本音と新たなる友人
「マスター、ログアウト後にご友人とお食事に行かれるのではなかったのですか?」
現在、零は無数の光り輝くシステムウィンドウが浮遊する、隔離された管理者用の仮想空間にいた。
「あんたたちが真面目にやってるか、ちょっと覗いておこうと思ってね」
「マスター、そんな心配しなくていいよ。私らは大丈夫だし!」
「そうだよ〜、問題なく完璧に運営できてるよ〜」
三体のAIたちは、特に問題もないと言いたげに胸を張る。
「それなら、よかった……」
そこで零は言葉を濁し、少しだけ視線を泳がせた。
「どうしました? マスター」
零は恥ずかしそうに少し顔を赤らめると、絞り出すようにつぶやいた。
「いや……その……あ、ありがとう」
「マスター、何か言いました?」
「聞こえないねぇ」
「何か言った〜?」
「聞こえてるでしょ! ……あーもう、言えばいいんでしょ! アジーン、ドヴァー、トリー、ありがとう! ……最高のゲームを作ってくれて」
それは、零の心からの本音だった。
普段は自分が作ったゲームを遊ぶときはどこか疎外感を感じていた。開発が落ち着いてリリースからかなり立っていて同じ土台で遊べていなかった。
そんな中、まだ2日目だが同じ目線で心から遊べる時間。強敵に挑み、知らない世界を冒険する。それは、彼女にとって久しぶりに味わう掛け替えのない時間だった。
三体のAIたちは、予想外の素直な感謝の言葉に一瞬固まり、一斉に顔を赤らめた。
「マスター……我々が作ったゲームを楽しんでいただき光栄です。ですが、今後も手を抜くつもりはありませんので、心行くまで楽しんでください!」
「期待してるよ!」
そう言い残すと、満足気な笑みを浮かべて零は現実世界へと帰っていった。
管理空間に取り残されたAIたちが顔を見合わせる。
「アーちゃん、今伝える絶好のチャンスだったんじゃない?」
「そうだよ〜、言っちゃえばよかったのに〜」
「そ、そうは言ってもですね……! いきなり面と向かってあんな風に感謝されるとは思っていなくて……!」
真っ赤になったアジーンは狼狽えながら首を振る。
AIたちが裏で何を企んでいるのか――零がそれを知るのは、もう少し先のことになる。
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場所は変わって、現実世界。
ログアウトした零は、春から教えられた飲食店へと足を進めていた。
「そういえば、みんな来るって春が言ってたな。リアルで会うのは久しぶりだし、楽しみだ」
店の個室の扉を開けると、零が最後だったらしく、テーブルには既に料理と飲み物が並んでいた。
「あれ? 私が最後だったんだ」
「そうだね、もう始めちゃってるよ! カルーアミルクでよかった?」
「ありがとう! わかってるね〜」
零は自宅でお酒を飲む習慣がないが、アルコールに弱いわけではない。ただ単に子供舌で、甘い飲み物が好きなだけだ。
「それじゃあ、一番最後に来たけど音頭を取らせていただきます! 乾杯!」
「「乾杯!!」」
グラスを打ち鳴らした直後、友人たちから一斉に質問の嵐が飛んできた。
「でさー、なんでVNOはいきなりサプライズリリースされたわけ!?」
「いきなりそれ聞く!?」
「そうだよ! そのせいで私ら初日出遅れたんだから!」
「てか、今日の大会の決勝って……もしかして零と春だったりする?」
ログアウト前の光景を思い出して少し苦笑いしつつも、久々の賑やかな集まりに零の気分は上々だった。
「いやー……うちのAIたちの反抗期? シンギュラリティってやつ? 勝手にリリースしちゃったんだよね」
「あの可愛いAIたちがねぇ……育て方が悪かったか〜!」
友人たちの冗談交じりのツッコミに、個室全体が爆笑に包まれる。
「ま、そういうわけで私も今は一人のプレイヤーとして純粋に楽しんでるってわけ」
「なるほどね……で、決勝の二人はやっぱり零と春なの? 昔から使ってるプレイヤーネームそのままだし」
「ふふん、その通り! 私と零だよ。どう? 今君たちの目の前にいるのは、記念すべき第1回大会の1位と2位様だよ?」
春がドヤ顔で胸を張る。
そのドヤ顔が面白かったので、零は少し意地悪な笑みを浮かべてからかってみることにした。
「いやー、決勝は負けちゃったな〜。それにしても春……あの詠唱、すっごく格好良かったよ〜? 『黒より黒き漆黒の翼よ〜』とか、あのポエムっぽい文章、自分で考えたの〜?」
「っ!?!?!?」
一瞬で春の顔が真っ赤になった。アルコールのせいではないのは明らかだった。
「ちょっ……! それは、その……テンション上がってたっていうか……っ!」
不意を突かれた春は、恥ずかしさのあまり空中を手で仰ぎながら言葉を詰まらせている。
零は逃がすまいと、さらに追撃をかけた。
「『我、天より出でし者のなり』だっけ? いやぁ〜最高にクールだったねぇ! 録画してあるから、みんなで大画面で見直してみる?」
「ちょっと! なんでそんなの持ってるのよ!?」
「え? 知らなかったの? あの大会、普通に公式配信されてたからいつでもアーカイブで見れるよ?」
「なんなら、私たち今スマホでちょうどそのシーン見てたよー」
友人たちが画面を見せてくると、春は今にも顔から火が噴き出しそうなほど真っ赤になって突っ伏した。
「うあああぁぁぁ……! 穴があったら入りたい……!」
「ごめんごめん、ちょっとからかいすぎた! でも真面目な話、あれってオリジナルスキルでしょ? すごいじゃん」
零のフォローに、春は机に伏したままボソボソと答える。
「……うん。作るのかなり苦労したよ。ただ……発動にあの詠唱を声に出さなきゃいけない仕様になっちゃってさ……テンション上がってたとはいえ、今思うと死ぬほど恥ずかしい……」
恥ずかしがる春を囲みながら、飲み会はさらに盛り上がっていく。
久々に揃った仲間たち。積もる話は山ほどあり、ゲームの話題から近況報告まで笑いが絶えることはなかった。
「よし! 帰ったらみんなでパーティー組んで冒険行こうぜ!」
最高の時間を共有した彼女たちは、再戦と新たな冒険を約束して、心地よい酔いと共に解散するのだった。
本音をさらけ出すには早い気もしますがそれほどまでに新作ゲームの開発に張り詰めていたということで…




