7話 黒い災害
ここはローラ達が戦闘を行っている場所から少し離れた草むら。
ここでは自然災害とも言える何かが起こっていた。
ヒュンと空を斬る音がしたと思ったら、緑の草に赤い絵の具が混ざる。
再度音がしたかと思ったら、草ごと何かが切れる音がする。
次の瞬間に現れる突風に何かが吹き飛び、地面に倒れる音がする。
何通りもの音が辺りに鈍く小さく広がっていく。
一つ一つの音が重く圧し掛かってくる。
それらの音に今度は悲鳴が上がる。
何人もの人があげる悲鳴と辺りに響く鈍い音が交わり、まるで合唱をしているようである。
しかし、それが次第に小さく、弱くなっていく。
そして訪れる無音の世界、しかしそれは嵐の前の静けさに過ぎない。
無音の世界は次に現れた暴風によってかき消された。
辺りに広がる暴風はまさに竜巻。
いくつ物花や草、土を天に舞い上がらせる。
それは人も同様であった。
それがしばらく続いた後、舞い上がった物体達は重力に従い地面に落ちていく。
しかし、地面はクッションの様に柔らかくなり、落ち行く人達の衝撃を和らげた。
だが、和らげたと言ってもダメージはしっかりとあり、全員が意識を手放している。
その瞬間黒き疾風が去っていった。
こうして、自然災害は通り過ぎる。
……後に残ったのは盛り上がった土の牢屋に閉じ込められた盗賊達の姿であった…。
★★★
「はあ!」
ウルトがクレイモアを振り下ろし、盗賊の一人を地に伏す。
その男はその一撃で戦闘不能に陥った。
「水の槍よ! 水槍」
ローラの放つ水の槍が盗賊の何人かにダメージを与えた。
「くそが!!」
しかし、盗賊の一人がローラに襲い掛かった。
男が手に持った大きな剣を振りかぶる。
だが、それがローラに届く事は無かった。
「スレイ!」
スレイが棍を振り、男の顎を叩いた。
顎に一撃を受けた男が倒れる。
その隙にスレイは何人も棍を振るって敵を倒していく。
「スレイもやるわね」
リリーは今、盗賊の一人と戦っていた。
手に持つショートスピアで敵を突いてはすぐに離れていく。
いわゆるヒットアンドアウェイの戦法を取っている。
「この野郎!」
しかし、目の前の男に気を取られていたリリーは背後から迫るもう一人の男に気付かなかった。
リリーは慌てて対処しようとするが間に合わない。
咄嗟に目を瞑ったその時、男が風の魔法で吹き飛んだ。
「俺の魔道具も中々だろう?」
魔法を使用したのはガノンだった。
どうやらガノンは自らの作成した杖型の魔道具により、風魔法の突風を使用したようだ。
「魔石は持ってるからな。俺も参加させてもらおうか」
ガノンは自らの持つ魔道具を駆使して盗賊を次々と撃退していった。
その魔道具からは次々と魔法が放たれる。
その魔法が敵を何人も吹き飛ばしていた。
これには他の四人も唖然とする。
「……ガノンさんって護衛対象じゃなかったっけ?」
「……もういいです、はい。今は目の前の敵に集中しましょう」
五人は一つの場所に固まって、駆け寄る盗賊を少しずつ撃退していくのだった。
★★★
ここは滝の上の岩場。
そこには次の自然災害が起こっていた。
何人もの人が赤い絵の具で岩にペイントを施している。
いくつもの岩に、まるで切り裂かれたかのような傷が出来ていた。
そこにズカッと一つの音がする。
何と岩が真っ二つに切れたのである。
ドゴ! と音がしたかと思えば今度は岩が粉々に粉砕する。
その音と共に何人かの人が吹き飛んだ。
岩にはいくつもの人が寄りかかっている。
ある者は頭から絵の具を垂らし、ある者は腹のパレットを彩る。
そして今までで一番大きな音がしたかと思えば、辺りが静寂に包まれた。
その時、気絶している者が一箇所に集められていく。
そして誰かの声が岩場に響いた。
すると、岩が勝手に形を変えて一箇所に集められた者達を覆うような球体になったのである。
そして強い風が吹いた。
岩で出来た球体はそのまま転がり進んでいく。
その先は何と滝であった。
風によって滝に突っ込むその岩の球体は水に触れ、滝に流されるまま下に落ちていった。
岩の球体が消えた瞬間、黒き風も岩と同じように滝に向かって吹いた。
……そうして自然災害は最後の災害を与えるべく下に落ちていった。
★★★
「はあはあ……」
「結構居るわね……」
ローラ達は盗賊達を相手に善戦していたが、何分数が多い。
今ではやや押され気味である。
重傷者は出ては居ないが、全員に所々に傷が見えて息を荒くしている。
「てめえら! 次で決めるぞ!」
「「「おう!」」」
盗賊<ワークス>の首領と思われる男の一言により、五人に残った盗賊が押しかけてくる。
(このままじゃまずいですね……)
ローラ達が汗を流しながら迫る盗賊を睨みつける。
だが、それは盗賊からすれば追い詰められた獲物のそれであった。
盗賊は勝利を確信しそのまま接近していく。
……その時、滝から何かが落ちてきた。
「あれは……岩……!?」
滝の上から落ちてきたのは岩が球体と化したものであった。
滝から落ちてきたその球体は水の上をプカプカと浮かんでいる。
……そしてさらに上から何かが降ってきた。
「よっと!」
それは、ヤマトだった。
ヤマトは風魔法で起こす突風を着地時に放ち、衝撃を受けないようにする。
そうしてヤマトは天から盗賊達の真後ろに着地した。
「よいしょー!」
ヤマトはその声と同時に刀を払う。
すると大きな暴風が襲いかかり、ローラ達の活躍で減っていた盗賊達を全て吹き飛ばした。
「「「「「……………………」」」」」
全員が無表情でその光景を眺める。
皆はそれぞれ突然の出来事に身体が固まって動けずに居たのだ。
「お、みんな。一応討伐は終わったようだからさっさと帰って休もうか」
ヤマトが<ワークス>の首領を縄で縛って担ぐ。
そうして振り替えったヤマトは皆に清々しい笑顔を向けては、そのまま街の方に歩いていった。
……これにて盗賊討伐は終了したのだった。
「「「「「ちょっと待てやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」」
五人の怒鳴り声は街まで響いた。
★★★
「どうやら盗賊の駆逐は完了したようですね」
「ククッ……。これで盗賊共の盗んだ盗品がすべて手に入る」
ここはメドラの街やその付近を領地とする貴族、フィルムの館の一室。
そこで会話しているのはフィルムとその使用人である。
ここ最近盗賊が出没し、襲撃が多くなった。
しかし、それはフィルムが盗賊に手を貸したからである。
フィルムは盗賊を使って街に近づく冒険者や旅人から略奪させていた。
その略奪したものの数割を領地の主である自らに納めるならば国に報告はしないといったのである。
その利害関係もあり、盗賊は辺りを片っ端から略奪していった。
しかし、動きが大きすぎた為に街でも噂が広まるようになっていった。
さすがにこれでは不味いとフィルムは盗賊を捕縛する事にする。
国に報告して捕縛すれば自らのしでかした事が国に知れてしまう為、フィルムは冒険者に依頼する事にした。
ギルドを通せば捕縛した後此方に回してもらえるので、ついでに盗賊が溜めた金のありかを聞き出そうと画策したのである。
そんな訳でギルドに依頼するとすぐに愚かな冒険者がそれを受注した。
報酬も十分に用意した為に当たり前の事だったのだが……。
そうして今、<ワークス>の首領が目の前に居る。
これはこの街のギルドマスターに自らの権力を盾にして頼んだからであった。
「てめえ! 俺らを裏切ったな……!」
「何のことやら。貴様と組んだ覚えは全くないが?」
首領は悪態をつくがフィルムはせせら笑い、惚けてみせる。
「くそが……!」
悔しそうに顔を顰める首領は今にもフィルムを睨み殺すかのようにフィルムに顔を上げる。
それを愉快そうに笑うフィルムはズイっと顔を近づけ胸倉を掴んだ。
「貴様ら下等な盗賊がせっせと馬鹿みたいに集めた金は何処にある?」
「あ~それ、ここだけど」
「!!?」
「!!!?」
フィルムが金のありかを聞いた瞬間、後ろから声がした。
慌てて振り替えった使用人を含めた三人の前には何と黒髪黒目の青年が立っていたのだった。
その青年はフィルムに微笑んで持っている袋を床に放り投げた。
すると袋からかなりの金が床にばら撒かれていった。
「まあ思った通りだったな」
黒髪の青年、ヤマトはうんうんと一人で納得したように頷く。
その姿に呆けて見入っていた三人は徐々に思考を取り戻していき、使用人が怒鳴りつけた。
「貴様はだれだ!!?」
「ん? ああ、この度あんたらの依頼を受けた哀れな冒険者さ」
ヤマトは溜め息をついて……フィルム達を見つめた。
それはまさしく獲物を見つけた狩る側の目。
フィルムに縛られている<ワークス>の首領はヤマトに恐怖した。
「そんな訳で、国に自主するなら見逃してもいいんだが?」
ヤマトはにっこりと笑いフィルムに促す。
そんなヤマトが言った事は国に対して自主しろというもの。
だが、男爵の地位といえど、この事が国にバレれば最悪爵位の返還もありえる。
勿論それを傲慢なフィルムが許す筈も無かった。
結果、腹を立てたフィルムは顔を赤くしてヤマトに怒鳴りつけた。
「たかだか冒険者が図に乗るな! ここで貴様を殺してしまえば良いんだからな!」
フィルムが怒鳴ったと同時に何人もの護衛が集まってくる。
その事にフィルムは高らかに笑った。
「さあ! そいつをここで殺せ!」
フィルムの一言によって護衛の連中が一斉にヤマトに迫る。
護衛の連中もたった一人で乗り込んできたヤマトに対して薄笑いを浮かべている。
それに目を細めたヤマトは深い溜め息をついた。
「ここで自主すれば見逃したのにさ……」
そう呟いたヤマトがおもむろに懐からナイフを取り出す。
……そして目をカッと見開いた。
★★★
ここ……メドラの街でとある事件が起きた。
貴族であるフィルム=ガーテン男爵がなんと盗賊を利用した略奪をしていたのだ。
国にも報告せずにそれを続け、街の付近では何人も被害が出ていた。
しかし、それは何者かの手によって解決する事になる。
何とフィルム男爵と<ワークス>と他二つのの盗賊達が縛られて発見されたのだ。
そこにはこれまで男爵が犯した数々の事が書かれた証拠となる報告書らしき物も一緒に置かれていた。
これにより街の自警団は王都に報告。
そしてフィルム男爵は捕まり、盗賊達も御用となった。
そうしてフィルム男爵が裏で行っていた事件は解決したのである。
「これ絶対ヤマトですよね?」
ローラがギルドの掲示板を眺めながら顔を引きつらせる。
他のものも大して変わらない表情である。
「さ~てね」
それを笑って誤魔化すのはこの事件を片付けた本人、ヤマト。
面倒事になりそうなので裏で動いたがここまで正体を隠しきれるとは思わなかった。
(まあ、あの王女様は気づいてるかもしれないけどな)
自分が魔力を溜めてマストを発動させようとした時、一番最初に気付いたのはおそらくあのセリーナであろう事はヤマトも分かっていた。
一見気付かない振りをしていたが、目や体の振るえを見れば一目瞭然である。
そのような王女がこの事件の事を嗅ぎまわる危険性もあるのだ。
無論、これはヤマトの推測に過ぎない。
しかし、最悪の方向に事を考えておく事も重要だ。
(次の街、トローレは王都が近いからな。注意しないと……)
おそらく王女はあの一件以来自分の事を警戒しているだろう。
なにせ超感覚能力分の膨大な魔力を見せたのだから。
「とりあえず明日にはこの街を出ようか」
この街に長居するのはヤマトとしても宜しく無いのでさっさと離れる事とする。
それに頷く五人にヤマトは感謝した。
「もう今更ですから」
どこか諦めたようにローラは宿屋に戻っていく。
それに皆も苦笑しながら後に続いていくのだった。
――さて、次の街で進展がありそうだな……。
ヤマトは一人心の中でそう予感した。
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