11話 片鱗
――ここは……。
ヤマトはいつの間にか不思議な場所に立っていた。
いくつもの巨大な石造りのような、四角の形をした塔が立っている。
とてもラフな服装をした者やピッチリとした服装をした者など、たくさんの人が行き来している。
真ん中の道には鉄の塊のような物が黒く円い足のような物を回転させて進んでいる。
その傍で歩道している人々の群れの中にヤマトともう一人――誰かは分からないぼやけて見える人物は居た。
――またこの夢か……。
そう、これは夢……。
修業時代にも何回も見てきた夢である。
最初はあの滅びし村の風景しか夢に出てこなかったが、徐々に変化していったのだ。
もしかしたら自分の記憶の手がかりになるかもしれないと思うのだが、このような見た事も無い風景が本当にあるのだろうかと不安にも思う。
――またか……。
いつものようにヤマトは独りでに歩き出す。
人々の群れを掻き分けて歩いていく。
その時にヤマトの横を誰かが付いてくる。
それが誰かはヤマトにはわからない。
なぜなら人物がぼやけて見えるからだ。
ヤマトは横に謎の人物を連れて歩きながら一つの建物の入り口で立ち止まる。
そしてその建物に入っていった。
中に入ると舗装されたような廊下があり、それを進めば見た事も無い扉の前に立つ。
そして横の上に矢印のついた印に手を添える。
すると、時間が経って目の前の扉が自動で開いた。
――何度見てもすごいよな……。
そんな事を思いながらヤマトの足は勝手に動き、その扉を潜る。
するとまた自動で扉は閉まっていった。
扉が閉まった途端、何やら重力に異変が生じる。
どうやらヤマトともう一人、ぼやけて見えない謎の人物が入っていった個室は上に向かっているようだ。
そのまま少し時間が経ったらまた扉が開く。
そしてヤマトの足は動き、扉をまた潜った。
――……んでここを通るっと。
扉の近くにあった金格子を登り、飛び越える。
その先の階段を進めばヤマトと謎の人物はいつの間にか塔の一番上に立っていた。
ヤマトは空を見ながら大の字になって横になった。
すると謎の人物もヤマトの隣に腰掛ける。
何やらその謎の人物がヤマトに向かい話しかけているようだが、ぼやけているし声も聞こえない為に何も答えられない。
そんな時間が続いていく。
そして……。
――それで、ここから……。
すると、突然にどんどんと視界が暗くなっていく。
そして、何かに強烈に下から引っ張られるような感覚に囚われた。
辺りがだんだんと暗くなっていく。
何やら穴に落ちたような感覚だ。
上を見れば青い空が見えるがそれもどんどんと小さくなっていく。
……そして何かの声が聞こえたと思ったら、完全に視界が黒く染まった。
★★★
「んで、目を覚ますっと」
いつもと同じタイミングでヤマトは目を覚ます。
本当にあの夢は何なのだろうと思うのだが、考えても分からない為に保留する事にした。
今日はトローレの街二日目。
あの後、結局ヤマトはカーラと同じ宿に泊まる事になったのだが、この宿が中々立派な物である事を目覚めて初めて気が付いた。
それまでは事がすぐに変わっていった為、宿のこと等気付く暇が無かったのだ。
絨毯は青く気品のある物で、カーテンも白色のレースで作られ、窓の外から日の光がこぼれる。
ヤマトはそんな自らの部屋に今更に感嘆した。
「ヤマト。いるか?」
そんな時、カーラがドアノブを回して部屋に入ってくる。
カーラは既に冒険者用の服装……何時もの赤コートの下に銀の鎧を着て、青のズボンを履いた格好に着替えていた。
さすがに昨日のように肌の透けた寝巻きはヤマトの衛生上宜しく無いのでヤマトはこっそり胸を撫で下ろす。
「カーラさん、どうしたんだ?」
とにかくさっさと用件を聞こうとヤマトはカーラに訊ねる。
するとカーラは頷き口を開く。
「なに、今日はギルドで依頼をしようと思ったから誘いに着ただけだ」
そういえば、ヤマトは大会に出るまで金稼ぎもかねた軽いウォーミングアップをしようとギルドで依頼を受ける事になっていたのである。
それを思い出したヤマトは今の白装束の寝巻きから何時もの格好に着替える為、慌てて脱衣所に跳んでいく。
数分後ヤマトはいつも通りの紺のロングコートに黒に白いラインの入ったシャツにベージュのズボンを履いて、カーラと共にギルドに向かうのだった。
★★★
ギルドに着いた二人は依頼を探す為に受付を訪れる。
予想通りといったところか二人の姿を見たものはそのまま視線を向けた状態で停止する。
それにヤマトは苦笑するしかなかった。
(今度からはもう少し自粛しないと……前にもこんなこと思わなかったか?)
そんな事を胸に抱きながらもヤマトは歩を進めた。
そしていつもの如く受付で依頼を選ぶヤマトは一つの依頼を発見する。
「討伐依頼、トロールか……」
ヤマトが手に持つのはトロールの討伐依頼。
トロールとは緑色の巨人で、近くにある木を抜き取ってはそれを振り回すという危険度Aランク指定の魔物である。
「カーラさんが居るから大丈夫だろ」
「嬉しい事を言ってくれるな」
カーラは僅かに微笑むが、ヤマトは当たり前といった顔でカーラをジト目で見つめる。
カーラにとっては危険度Aランクの魔物など取るに足らない相手であるのだから。
とにかくカーラも了承した事でその依頼を受ける為、ヤマトは受付嬢に渡そうと声をかける。
しかし、それは一つの声にかき消されてしまった。
「大変だ!!」
突然大声を上げながらギルドに走ってくるのはギルドで働いているらしい若い男。
黒のスーツを身に着けたギルド社員は掲示板に一つの紙を張りながら言葉を続けた。
「先ほど向かった緊急依頼に不測の事態が起きたんだ!!」
いきなりそんな事を言われてもヤマトとカーラは分からない。
ゆえにしばらく話を聞いていく内になんとなく全容がわかってきた。
男が言うには、ここ数日にトローレから南側の山に魔物が謎の大量発生したとの事。
その為ギルドは昨日から緊急依頼を設けたのだ。
それを受けた複数のチームと冒険者はその魔物達を駆逐する為に山に向かったそうだ。
しかし、ギルドに予想していなかった事態が起きた。
何と魔物の強さが予想されていたものよりも遥かに上を行くものだったのだ。
この連絡があったのは先ほど。
一人の満身創痍の冒険者が多くの傷を抱えながらこの街に戻ってきたのだ。
これによりギルドは追加の緊急依頼……冒険者の救出を設けに来たという訳である。
「何か大変そうだな……」
ヤマトは必死で状況を説明する男を眺めながら呟く。
男はそのままギルドの奥に姿を消していく。
そして、奥からは何人ものギルド員が姿を現した。
「今から緊急依頼に参加している冒険者の名を公開する」
同時に今現在、山に取り残されている冒険者の名前が張り出された。
次々に呼ばれる名前にヤマトは多いなと眉を寄せる。
……そんな時、ヤマトはその中で聞いた事のある名前を目にしてしまった。
「……四人チーム、ローラ、リリー、ウルト、スレイ、……!?」
ヤマトは驚愕する。
つい先日分かれたばかりのローラ達の名前が挙げられていたのである。
そんなヤマトに更なる追い討ちがその張り出された紙を読む冒険者達の口から放たれる。
「…………、…………、ラーシア、…………、……」
「ラーシア!?」
ヤマトは懐かしい名前にさらに目を見開く。
そんなヤマトにカーラが後ろから訊ねてきた。
「どうするんだ?」
カーラはヤマトの肩に手を置いて静かに見つめる。
ヤマトは一瞬だけ身震いをしてすぐに振り返った。
その瞳は既に答えを見つけているものだった。
「――あーッくそ! 俺、この依頼を受けるよ!」
「良く言った!」
ヤマトは決断した。
三年前の緊急依頼では、自分ひとりでは全く歯が立たない程の強力な魔物がうじゃうじゃ居たが、今は違う。
今のヤマトは強くなったのだ。
「俺がその緊急依頼受けます!」
ヤマトは大きな声でそう宣言した。
★★★
「――確かに今は人で不足。だが君のような子供にこの依頼を受けさす訳には……」
茶色の髪に碧眼のギルド員の者らしいスーツを来た男がヤマトを見るなり無理だと告げた。
見た目はまだ若輩者であるヤマトの姿にそのような態度をとってしまうのは致し方ないのかもしれない。
ならば依頼を受ける為にはどうすればいいか。
答えは簡単。
実力を証明すれば言いだけである。
「言うけど、俺は戦える。何なら試してみてもいいけど?」
ヤマトは臆する事無くあっけらかんと言い切った。
これには一同目を丸くする。
……そして次の瞬間、周囲の者が腹を抱えて笑い出した……。
「ギャハハハ! 無理だ無理だ! お前はおとなしく家にかえってな!」
「確か“魔道王”の弟子とか噂されてるけど、どうせ偽情報だろうしな」
口々に他の冒険者達がヤマトに言葉を吐き出す。
確かに先日ヤマトは“魔道王”の弟子だと口外してしまったが、他の冒険者が言葉だけでそれを信じる筈がなかったのである。
考えてみれば分かることだが、“魔道王”の弟子というだけでギルドからは優遇される可能性もある。
それを狙って名声を高めようとする者も居ても可笑しくないのだ。
おそらくここにいる冒険者もヤマトをその類だと思ったのだろう。
「ガキは引っ込んでろよ!」
周りの者が次々に囃し立てて来る。
しかし、それにヤマトは静かに佇むだけである。
ヤマトはそれらの言葉を全く気にしてはいなかった。
「おっさん達……ダメだな」
「は………?」
考えてみれば分かることであるのだが、ヤマトの傍にはカーラが居る。
そして、昨日にSSランクホルダーたるカーラ自身がヤマトは弟弟子と言ったのだ。
これは何より説得力のある言葉ではないか。
だが、この時点の周りの冒険者はまるで気が付かない。
「隙が多すぎ」
ヤマトは静かにそう告げた。
ヤマトにとって、この場で動こうとしない者は口だけの冒険者である事を見抜いていた。
真の強者は対峙しただけでその者の力量をある程度把握できる。
そしてヤマトはその強者だった。
ヤマトはすぐに目を閉じる。
周囲のものはその行動に首を傾けるだけであった。
「どうした、嘘つき野郎? ビビッたか?」
さらに冒険者達がヤマトに口を出すがヤマトは目を閉じたままである。
それにカーラは驚きつつ、ヤマトに向かい面白そうなものを見るような目を向ける。
カーラは気付いていたのだ。
今、ヤマトの内にどれだけの魔力が込められているかを……。
……そして三十秒程経ち、ヤマトは静かに目を開けた……。
「…………ははっ!」
そしてヤマトが笑う……と同時にヤマトはその場から姿を消した。
「は?」
今しがたヤマトを馬鹿にした発言をした者は今度は間抜けな声を上げた。
なぜなら、自らの光景が一瞬で逆転したのだから。
「遅いよあんたら」
呟くヤマトはいつの間にか男達の背後に立っていた。
視界が逆転した者は宙に飛ばされ、逆さの状態になっていたのだからである。
その宙に飛ばされた男達が次の瞬間、地面に次々落ちていった。
「な…………」
その光景に周りが目を見開いた。
なにせ先ほどまで目の前にいた黒髪の青年は一瞬で消え、突如背後に現れたかと思えば数人の男が吹き飛んでいるのである。
「何をした!」
残っていた男が拳を握り、ヤマトに打ち出した。
ヤマトの背後から攻撃は繰り出され、周囲は当たることを確信して息を呑む。
だが……ヤマトは首を傾けただけでそれを紙一重でかわす。
「おっさんもダメダメ」
ヤマトは瞬間、その男を一瞥した。
それだけでその男を、周りの連中を恐怖させるにふさわしかった。
プレッシャー、ヤマトが放ったのはそれである。
ヤマトの冒険者としてのレベルはそれを放つだけの……周りの足を竦ませるほどのものであった。
「これでもまだ足りないか?」
ヤマトは目をキッと鋭くさせて、鞘から刀を抜いては莫大な魔力をプレッシャーに加えて放った。
そして、その一瞬だけ起こる強烈な風はギルドを大きく揺るがした。
「……す、すまん! 君に対しての無礼は詫びるから治めてくれ!」
ギルド員の男はそう叫んでヤマトに謝罪する。
それを聞いたヤマトは表情をすっと元に戻して魔力とプレッシャーを抑えた。
「君も中々やるな」
ふと見ればカーラは満足そうに笑っている。
それに苦笑を返すヤマトはすぐに依頼受注の手続きを取り始める。
「……さっきはすまなかった………」
その時、ギルドの男がヤマトに近づき頭を下げた。
「……名前も姿も見た事が無いから……てっきり噂だけの初心者だと思ってしまった」
確かにヤマトは最近にバランから出てきた為に知るものはほとんど、いや皆無だと言っていい。
ゆえに男の誤解は仕方ないかもしれない。
「しかし、まさか君ほどの新人がいるなんて……。本当に“魔道王”の弟子なのかい?」
「さあね」
スーツの男は次にヤマトを見ながら感嘆していた。
先ほどの技、このギルドで動きを追えたのはこのギルドの中ではカーラだけである。
それほどの芸当をこなしたヤマトは、受付の女性や周りで野次にビクビクしていた新人の冒険者から敬意や羨望の視線を浴びせられている程だ。
「……今回の事宜しく頼むよ。君と“戦乙女”なら必ずやってくれると信じている」
ギルド員の男も受付嬢も、さらにはカウンターから出てきた他の従業員までもが二人に頭を下げた。
それに頷いたカーラはすぐにヤマトに声をかける。
「それではヤマト。行こうか!」
「ああ!」
そうして二人はギルドを後にする。
その素早さは周りをあっという間に置き去りにする程のもの。
二人はが目指すのは依頼の目的地となる魔物の巣窟。
だが、物怖じする事はまるで無い。
それから二人は風になった。
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