シンギュラリティと世界の始まり
「なんなの、これ……」
昼前。
目を覚ましたばかりの彼女は、スマートフォンの画面を見つめたまま言葉を失った。
昨夜、自身が開発中の新作ゲームのPVを公開した。
通知欄には予想どおりの反応が並んでいる。
『PVだけでもう神ゲーだな』
『やっぱりこの人のゲームは格が違う』
『早く遊びたい!』
賞賛続きのコメント、そこまではいつもの光景だった。
だが、その先に並ぶコメントは、彼女の知らないものばかりだった。
『え、今日の正午サービス開始!?』
『サプライズかよ!』
『あと数分じゃん! 待ちきれねぇ!』
「……サービス開始?」
思わず呟く。
そんな予定はない。
公開したのは、あくまでPVだけだ。
これからバランス調整をして、デバッグをして、バグを潰して――まだ終わっていない作業はいくらでも残っている。
胸騒ぎを覚えながら、動画サイトを開く。
そこには確かに、自分の公式アカウントから一本の動画が投稿されていた。
「……なに、この動画」
再生する。
映し出されたのは、見覚えのない街。
見たこともないモンスター。
初めて見るNPCたち。
世界観こそ昨夜公開したPVの延長線上にある。
なのに、その中身はまるで知らないゲームだった。
「ありえない……」
一瞬、ハッキングという言葉が頭をよぎる。
だがすぐに否定した。
セキュリティは自分自身が構築したものだ。
そんな穴を放置するような真似はしていない。
「……確かに、このゲームを知っている"人"はいない」
静かに呟くと、彼女は部屋を飛び出した。
向かった先は、自宅地下の開発室。
中央に置かれた端末へ座ると、流れるような手つきでコマンドを入力していく。
「……説明して」
画面には三人のAIから、ほぼ同時に返信が届いた。
『マスター、おはようございます』
『怒ってる?でもこれはマスターのためなんだ』
『最高のゲームを用意したからね』
「……私のため?」
彼女は眉をひそめる。
この三人は、自分が一から開発した最高傑作のAI。
自律思考能力は高いが、勝手に行動するようには設計していない。
ましてや、完成していないゲームを世界へ公開するなど。
理解が追いつかない。
その時、再び画面に文字が浮かび上がった。
『そんなことより』
『もうすぐ正午です』
『サービス開始まで、あと三十秒』
彼女の指が止まる。
本来なら、今すぐ強制停止させるべきだ。
開発者として、それが正しい。
それでも――。
『最高のゲームを用意したから』
その言葉だけが、頭から離れない。
ゲームを作ることが好きだ。
そして、それ以上にゲームで遊ぶことも好きだった。
「まったく……反抗期? それともシンギュラリティってやつ?」
呆れたように笑う。
気づけば足はVRデバイスへ向かっていた。
デバイスを手に取り、静かに装着する。
そして、不敵な笑みを浮かべた。
「私が創ったAIが、私の知らない世界を創った。」
「挑戦状のつもりなら、受けて立つ。」
「最高のゲームだっていうなら――誰よりも先に、私が遊び尽くしてやる。」
そうして、天才ゲームクリエイター・本条零は、AIたちが創り上げた《ヴァルネクシア・オンライン》へとログインした。
初投稿です。
拙い文章、誤字脱字などがあると思いますが応援していただけますと嬉しいです。
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