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漆黒の風  作者: ST
三章 黒風の通る道 武道大会編
62/123

8話 変わり者

「ヤマト。道具の準備をしたりするので手伝ってくれませんか?」



それは宿に戻ってすぐの事だった。

最初はいきなりのローラの言葉に呆けるヤマトだったが、明日に旅立つと言ってあった事を思い出し、納得する。

確かにトローレまでの道のりは多少長い。

普通なら急いで三日だが、ヤマト達はトローレまでの道のりはゆっくりと進む事にしていたのでおそらくその倍はかかるだろう。


何故ゆっくりと進むかについてはヤマトは知らない。

ただ、「なるべく長く一緒の方が良いじゃない」とリリーが言っていた。

確かにこれから旅をずっと共にするわけでも無いしな、とヤマトは無理やりそういう事にしておいた。



「いいよ。俺もいろいろと見て回りたいし」


「じゃあ行きましょうか」



今は大体昼過ぎ頃。

ギルドから帰ってきたばかりだが別段疲れていないためすぐに宿を出る事にした。





     ★★★





メドラの街はバラン地方にある街と比べると、やはり賑やかだ。

こんなに賑やかで盗賊とかに襲われないのかとヤマトとローラは思うが、それはバラン地方だけである。

実際のこういった国内の街については盗賊も捕縛される為に目立って行動しないのだから。



「それでまずは何から見るんだ?」


「そうですね。まずは道具屋から行きましょうか」



道具屋には様々な道具が売られている。

薬草や魔石といった冒険者用の物から生活用のものまで種類は多い。

旅に出る出ないに関わらず生活する為には必要なものが揃っている。



「そっか。薬草はまあ確かに俺も見てみたいな」


「薬草ですか? ヤマトは治癒魔法を使えましたよね?」



ローラが盗賊<ブローダ>に襲われている時にローラを庇ってスレイが怪我を負った。

そんな時に現れたヤマトはブローダを討伐した後にスレイの怪我を治癒魔法で治療したのだ。



「確かに治癒魔法は怪我を治したり病を直したりする事もできるけど、その効果は結構限られてるんだ。特に病とかは治癒魔法だけじゃどうにもならない時もあるのさ」


「じゃあ、そういった場合はどうするのですか?」


「その為に薬草があるんだろ? しかも薬草と治癒魔法を合わせれば効果はかなり期待できるし」


「そうなんですね……」



ヤマトの知識に少し感嘆してみせるローラ。

何故かその頬は若干の赤みを帯びている。



「まあ、大抵の怪我は治癒魔法で何とかなるけどな」



ヤマトはそう微笑して道具屋に入っていった。

ローラもそれに付き添うように入っていく。


道具屋の中は中々広かった。

それはバラン育ちの二人からすればとも言えるが、実際に広さ的にはそれなりに広い店であった。



「へえ。結構品揃えも良いし。良い物もあるかも」



ヤマトはあちこちに視線を飛ばしながら店内をうろつく。

ローラはそんなヤマトの行動に若干頬を緩めながら自分も置いてある店の品物に目をやる。



「お! カクサの実」



そう言ったヤマトは一つの瓶に入った薬草を取り出す。



「その薬草はどんな効果なんですか?」


「ん? これ自体は免疫を少し上げる程度の薬草だ。けど調合によっては効果の高い薬を作ることも出来る薬草なんだ」


「調合ですか? でも誰に頼むんですか?」


「別に頼まないけど。調合くらい自分でやるさ」



ヤマトは知らない事だが、冒険者というのは普通役割を決めてある。

戦闘においては魔道士や剣士といった近距離と遠距離に分けられるし、参謀と戦闘員にも分けられることもある。

それと同じようにやはり調合師も戦闘員から外れる事は多い。

理由は単純に器用貧乏になってしまうからだ。

故に剣士なら剣を、魔道士なら魔法を、参謀なら頭を、治癒魔道士なら治癒をと言ったように役割を決める。


だが、ヤマトはその常識から大きく外れている。

ヤマトは魔法剣士、それは良い。

属性魔法を使える魔法剣士はとても珍しいが居ない事も無い。

最近では魔道具の使用も普及されてきたし別段異常ということでもない。

だが、その上で使える魔法の中に治癒魔法が存在し、さらに調合も行えるとなるとそれはまた随分と変わってくる。


単純にヤマトは規格外である。

普通の者ならば羨望や嫉妬の眼差しを向けてくるだろうし、貴族や一国の王などがその存在をしれば喉から手が出るほどに欲しがるだろう。

しかし、その事実をまだ(・・)ヤマトは知らない。



「ヤマトはすごいんですね」


「いやいや。俺よりもすごい奴なんて多分いっぱい居るよ」


「私は想像できませんけど」



ローラは先ほどまで考えていた思考をどこかに追いやり苦笑を見せる。

ヤマトはローラの心の中を悟った様子も無く視線をまた並べてある品に戻していった。



(そんな巨大な力を持った青年……)



ローラは一種の戦慄を覚える。

ヤマト自体はその力で何かを為そうとは考えていないようだが、もしもこれから考えが変わるようならばどうだろうか。

例えばの話……四十年ほど前のある種族の男が起こしたような、邪神の復活を目論むようなそんな野望が芽生えたりしたならば、犠牲無く止められるのだろうか。



(考えすぎです。ヤマトの言うように上には上がいますし、ちょっと珍しいだけ。ヤマトに限ってそんな事をする可能性はないですよね)



ローラは自分の考えを消す。

考えても仕方ないし、そんな可能性は彼の性格上万に一つも無い。

本当……どうしたのだろう。

ローラは何故そんな事を考えてしまったのかが分からない。

そう、バラン地方で育ったものは大抵見知らぬものに対して無意識に警戒する。

そうしなければあっと言う間に騙され、裏切られ、生きていけなくなるのだから。


だが、会ってまだ少ししか立っていないヤマトにローラは自分の事のように心配する気持ちがふと芽生えていた。



(トローレの街に着いたらヤマトとは別れるんです。そういった気持ちは必要ないはずです)



それがローラの上辺・・での答えだった。



「おーい。ローラは何か買わないのか?」


「あ、ちょっと待ってください」



ヤマトの声でこちらに戻ってきたローラは慌てた様子で自分の必要なものを探す。

その間にチラチラヤマトの顔を窺った自分の行動にローラは疑問を隠せなかったが。





     ★★★





「次は何処に行こうか?」


「そうですね……」



一通り必要なものを買い終わった二人は店を出た後で道をまた歩き出す。

周りを見てみるが興味の出そうな店もなくただ何となく歩いている感じになってしまっている。

これでは散歩のようなものだ。



「どうしましょう……。あ、あそこにあるのって……」


「ん?」



ローラが指差す方向を覗いてみる。

そんなヤマトが視線に捕らえたのは一つの魔道具の店だった。



「魔道具か。俺にはあんまし必要ないんだけど、見るだけ見とく?」


「そうしましょうか」



確かにヤマトにとっては必要ないがローラ達は違う。

四人の中で魔法を使えるのはローラだけだし、魔石を使って他の三人も魔道具で魔法を使えるようになれば戦力も上がるだろう。

最も自分達のそばには魔道具職人として有名なガノンがいる為に見るだけとなりそうだが。



「いらっしゃいませ」



店に入ると小太りの中年の男が出迎えるように声をかけてきた。

……と思えば何やら目を細めだす。

ローラはその視線に少し困惑するが、ヤマトはその男の意図する事にすぐに気付いた。



(ああ、舐められてるな)



バラン地方でも良くそういった視線を浴びる事がある。

むしろローラのように困惑する方が珍しいのだ。



「ヤマト、これは何でしょう?」


「ん? どれどれ?」



ヤマトがローラが示す一つの腕輪の魔道具を見てみる。

秘められた魔法はヤマトの見解ではおそらく風魔法の突風ガスト

込められた魔方陣の質は悪くは無いが、良いというものでもない。

元々あらゆる風魔法に対しては精通して、ガノンに魔道具に付いての知識を多少教えてもらったヤマトにはそのくらいは分かった。



「う~ん。あんまりってとこかな?」


「そうですか……」



そうやってその魔道具を戻す。

次に視線を移した先にもやはり一つの魔道具があった。

それはガノン№である。



「ここにもガノンのおっちゃんの品があるんだなー」



そうやってその魔道具を手に取る。

形としては指輪である。



「あれ?」



しかし、ヤマトは首をかしげた。

その魔道具はガノンの作品としてはかなり雑だったのだ。

魔道具の作りも悪くは無いがとてもガノンが作ったとは思えないし、魔方陣もどこか簡素な作りになっている。



「どうしたんですか?」


「いや、ちょっと――」


「いやーお目が高い! それはあの有名な魔道具職人ガノンの作品なんですよ」



そんな時、その指輪を凝視するヤマトに店の小太りの中年が近寄ってきた。

ローラもその声で気付いたのか、その店員の方に視線を向けた。



「それは指輪から中級の雷魔法を発する魔道具なんですよ。それなのにその値段! この店でしかありえませんよ?」



確かにその魔道具は安い。

驚愕するような安さではなく、普通よりも若干安いといったレベルだ。

それにローラは確かにそうですねと頷いたが、ヤマトは違った。



「まあ、確かに安いな。これがホントに魔道具職人ガノンの作品なら……な?」



その言葉を放った瞬間、店員の表情が引きつった。

ヤマトの言葉を聞いた周りの人の視線が店の店員の方を一斉に向く。



「何を言ってるのです? どこからどう見てもガノンの作品じゃないですか」


「確かに作りは似てるけど雑だ。魔方陣も少し脆いし」


「そんな事が見て分かるわけが無い! 冷やかしなら帰ってもらおうか!」


「まあ待てって」



怒る店員を宥めるヤマト。

その表情には余裕すら見える。

それはその魔道具がガノンの作品ではない事を確信しているからだ。



「ガノンは作品が自分のものである証拠に魔道具の何処かに自分の魔力を込めて文字を刻むんだ。でもこの魔道具にはそれが見当たらない。まあ、ガノンの作品じゃないな」



その言葉に店員が固まった。

だが、すぐにハッとしてヤマトに噛み付くように吠えた。



「そんな文字、消えてしまったかもしれないだろう!」


「魔力で文字を刻む場合はそれ相応の魔力で打ち消すように消すしかないんだ。それを商品に行う理由がない。しかもそんな事も分からないなんてあんた本当に魔道具を売る店員か?」


「なッ……!?」



ヤマトの決定的言葉に最早言葉も出ない。

周りの店員を見る視線を冷たいものに変わっていった。



「貴様ッ…………!」


「俺に噛み付くのはどうかと思うよ。まあ、嘘をつく奴が悪いって事で」



ヤマトはそれだけ告げて出て行った。

勿論ローラも一緒である。





     ★★★




「何故首を突っ込んだかって?」


「はい、あのまま無視しても問題は無かったはずです」



ローラの言葉にまあね、と返す。

確かに別段ヤマトが指摘する理由もメリットも無い筈であった。

しかし、ヤマトは言う。



「いや、何かガノンのおっちゃんを愚弄してるみたいでさ」



勿論自分達が何も知らない冒険者だと思って近づいてきた事にも腹は立ったが一番の理由はそれだ。

ヤマトはお人よしである。

それは彼の仲間であった者の全員が言うだろう。

その彼の性格上、そういったことを無視するのは難しかった。



「――――本当に変わってますね、ヤマトは」



ローラはそれを聞き、どうしようもないと呆れながらもヤマトに微笑んだ。

そんな彼に自分と仲間は救われた。

ならばそのお人よしには感謝しなくてはいけないと思えたからだ。



「まあ、よく言われるよ」



ヤマトはそれに苦笑を交えて返す。

空は既に暗くなりつつある。

何時までもここに居るつもりも無いし、二人は宿に戻る事にした。

明日に旅立ち向かうトローレの街、そこがどんなところかを思いながら。





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