秘密のダンジョン攻略
現実世界での食事などの用事を済ませ、再びゲームへログインしたレイは、ギルドホームのリビングへと顔を出した。
「お、ライカ、オニオンはもう来てたのね。ほかのみんなは?」
「バスタは調理場でなんかつくってるぜ。アイとカイゼは……オニオン、なんか知ってるか?」
「うむ、あの二人なのだがな。何やら『急な予定が入った』とのことで、どこかへ行ってしまったぞ」
話を聞くと、どうやらアイとカイゼはログインして早々に二人揃ってどこかへ出かけて行ったらしい。
「ふ〜ん、まぁ別にいいんじゃない? 特に私たちも今日の予定は決まってなかったし、この後どうする?」
「そうだな! レベル上げでもしに行くか?」
「うむ、特段急ぐ予定もないし、それで良いのではないか?」
「みんなー! 恐竜の肉で作った料理ができたよー!」
バスタの明るい声に応えるように、巨大な肉料理を囲んで3人はのんびりと動き出すのだった。
◆
一方その頃、アイとカイゼは街の一角にある情報屋の個室にいた。
「ここらへんで待ってるって話だったけど……」
「お待ちしておりました。アイ様、カイゼ様」
部屋の奥から声をかけてきたのは、フードを深々と被ったプレイヤーだった。
「そんなかしこまらなくてもいいよ、アジーン。様付けもいらないから」
「そうそう、ここはゲームなんだし、もっと気楽にいこう!」
「……ありがとうございます! アイ! カイゼ!」
顔を上げたアジーンはパッと表情を明るくし、3人はテーブルを囲んで席についた。
「っで? 行きたい場所があるんだっけ?」
「そうです、アイ! 実は攻略したいダンジョンがあるのです!」
「それはいいけど……なんで突然ダンジョン?」
「ふふん! 私が集めた情報によると、そのダンジョンに私が求めるものがありそうなのです!」
アジーンはどこかドヤ顔で言い放つ。
「……そもそもアジーンは開発者なんだし、情報なんて最初から全部知ってるんじゃないの?」
「それは違うのです、カイゼ! そういったゲーム攻略に関わるデータは、私が直接扱わないように制限していましたしデータベースも確認しないようにしていて、攻略に役立つ情報はほとんど持っていないのです!」
「まぁ、ヘタにネタバレされるよりはその方が面白いし良いんじゃない?」
「だね。ちなみにそのダンジョンって、強い弓とか落ちてたりする?」
「それは分からないですね……未踏のダンジョンなので、ほとんど情報がないのです。……つまり、私たちが一番乗りです! 行きましょう!」
そうしてアジーンにぐいぐい引っ張られるように、一同はダンジョン攻略に向けて動き出したのだった。
◆
「そういえば、目的達成のために今度のギルド対抗戦で動くのはいいけど、何か具体的な対策はあるの?」
「ふふん! 大丈夫ですカイゼ、その辺は抜かりないのです!」
「それならいいけど……でさ、そのダンジョンってこの森の中にあるの?」
アイが指さした先には、先ほど激戦を繰り繰り広げたばかりの、不気味な叫び声が絶えない恐竜たちの楽園――あの過酷な森だった。
「そうですね! なので、モンスターに見つかったら逃げながら行きましょう!」
そんな調子の良いアジーンを先頭に、一行は森の奥へと進んでいった。
途中、モンスターに見つかってドタバタと逃走劇を繰り広げたりもしたが、何とか目的のダンジョン前へとたどり着くことができた。
「ふぅ……やっぱりこの森は得体が知れなさすぎるね……ここ、森のどの辺だろう?」
「さぁ……相当奥まで来たのは確かだけど……戦闘を避けて逃げるだけなら、意外と何とかなるもんだね」
「さぁさぁ! カイゼもアイも、これからが本番のダンジョンですよ! 行きましょう!」
相変わらず元気一杯のアジーンを先頭に、一同はダンジョンと思われる洞窟の内部へと足を踏み入れた。
そこは薄暗く、ひんやりとした不気味な空気が漂う場所だった。
「なんか不気味な洞窟だね……」
「だね。ってか、私の弓じゃ戦力不足で厳しいだろうし、戦いは任せたよ」
「えぇ、大船に乗った気持ちでお任せください! ……っと、早速モンスターのお出ましですね。ここは私が片付けましょう!」
洞窟の奥から、小型の恐竜型モンスターが複数体、シャカシャカと素早い足音を立てて迫ってきた。
「なにモチーフの恐竜なんだろうね?」
「あれはヴェロキラプトルあたりでしょうね。小柄で素早く、集団で襲ってくるタイプです」
「任せちゃって本当に大丈夫なんだよね? アジーン?」
「ふふん! 言葉に二言はないのです! お任せあれ!」
アジーンはローブの下から一振りの剣を取り出すと、迷いなく群れに向かって突撃していった。
その動きは――まさにレイを彷彿とさせる、圧倒的な機動力から繰り出される手数の多い連続攻撃だった。
連携して襲いかかってくるラプトルたちの攻撃を華麗にひらりと着地でかわし、一閃、また一閃と瞬く間に数を減らしていく。
「ふぅ、ざっとこんなもんですかね!」
「すごい動きだったねアジーン! もしかしてレイの真似をしてビルドを作ったの?」
「そういうわけではないんですけどね、カイゼ……まぁ、たまたまですかね? マスターから生み出された存在なので、思考回路や戦い方が似ていても不思議ではないですから」
そんな会話を交わしつつ、一同はさらにダンジョンの奥深くへと潜っていく。
道中、幾度となくモンスターの奇襲を受けたが、そのほとんどをアジーンが単体でなぎ倒していった。
「ここがボスの扉だね」
「途中、囲まれたときは流石に危なかったけど……カイゼが魔法で牽制してくれたおかげで助かったよ」
「えぇ、やはり頼もしいですね。マスターが信頼するのも分かります」
「ありがと。それじゃ、準備をしてボス戦といこうか!」
入念に準備を整え、3人は重厚な石の扉を押し開けた。
扉の先は、これまでの薄暗い通路とは一変して、広く明るい大空間が広がっていた。
「あれがボスだね……私でも分かるよ、アンキロサウルスだね」
「その通りです、アイ。どうやらこのゲームでは【重装覇王】という名前みたいですね」
「明らかにあの装甲、カチカチに固そうだね……どう攻める?」
ボスの全身は、見るからに頑丈そうな厚い甲殻で覆われており、その様相は以前戦ったレイドボスを彷彿とさせた。
「ふっふっふ……少し時間を稼いでいただければ、私に『秘密兵器』があります!」
「分かった! アイ、私が前線を張るから、少しでも気を引いてみて!」
「了解! 気休め程度にしかならないだろうから、あんまり期待しないでね!」
カイゼの放った雷撃魔法によって戦闘の火蓋が切って落とされた。
「動きが鈍重で助かるね! 攻撃は全然優しくないけど!」
【重装覇王】の動きは確かに遅かったが、その一撃の威力は目を見張るものがあった。
巨大な尻尾から繰り出される薙ぎ払い攻撃は、地面を容易くえぐり取り、岩盤すら隆起させるほどの凄まじい衝撃を生み出す。時間をかければかけるほど足場が悪くなり、戦況が不利になっていく構造だ。
前線で体を張りながら回避に専念していたカイゼだったが、開始から5分ほどが経過した頃、ある異変に気づく。
「あれ? 行動パターンが変わった……? アイが遠距離から射撃してるけど、大したダメージにはなってないはずだし……時間経過かな?」
そう首をかしげた瞬間、後方からアジーンの大声が響き渡った!
「カイゼ! 準備ができました! 巻き込んでしまうので、何とか【重装覇王】から全力で離れてください!!」
直感的にヤバさを察したカイゼは、急いで距離を取る。ボスが鈍重だったことが幸いし、難なく圏外へと脱出できた。
次の瞬間――空間全体を揺るがす、とてつもない轟音と爆発が炸裂した!
ドッッッゴォォォォォォンッ!!!!!
視界を埋め尽くす猛烈な黒い爆炎と衝撃波。
やがて煙がゆっくりと晴れていくと――そこには、跡形もなく吹き飛ばされ、一瞬でポリゴンとなって霧散していく【重装覇王】の姿があった。
「ふっふん! やりましたね! これで目的のものが手に入ります!」
「「……今の、一体なんだったの……!?」」
あまりの桁外れの威力に、アイとカイゼは口をぐうの音も出せず絶句していた。
「私にだって色々『秘密兵器』があるんですよ! まぁ、ほんのちょっとだけなら……」
アジーンがローブの隙間からチラリと見せたものに、二人はさらに目を丸くする。
「「えっ……その赤いのって……!?」」
「ふふ、見せられるのはここまでです! まぁお二人はよく見てるものだとは思いますが情報はどこから漏れるか分かりませんからね! 目的を達成するまでは、細かいことは伏せさせていただきます!」
ニヤリと笑うアジーンに、二人はこれ以上は追求せずに、ドロップ報酬の確認へと移行した。
「この宝箱の中に、アジーンが求めるものがあるんだね」
「そうですね、アイ! さて、開けますよ!」
アジーンが宝箱の蓋を開けると、中にはネジや歯車、精密な金属パーツなど、現代的な機械を組み上げる際に必要な部品が大量に詰まっていた。
「なにこれ……? このファンタジー世界に、こんなアイテムあるんだ……」
「だね……剣と魔法だけじゃないってことか」
「これについても、目的を達成したら色々教えてあげますね! とりあえず今回は、お二人とも本当にありがとうございました!」
アジーンは満足そうに宝箱の中身をストレージに回収すると、二人に深くお辞儀をした。
「……むしろ、私たちっていらなかったんじゃないかな……?」
カイゼのポツリとこぼしたつぶやきに、アイも深く頷く。正直、アジーン単体でもこのダンジョンを攻略できたように思えたのだ。
「そんなことないですよ! みんなでパーティーを組んで攻略した方が、絶対に楽しいじゃないですか!」
そう言って満面の笑みを浮かべるアジーンの言葉には、何一つ裏のない純粋な「ゲームを楽しんだ」という思いがこもっていた。
それを見たアイとカイゼも、自然と顔をほころばせて頷き返したのだった。
こうして、AIとプレイヤーによる秘密のダンジョン攻略は、大成功のうちに幕を閉じたのである。
みんなで楽しく遊ぶのが一番!




