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漆黒の風  作者: ST
三章 黒風の通る道 武道大会編
60/123

6話 フィーリア王国

シラン王国から入った関所を通って最初にある街はメドラである。

メドラは三大国の一つフィーリア王国の街だけあって、とても賑やかなものであった。


行き行く人達の数はとても多く、石造りの舗装された道を歩いている。

道にはいくつ物店が立ち並び、その数は豊富。

所々に緑も見られ、来る者の心を癒している。


そんなメドラに着いたヤマト達は真っ先に宿を探していた。



「この次が確かトローレだったよな?」


「そうだ。まあここで少しくつろいでから出発するぞ」


「いいのか……。依頼者がそれで……」



ヤマトとウルトが呆れながら溜め息をついた。

とりあえずメドラの街には多少長く滞在する予定である。


フィーリアはバラン地方とは対象的に国も安定して、滅多な事では街に盗賊が略奪を繰り出す事も無い。

故にヤマトとしても落ち着いて過ごせそうなので異論は無かった。



「着きましたよ」



ローラが三人に向かい声をかける。

どうやら宿に着いたらしく、ヤマトは前方を見上げた。



「おお~!」



目の前にはしっかりと建っている中々豪華そうな宿があった。

ヤマト達はその中に入っていく。

どうやら中も綺麗に管理されているらしく、とても泊まり心地はよさそうだ。



「いらっしゃいませ」



ガノンが「フィーリアはどうだ!」と得意顔をしている時、どうやら宿の使用人が六人に気付いたようだ。

このチームの代表であるローラがそれに応対して、宿の部屋を取る。

そんな光景を見ながらヤマトは考えていた。



(――この街。なんか匂うな)



先ほど街に入ってきた時に、なにやらあまり良くなさそうな情報が耳に入ってきたのだ。


どうやらこの街の付近の街道での盗賊の襲撃が多発しており、何人もの旅人や冒険者が襲われたようだ。

ヤマトらはそんな襲撃には遭わなかったのだが、街の人がこぞってそんな話をしていたので、あながちデマでもなさそうだ。



「俺はちょっと街の様子を見てくる」


「え……? ちょっと――」



リリーが驚いたように後ろを振り向くが、其処には既にヤマトの姿はなかった。

その様子にローラははあ、と息を吐く。



「ヤマトが戻ってくるまで自由行動にしましょうか」



ローラはそのまま取った宿に歩を進める。

皆も苦笑しながらそれについていくのだった。





     ★★★





ヤマトは宿を出た後、そのまま街をぶらぶらと歩いていた。

人が往来する中でヤマトはこの街の近辺で起こる盗賊の事に着いて思考を働かす。



(ここはフィーリア王国の領土の中……。それなのに盗賊に対して何も対策を施さないとは思え無いんだが……)



街の中でここまで噂が広まっているのである。

それに対して討伐隊の一つも出ないのは可笑しなことでは無いか。



(裏で何かありそうだよなぁ。……まあ俺にはあまり関係ないか)



これは国が対処するべき事で、ヤマトがしゃしゃり出ていい物では無い。

どちらにせよこのまま被害が出続ければ、ギルドの方で討伐依頼が出てくるだろう。

どちらにせよ面倒事に巻き込まれない事を祈りつつ、ヤマトはそのまま情報を集める。


そんな時、ヤマトの前方で何人もの護衛をつけた一人の男が歩いているのが目に入った。

その男はキラキラと光るようなまさしく貴族の格好といった金色の服を身に着けている。



(……そういえば、この街に貴族の屋敷があるって誰かが言ってたな)



前方の男が通るたびにその近くに居る民衆が頭を下げている。

そんな光景を見ながらヤマトは顔を引きつらせた。



「バランじゃあんな人居なかったしな……。正直びっくりだな」



高そうな気品のある服を着て、人を従わせ、街の人に畏れられる。

バランにそのような人物は居なかったのでヤマトはある意味で新鮮さを感じていた。



「おい! 其処の者! フィルム様の前で頭が高いわ!」



ヤマトが貴族の歩いている姿に見入っていると、どうやら護衛の兵に見つかったようで怒鳴られてしまった。

面倒事はごめんだと慌てて頭を下げるヤマトにそのフィルムという貴族がフンと鼻を鳴らした。



「そんな薄汚い冒険者に構ってないでさっさと行くぞ」



どうやらヤマトに興味は無いようでそのままズカズカとフィルムは去っていった。



(……あれがこの辺りを領地とする貴族、フィルム=ガーテン。ガーテン家って言ったら男爵とか言ってなかったかな?)



この街の情報を駆使してフィルムの人物像を把握。

フィルムはどうやら傲慢な貴族のようで、税も必要以上に多く取っており、この街はともかくも、他の村などは苦しんでいるようである。



(……この街に無理強いしないところはただの馬鹿じゃないって事か)



この街は同盟国シランから人が入国して来てたどり着く最初の街である。

その街が寂れているとすればフィーリア王国の王も黙っては居ないだろう。

要はこの街はフィーリアの看板のようなものなのだ。



「ま、関わらないほうがいいだろうな」



どこか嫌な雰囲気の貴族と無理に関わる必要も無い。

ヤマトはそのまま踵を返して、ローラ達の泊まる宿に戻っていった。





     ★★★





「ヤマト。依頼受けてきたわよ」



宿に帰ってきたヤマトにリリーの第一声が上がる。

ヤマトはへ? と驚いたような声を上げてローラが持っていた依頼書を確認した。





=====討伐依頼=====


内容

最近この街の近辺に出没する盗賊を討伐して欲しい。

盗賊団の名前は<ワークス>というらしく迅速に処理してもらう。


依頼受注条件

過去にBランクを討伐した事がある者


注意

盗賊の首領は必ず生かして捕縛するように


依頼者

フィルム=ガーテン





「いやー。ヤマトが無駄にBランク狩ってて助かったぜ!」


「無駄にって何だよ……。それより問題なのは……」


(依頼者がやばっ!!!)



なんとこの盗賊討伐の依頼がフィルムなのだ。

今しがたあったばかりのヤマトにとってもう一度会いたいとは間違っても思えない。



「まさか貴族の方から依頼が来るなんて……。貴族の人も早く対処しようとしてるのね」



貴族がじきじきに金を払って討伐依頼を出している事に感嘆の声を上げているリリー。

しかし、ヤマトはあのフィルムという貴族がそんな他人の事を思って依頼をするとは到底思えなかった。



(それに“必ず生かして”というのが気になるな……)



討伐依頼において別に盗賊の駆除が目的ならば生かしておく必要も無い。

勿論生け捕りの方がいいだろうが、必ずという部分に引っかかる。



「俺はパスしたいです」



ヤマトが即刻挙手して依頼の離脱を図る。

この依頼は何か面倒な予感のしたヤマトはこの依頼は受けるべきでは無いと判断したのだ。

しかし……。



「ヤマト。あなたは仮ですが私達のチームの一員です。私達と一緒に依頼を受けてもらいます」



ローラがにっこりと微笑んだ。

それはもうドス黒い笑顔を。



「……ハイワカリマシタ、イライヲウケマスヨ」



こうなればヤマトに逆らう手段は無い。

片言で冷や汗を流しながらヤマトは同意した。

それを見て、「それでは早速明日に行きましょう」とローラは静かに部屋から男共を追い出す。



「ローラ恐っ!」



セラと根本的なところが似ているローラにヤマトは身震いした。

それにうんうんと頷くウルトとガノンを連れて、ヤマトは自らの部屋に向かうのであった。





     ★★★





翌朝になって、ヤマト達はそのまま盗賊を捜索する為に、街で情報を集める為にバラバラに別れた。



(本当は場所を特定するだけなら超感覚能力マストを使えば一発なんだけど……)



それでもヤマトは超感覚能力マストを使わなかった。

理由は街で多くの情報を手に入れて、フィルムの事について少しでも知りたかったからだ。



(俺の予想では裏でなにかある気がするんだよな……)



予想が外れればいいのだが、バランに居るときは良く最悪の事を考え行動するようにアルに言われている。

今回もその教え通りにヤマトは動こうとしているに過ぎない。

しかし、街の人の話を聞くたびにヤマトは自分の考えを確信していった。



(全く面倒だな……。俺も動きますか!)



そうしてヤマトはそのまま集合場所まで戻っていった。




     ★★★





「あっ! ヤマト! どう? 盗賊の場所は分かった?」



ヤマトが戻るとリリーが聞いてくる。

どうやらヤマトが一番遅いらしく、しかし他の者は有力な情報は得られなかったようだ。



「ああ。一応わかったんだけど……なんでガノンのおっちゃんが居るの?」


「ガハハハ! まあ細かい事は気にすんな!」


「…………ああ。」



護衛対象の筈のガノンが盗賊討伐の依頼について来る意味が分からないが、街に居る間に狙われても対処しにくいだろうし、何より依頼者本人が良いと言っているので其処まで気にしない事にした。



「それよりヤマトは盗賊の居場所を掴んだって言うけど……」


「ああ。多分ここから西の方にある洞窟にいると思うけど?」


「……さすが情報集めが早いわね。それじゃさくっと終わらせましょ」



リリーが明らかに面倒くさそうな表情で街の外に出始める。

なら依頼を受けるな! と突っ込むのを押さえてヤマトはおとなしく五人についていった。





     ★★★





街の外に出て、歩く事三十分程。

草を掻き分け、木々を抜けてたどり着いたのは滝の下にある水の溜まり場。

砂利を踏んで音を鳴らすその場所の前方に洞窟が見えてきて、六人は近くにある岩場に隠れた。



「さて、ここからどうするかを考えないといけませんね」



岩場の影に隠れた理由はどうやって洞窟の中に居るであろう盗賊を壊滅させるかを話し合う為。

ヤマトなら一人で壊滅できるのだが、それでも一人の突撃は避けたいところである。

ヤマトもそれはこの四人のチームの為にならないとローラの指示に従う事にした。


そんな訳でローラ達が思考錯誤している間、ヤマトは何気なく目を瞑りマストを発動させる。

三十秒経ち、目を開けて感じた直感にヤマトは溜め息を吐いた。



「どうしたんだ? ヤマト」



ウルトがヤマトの様子を見て、不安そうに訊ねる。

それにヤマトは苦笑して状況を説明した。



「いやぁ。感知魔法である程度は気付いてたんだけど……」


「――――何を……?」


「盗賊団……どうやら三つ程集まっているみたいだ」


「「「「はあっ!!?」」」」」



ヤマトは街に出てから常に感知魔法で人数の多さを把握していたのだが、いかんせん数が多すぎた。

しかも人溜まりが三つに分かれているところから盗賊団が三つあると推測できた。



(フィルムめ、分かってて書かなかったのか? いや、そのためのBランク討伐が条件か……)



確かにヤマトの見立てでは盗賊達はあまり強くない。

Bランクを狩れる者なら何とか相手できるだろう。


しかし、それでもかなり辛い戦闘を強いられる事になる。

なにせ数が多すぎるのだから。



(冒険者なんてどうなってもいいという事か……)



其処まで考えては若干溜め息を吐いて、ヤマトは立ち上がる。

そして刀を抜いてはそのまま洞窟とは逆の方向に進んでいった。



「俺は二つ受け持つから残り一つはよろしく。敵も其処まで強くない筈だから大丈夫さ」



辺りの砂利をシャリシャリ言わして、ヤマトはそれだけ言い残して颯爽さっそうと盗賊のいる方向に駆けて行った。



「盗賊団二つを潰すって……。大丈夫でしょうか……」


「――多分大丈夫じゃね? あんまり気にしてたら頭おかしくなるぜ」


「そうね。今は目の前の洞窟の中に居る盗賊を狩らないと……」


「…………来る」


「え……?」



スレイが前方を見ながら静かに呟く。

それに反応したローラは洞窟を見つめた。


洞窟の中から足音が聞こえてくる。

それも一人や二人等ではなく、たくさんの物であった。

すると何人もの盗賊が洞窟から出てくるではないか。



「ここに居たら不味くない……?」



リリーが不安そうに訊ねるが、それに応答するものは居ない。

とにかくここから一旦離れようと試みたが、どうやら一足遅かったようだ。



「誰だ!?」



早速盗賊の一人が気付いたようで、皆はそれぞれ頭を抱える羽目になった。

とりあえず五人は観念して岩場の影から姿を現し、盗賊を見据えた。



「あなた達を討伐するよう依頼が来たのよ!」



リリーが物怖じせずに盗賊を睨むつけた。

ここで弱気になれば相手は強気になり、此方が不利に成るかも知れなかったからだ。

他の者も同じようにして武器を手に取る。


すると奥に居る盗賊の男が顔を真っ青にさせた。



「何だと!? あいつ、裏切りやがったのか!!?」



どうやら冒険者が来るとは思っていなかったらしく、かなり慌てた素振りを見せる。

普通、盗賊をやっている者は冒険者の襲撃を気に止めるはずである。

しかし、目の前の盗賊達はまるで冒険者が来る筈が無いといった様子であった。



「あいつ……とは誰のことでしょう?」


「ちぃ……。うるせえ! お前らをぶっ殺せば全部片付く! 死ねえ!!」



目の前の盗賊の一言により、一気に五人に襲い掛かる盗賊団。

ある者はローラやリリーに嫌らしく不気味に笑い、ある者はスレイやウルトに剣を向け、ある者はガノンに目を見開きつつ駆け寄る。


それらを見据えて五人はいっそう武器を強く握り締めた。


……五人はそれぞれ固まって盗賊を迎え撃った。





読了ありがとうございました。

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