Sはそれに涼しい顔を浮かべてバスタードソードを片手で切っ先が地面すれすれの位置になるように構える。
スレイは棍を振るう。
先端部での突きや振り上げ、水平の横払いなどその猛攻のバリエーションは多種多様。
しかし、それがSに当たる事はない。
Sが振るう剣捌きは並のそれではなかった。
スレイも棍を振るう速さは早いと言えるほどである。
それを容易く、ギリギリの位置で無駄のない動きで受け流していく。
スレイは男の実力に冷や汗を流しながら後方に跳んだ。
しかし、予備動作をほとんど行ってないはずなのに、スレイが跳ぶのと同じタイミングでSは前方に跳んだ。
これにはスレイは驚きを隠せない。
距離を離したと思ったら逆に懐に入られたのだ。
その事実に焦りを感じながらスレイは棍の先端を地面に打ち付け、跳ぶ向きを横に無理やり変えようとする。
しかし、反動で向きを変える前にSはバスタードソードで棍を弾いた。
その剣閃は凄まじく速いもので、支点を失ったスレイはバランスを崩す。
その大きな隙をSは逃す筈がなくそのまま腹に回し蹴りをお見舞いする。
Sの回し蹴りはあまりにも強く、スレイは胃液を吐きながら後方に数メートルぶっ飛んだ。
Sは最早スレイは眼中にないようで試合が終わったと確信したのか背を向けそのまま最初の位置に戻ろうとする。
その実力はまさに圧倒的。
観客の誰もが勝負は決まったと歓声を上げた。
……だがスレイは終わってはいなかった。
むせ返りながらも何とか立ち上がり、スレイは黒色の腕輪をはめる。
そして腕輪についた四角い箱の様なところ、スロットに魔石をセットする。
魔石をはめた瞬間、スレイは詠唱した。
「雷の鎧を纏え。 雷鎧」
スレイの詠唱と共に周りには雷がほとばしる。
Sはそのまま後ろを振り返り、スレイの決意を宿した瞳を見てふっと笑ったような声を出した。
どうやらSもその気になったらしく、バスタードソードを両手で構える。
「――――来なよ」
「…………!」
スレイはその言葉に顔を顰めてSに向かい思いっきり飛び込んだ。
地面を蹴って駆け出すスレイの速度はおそらく彼がこれまでに出した中でも最高の速度であるだろう。
その力強い踏み込みに感心を抱いたSは同じようにスレイに向かい飛び込んだ。
両者が激突すると共に鈍い金属音がコロシアムの中に響く。
スレイはすぐさま足払いを繰り出す。
それは雷を纏った自らの攻撃を剣で受け止めたSが動きを鈍らせると思ったからである。
しかし、Sはなんともないという感じにそれをジャンプしてかわした。
スレイはその動きに驚くが男のバスタードソードを見て納得する。
男は何と光付与を剣に纏わせていたのだ。
属性魔法を付与された武器には通じないとガノンに言われたため、Sの魔法を見て舌打ちをする。
それからはとにかく両者はぶつかり合った。
男の光を纏ったバスタードソードとスレイの雷を纏った棍が何十合も打ち合う。
最初は誰の目からも互角の勝負をしているように見えていた。
しかし、徐々にスレイの動きが遅くなっていく。
対する男はさらにその動きを早めた。
故にスレイは押し負けた。
魔法の効果時間も短かった為に焦ったスレイは後方に跳んでしまう。
しかし、Sに対してそれが無駄である事を跳んだ後に気付いてしまった。
そう、このパターンは先ほどと同じである。
悪い予想の通りにSは前方にタイミングを合わせて飛び、その距離を離さない。
そしてそのままSはバスタードソードを振るった。
雷鎧で反射神経を挙げていたスレイはそれに何とか対応するも振るわれたバスタードソードを止めることは出来なかった。
そのまま棍を弾かれ勢いが消える事のないバスタードソードを直撃してしまう。
「――――強くなったね」
そんな聞き覚えのある声がスレイの耳に響いた。
……そして宙に真紅のしぶきを上げた瞬間、試合が幕を閉じた。
★★★
「スレイは大丈夫ですか?」
ここはコロシアムの中の医務室。
ヤマトとローラは二人でスレイの様子を見に来ていた。
そして今、ヤマト達の前には右肩から左腰にかけて傷を負ったスレイがベットに横たわっている。
そんなスレイには今は治癒魔法を使える者が治療に当たっていた。
「一応治癒魔法かけて貰ってるし大丈夫だと思う」
「そうですか……」
ローラがその言葉に安堵の表情を浮かべる。
事実スレイの傷も見る見る内にふさがっているのである。
「しかし、Sって言ったか」
ヤマトはその横であの面の男について改めて考える。
実力の片鱗を見せたSはおそらく只者ではない。
そんな人物が何故ヤマトを狙うのか、それはおそらく自分の失われた記憶が関係しているのではないかと思う。
「とりあえず俺は行くよ」
スレイの看病をするローラにそう言ってヤマトは試合に向かう。
次は第四試合、自分の番なのだ。
「ヤマト」
不意にかけられる言葉にヤマトは立ち止まり振り替える。
するとローラは不安げな表情で言葉を投げかけた。
「ヤマトですし、大丈夫ですよね?」
大会である以上止めることは出来ない。
故にローラは無事でいる事を願う。
ヤマトの力を知っているローラだがそれでもスレイの事もあり心配であるようだ。
しかし、ヤマトはそれにふっと微笑む。
「大丈夫さ。さくっと勝ってくる」
ヤマトはローラの頭に手を添えた。
手を添えられたローラの頬に朱色が混じったような気がしたが、ヤマトはあまり気にせずに、ヤマトはいつも通りに笑みを返してそのまま医務室を後にした。
★★★
「いよいよ彼とですか……」
セレーナは不安げに、位置についている騎士ザクロを見下ろしている。
いつも通りに精神統一をさせている彼が負ける姿はセレーナには想像できない。
しかし、またあの青年も易々と勝たせてくれるとも思わなかった。
「ザクロは大丈夫といってましたけど……」
セレーナはやはり不安である。
自らの騎士はイマイチ彼の実力を分かっていないのではないか。
今までの試合から見て、簡単に大丈夫とは言い切れない事は分かる。
「ほう。其処まで不安なのか。セレーナ」
そんなセレーナに背後から何者かが声をかけた。
それはセレーナも良く聞き覚えのある声である。
「――お父様。いらっしゃったのですね」
「ああ、今しがた着いたところだ」
そう、セレーナの眼前にあるのはこの国の国王、バーン=フィーリアであった。
威厳のあるその姿に騎士が皆膝をつく。
セレーナと同じく金髪碧眼だが顔立ちはあまり似ていない事からセレーナは母親似であろう。
「あのザクロでも不安な相手とは誰のことかな?」
バーンはただ興味ありげにそう言うがセレーナはそれには答えない。
いや、答える必要がなかった。
「それは今からの試合を見れば分かると思いますよ」
セレーナはそれだけを告げてコロシアム内に視線を向ける。
其処には紺色のロングコートを翻しながら歩くヤマトの姿があった。
★★★
『三回戦もいよいよ最後の試合! 右から来るのは、フィーリアが誇る王宮騎士団長! ザクロ選手だ!』
(騎士団長だったのか……)
銀の鎧を纏い、赤のマントを翻すザクロはゆっくりと腰から剣を抜く。
ロングソードにしては太いその剣を中段で構えて、ザクロは目の前の敵を見据える。
『続いては! 司会であるこの俺、ウルトが実は一番注目している人物! ヤマトォォォォ!!』
次にヤマトが歓声を浴びながら自らの刀に手をかける。
ここまで傷一つ負うことのなかったその戦いぶりには実は多くの観客から関心が寄せられているのだ。
「まさか君と戦う事になるとはな」
「まあ、そっちには悪いけど勝たせてもらうよ」
ヤマトはそのまま刀を抜く。
その切っ先をザクロに向け、そのまま構える。
「やってみるんだな」
ザクロはそういい捨てると同時に息を吐く。
ヤマトも目を閉じ魔力を溜めている。
お互いがお互いの力量をある程度把握している為、どちらも手を抜く素振りはしない。
『それでは第四試合――始めッ!!』
そして開幕と同時にヤマトは刀から風の斬撃を放った。
★★★
「いきなりか……!」
ザクロは試合開始直後に襲い来る風の斬撃に一瞬驚く素振りを見せる。
しかし、想定内の出来事なのですぐに対処、つまりは横に跳んでかわした。
だが、ヤマトもあれだけでザクロに勝てるとは当然思っていない。
そのまま二重身体強化を発動して一気に距離を詰めた。
「勝負だ!」
ヤマトはそのまま切りかかった。
勿論騎士であるザクロにとってもこの近距離は十八番である。
だがそれ故に驚愕は隠しきれなかった。
攻め方が予想外だったのだ。
とにかくもザクロはそのままヤマトの刀を受け止める。
両者の武器はそこで押し合い、まるで停止したかのように動かなくなった。
つまりは鍔迫り合いである。
それがどれほど続いただろうか。
騎士であるザクロは当然力は強い。
しかし、ヤマトもまた負けていない。
ヤマトも身体強化で力を上げている。
そして最初に均衡を破ったのはヤマトだった。
「腕を強化せよ。腕強化」
身体強化に加え、さらに力を上げたヤマトはザクロを剣ごと後方に吹き飛ばす。
ザクロは吹き飛ばされるが、それを利用して後ろに下がる。
だが、距離が離れたかと思いきやヤマトは急速でザクロの懐に入る。
ザクロもそれに対応する。
そのまま懐に入ったヤマトに向かい剣を水平に振るう。
しかし、ヤマトもそれを刀で防ぐ。
今度は打ち合いとなった。
ヤマトの振るう刀は風のような速さで振るわれ、ザクロの剣はそれを何とか弾き返していく。
またしても均衡が訪れた。
両者は何十合も打ち合うがどちらも引きはしない。
というよりおそらくここで引いたものが敗者となるであろう。
それからさらに金属音がぶつかりあう。
何度も何度もその音が響くたびに観客が息を呑んでいる。
そしてそれが何分経っただろうか……今までで一番盛大な金属の鈍い音が鳴った。
空中に一つの剣が舞う。
それが弧を描き、地面に突き刺さった。
それと同時進行でフィーリア王国最強の騎士が地に伏した。
『勝者はヤマト選手だーーーーーーーーッ!!』
……そして、観客の歓声が一気に沸き起こった。
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