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漆黒の風  作者: ST
三章 黒風の通る道 武道大会編
64/123

10話 ヤマトの黒刀

「じゃあ大会の時に会おうぜ!」


「今度ローラに謝りなさいよ?」


「…………また」



ウルト、リリー、スレイはそういい残してギルドを後にしていった。



ヤマトはこの街で情報を出来るだけ集める気で居たので、武道大会が終わるまではこの街に居る。

それを聞いたリリーは「じゃあ大会を一緒に見ない?」と誘ってきたのだ。

ヤマトに断る理由は無かった為にこれに頷く。


そんな訳であの四人とはまた会うことになったのだ。



「さて。俺も宿を探しに行きますか」



とにかくここまで来たのだからゆっくりしたいとヤマトは早速宿を探そうとする。

しかし、ヤマトに新たな試練が舞い降りた。



「すいませんが、時間を取れますか……?」



なんとギルド員がヤマトを呼び止めて来たのだ。

ヤマトはこれには多少驚きをみせる。

自分に呼び止められる理由が無い筈なのだから。


しかし、ヤマトは先ほど自らの放った言葉を、その意味を理解していなかった。

先ほどヤマトが放った言葉はそれほどにギルドにとっても大切な事であるのだ。



「あなたは本当に“魔道王”アルフォード=セウシスのお弟子さんなんですか……?」



金髪に緑の瞳をしたギルド員が確認のようにヤマトに訊ねる。

その声色は多少震えているように感じさせるものであった。

だが、三人の英雄の内の一人である“魔道王”と繋がっている可能性があるのだから仕方が無いとは言える。


“魔道王”アルフォード=セウシスは現役ではないがその実力、またその影響は大きい。

今現在SSランクホルダーが三人しか居ない状況ではどうしてもその力がギルドとしては欲しいものであった。


だが、今現在アルフォード=セウシスは行方が分からない。

噂ではバラン地方に居るとの事だが、その真偽は定かではない。

故にその“魔道王”の情報を得る為にもギルド側からすればヤマトを引き止めたいのである。



「一応そうだけど」


「それならば、今“魔道王”様はどちらに……?」



今、ギルド内部の状況は静寂そのものである。

周りの冒険者も例外ではない。


今、生ける伝説の人物の居場所、その話をしているのだ。

冒険者としてこれに耳を傾けない訳にはいかないだろう。



「――悪いがそれは言えない」



だが、ヤマトが答える前にカーラは遮るようにヤマトの前に出て言った。

カーラとしては師匠を無理に表舞台に立たせるつもりは毛頭無い。

アルもすでに歳であるし、無理をさせたくないのである。



「しかし――」


「悪いがこれ以上の干渉はしないで欲しい」



カーラはされに続けて口を開こうとするギルド員の言葉をかき消してその場を後にするように踵を返した。

しかし、其処から漏れ出すプレッシャーは尋常のものではなく、全員が息を呑みその姿を見送る事しか出来なかった。


そうしてギルドから出て道に出たヤマトとカーラ。

カーラは後から出てきたヤマトの姿を見て口を開いた。



「どうやら師匠のことはあまり口外しない方がいいらしい」


「そのようだな。――っていうかカーラさん今までこういった経験は?」


「師匠の名は出した事が無かったからな。初めてだよ」



ヤマトとしてもあそこまで反応されるとは思っても見なかった。

とりあえず危機を脱したが、これでギルドに来るたびに視線を浴びる事は間違いないだろう。

せめてもの救いはあまりに唐突な話で信じるような冒険者が少ない事だろうか。

それでも実績のある冒険者であるカーラが認めたのだから信じる者も出てきそうだが。

ヤマトは早くも憂鬱になりながら、何処の宿に泊まろうかと宿を探す事にした。



「それなら私と一緒の宿に泊まらないか? 久しぶりに会ったんだからいろいろ聞きたい事もあるしな」



カーラの発言によりヤマトは沈黙した。

ヤマトは焦る。

修業時代、というより三年前のハドーラ盗賊大襲撃事件より半年の間、カーラはアル達と同行した。

その時に刻みかまれたカーラの恐怖は二年と半年が経った今でも忘れてはいない。



「いえ……丁重にご遠慮させて……」



ヤマトは最悪の状況を避けるべく何とか抵抗を試みてみる。

しかし、カーラの魔の手から逃れる事は出来ない。



「そうか。ヤマト……私は悲しいぞ……。弟弟子に拷問じみた事をしなければならない事を」



「分かりました早速宿を取りに行きましょう今すぐに二人で宿を取りに行きましょう」



カーラは悲しそうに顔を歪めて、ゆっくりとレイピアに手をかける。

その様子を見たヤマトは恐怖に震え上がり、即効でカーラの申し出を了承した。



「そうか。分かってくれたか」



「もちろんでありまするそれでは早速ゴーと行きましょう」



カーラがヤマトに微笑むとヤマトはすぐさまカーラに敬礼。

最早冷や汗だらだらなヤマトはカーラを連れて、体を震わせながら宿に向かうのであった。





     ★★★





カーラが止まっている宿屋の一室でヤマトとカーラはのんびりとくつろいでいた。

床には青い絨毯が惹かれていて、白いカーテンからは光が多少漏れ出ている。

そんな部屋で二人は話を進めていた。



「それで……カーラさんは武道大会に出るのか?」


「ああ。毎年SSランクホルダーの誰かが参加を促されるんだ。何でもこの武道大会は才能ある人物を探す事も含まれているらしくてな」



このトローレで行われる武道大会は毎回各国の王が観戦しに来る。

それはこの武道大会が一種の遊戯や賭けなどで楽しめるから……というのもあるが、最も大きな理由は人材発掘である。

つまり、大会に有能な人材、腕の良い者がいれば国に勧誘するのだ。


実は十数年前まではこの登用ともいえる行為はあまり優先度は高くなかった。

何故なら大陸同士の友好もそれなりにあり、戦争が起きる頻度が少なかったからである。

その登用した人材が国の内部から国を破壊する可能性がある事も理由の一つであった。


しかし、十一年前に三大国のスクムト王国で起きた国王及び第一王子暗殺事件より国王になったバベルが大陸の安定を崩したのである。

スクムト王国は既に周りの小国を数カ国滅ぼし支配している。


これにより周りの小国、及び三大国のフィーリア王国、ガラン帝国はスクムトの動向に警戒する。

それらの理由で大陸は現在、不穏の空気に包まれていた。



「各国の王も優秀な人材の獲得に躍起になっている。要はSSランクホルダーの私と良い勝負が出来れば国に即効で勧誘されるという事だな」


「いや……、カーラさんと良い勝負できる奴とか居るのか……?」



実際問題、カーラと渡り合える者はいないと言えるだろう。

SSランクホルダーが現在三人しか居ない理由、それは単純に人間を超越するような者で無いと届かない高みにあるからだ。

カーラに勝てるとしたら他のSSランクホルダーしか居ない筈である。



「いや、私は既に見つけたぞ? この街で」


「え…………」



ヤマトは唖然とする。

ヤマトはカーラが負けるどころか、傷を負ったところすら見た事が無い。

そのカーラがこの街で既に自分と渡り合える者を見つけたという。



「君だよ」


「…………はい?」



今度は声が裏返った。

そしてヤマトは唖然としてカーラを見やる。

だが、カーラはヤマトを指差したまんまである。

それはヤマトが自分と渡り合えると確信しているかのようであった。



「――いや、さすがに無理だって……」


「ふふっ。本当にそう思っているか?」



ヤマトは恐縮したように首をブンブンと振るが、カーラはそれに含み笑いする。



「私の見立てでは君はこの三年間、間違いなく急激な成長を遂げた。この私と良い勝負が出来るぐらいにな」



ここでカーラが自分に勝てる可能性を言わないところはさすがであろう。

そこは納得は出来る。

ヤマトもカーラに勝てるとは全く思わないからである。



「どうだ? ヤマトも参加してみないか?」


「――――狙いはこれか」



カーラはヤマトに武道大会の参加を進めてきた。

勿論、面倒な事になりそうなのでヤマトは拒否しようとする。

しかし、次の言葉がヤマトを揺さぶった。



「もし、ここで名を挙げれば“奴ら”が近づいて来るかもしれんぞ?」


「どういう……!?」



ここで出てきたのは“奴ら”という単語。

この街で聞き耳立てて情報を探っていたのだが、全く引っかからなかったものである。



「奴らは君を“黒の民”と言って、生かして置けないと言ったのだろう? ならば君がここに居る事を彼らが知ったらおびき出せるんじゃないか?」



確かにカーラの意見は最もである。

そもそも全く情報の無い現在ではそのくらいしか打つ手が無かった。


しかし、奴らが狙っているのは古代兵器の鍵である。

果たして本当におびき出せるかは一種の賭けであった。

しかし……。



「賭け事なら得意なんだよな」



ヤマトは目を瞑り、マストの準備を始めた。

この三年間、マストを使った系統魔法の習得を行っていたおかげで発動までの魔力供給の時間が三十秒まで減ったのである。

これは大きな収穫であった。


そもそもマストを自分で発動するならば、一旦戦闘を離脱しなくてはならない。

なぜならマストを発動するまでの時間、ヤマトは絶対的隙ができるからである。

しかし、これが三十秒であれば敵の目を欺きさえすれば戦闘中に発動できる。


さらに他に仲間あるいは協力者が居れば、隠れる必要も無く発動の準備が出来るのである。

この三年間で行った修業での成長はカーラの言った通りに著しいものであった。


そうして魔力を溜めて、ヤマトはマストを発動する。

その結果はヤマトの笑みを見れば分かるものだった。



「分かった。カーラの言うとおり参加しよう」


「そうか」



カーラもどこか嬉しそうに顔を綻ばせる。

ヤマトと戦える事が嬉しいのだろう。

ヤマトは多少の冷や汗と目的に近づけた高揚感を胸に、いざ大会受付へ急行するのだった。





     ★★★





「はい。これで武道大会の選手登録が完了しました」


「ありがと」



ヤマトは受付の女性から自らの登録番号が書かれたカードを受け取りカーラに見せる。



「これで登録は完了したな」


「でもいいのか? カーラさん直々に推薦してもらって」



そう、ヤマトはSSランクホルダーであるカーラにシード枠を推薦してもらったのだ。

本来SSランクホルダーは二人まで有望な人材を推薦する事が出来、推薦を貰った者は予選に出なくてもいいのである。



「別にかまわない。第一、予選は疲れるだけだからな」


「――確かに」



ヤマトはカーラの言葉に納得したように頷いた。


武道大会の予選は百人以上が同じ会場で戦い、二人だけが本戦に進めるという疲れる事間違い無いものである。

ヤマトもそんな予選に好き好んで参加したいと思う程人間をやめてはいなかった。



「まあ大会まで期間はあるんだ。ギルドで依頼をこなしながら身体を慣らしていったらどうだ?」


「そうだな。まあ今日は先に寄るところがあるけど」


「ん? どこか行くのか?」



首を傾げるカーラの前で、ヤマトは一枚の紙を取り出す。

それはガノンから貰った工房までの道が書かれた地図であった。



「あのガノンと知り合いなのか?」


「カーラさんは知ってるのか?」


「ガノンは魔道具職人としてかなり有名なんだ。知らない方がおかしいだろう?」


「……カーラさんも十分有名だけどな」



ヤマトはそんな会話をカーラと交わしては、地図に従い道を進んでいった。


武道大会の受付があったのは街の真ん中のコロシアムの外。

そしてガノンの工房は街の東側の端である。

この街、トローレは以上に広い事もあり辿り着くまでかなりの時間がかかってしまった。


そんな訳で数十分程歩いてようやくヤマトらは工房にたどり着く事が出来た。



「これがガノンのおっちゃんの工房か……」



ヤマトは目の前の工房になんともいえない感情を抱く。

あのガノンの工房と言うのだからかなり大きく立派な工房を想像していたのだが、目の前にあるのはそれとは大分違った。


大きさでいうと民家一軒分よりちょっと大きい程度。

全体的に古い感じが漂い、石造りの家の屋根の上からは煙が出ている。



「おっちゃん! 居るか?」


「おう! ヤマトじゃねえか! 結構早かったな」


「まあ、約束だしな」



ヤマトが工房というより家に近いものの扉を開けるとガノンがすぐに持て成してきた。

ガノンの招きに従い、ヤマトとカーラはそのまま中に足を踏み入れる。



「なんと言うか……」


「普通だな……」



そう、中はいたって普通の民家と同じようなものであった。

別段高くなさそうな花瓶が玄関に置かれ、何処にでもありそうな絨毯が引かれていて、壁にはいくつか傷が見える。



「ガハハハ! 良く言われるな! とりあえず工房はこっちだ」



ガノンは家のさらに奥に二人を案内する。

すると一番奥の部屋に地下に降りる階段があった。



「俺の作品は何かと狙われるんでな。工房は地下に隠してあるんだ」



ヤマトとカーラは納得した。

確かにガノン程の腕を持つ者が作る作品である。

何人もの人がそれを欲して強行手段に走るか分からない。


故にガノンは地下に工房を作ったという。

地下ならばしっかり管理していれば盗まれる事も無いだろう。



「さすがだな~」


「当たりめえよ! 職人は自分の作品に責任を持たねえとな」



ガノンはいつものように笑っては地下の階段を進んでいくのだった。






「ところでヤマトの連れ……“戦乙女”じゃねえのか!?」


「……やっぱ分かるよな~」



ガノンは今更ながら驚いたように声を上げた……。





     ★★★





「……工房の方はしっかり出来てるな」


「さすがにこれには驚いたな」



ヤマトの目の前に広がるのはまさしく職人の工房。

壁にはいくつもの武器が掲げられ、奥の机には作りかけの武器が鉄くずや魔石と一緒に置かれている。

明かりは何処からか日の光が差し込んでいて、光付与のランプと合わさって十分なものであった。


右の方には魔石が大量に積み上げられており、左の方には暖炉がある。

さらには鍛冶場のような施設でもあり、まさに工房と言った感じであった。



「さて、ヤマト。その黒い刀を渡してくれねえか?」



ヤマトはガノンの言われた通りに刀を渡す。

ガノンはそれを奥の机まで運んで上におき、なにやら観察し始めた。

最初は見るだけであったのだが次第にハンマーでトントンと優しく叩き、最後には刀に耳を近づける。


そして不意にガノンが驚いたような顔で飛び上がった。



「これはまさか……黒魔晶石!?」



ガノンが一通り観察し終わると刀に後すざりする。

その額は大量の汗に覆われていた。



「その黒魔晶石って?」



ヤマトはガノンに素直に疑問をぶつける。

隣のカーラも分からないような感じなので珍しい物である事は想像できたのだが。



「これは……この世からは既に消えた魔石だ……」


「は?」



ヤマトはガノンの言葉に意味が分からないと言ったように声を上げた。

既に失われているのなら何故ここにあるのか。

その疑問にガノンは唸るように答えた。



「いや……消えたと思われていたものだな……。これはその昔、“あるもの”が生み出した究極の魔石なんだ。魔石というよりはそういう物体だと思った方がいいがな……」


「へぇ……。でもそれなら何か問題でもあるのか?」



ヤマトにとってここが一番重要であった。

なにせヤマトにとってこの刀は幾重もの試練を共に乗り越えた相棒とも言える存在である。

もしこの刀に何か問題でもあれば、これからの事を考えなければならない。



「それのことなんだが……。ぶっちゃけ分からん!」


「はい!?」



ガノンがあっけらかんと、それでいてはっきり言い切った言葉にヤマトは目を丸くした。

ガノンは頭をかきながら、はあ……とひとつ溜め息を作る。

それをしたいのはヤマトの方であったが。



「大昔に失われた魔石だしな。まあ今まで何事も無かったんだろ? なら別にいいじゃねえか」



最早開き直って刀を半ば強引にヤマトに返す。

ヤマトは多少こめかみに青筋を浮かべるが、分からないものは分からないと踏ん切りをつける事にした。



「さてと……。用事も済んだ事だし、帰りますかっと」



ヤマトは刀を鞘に収め、二人を連れて地下工房から出て行く。

刀の正体はまるで分からなかったが、ヤマトはそれでもいいと思った。

ヤマトにとってこの刀はかけがえの無い相棒、それで十分であったのだから……。





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