五章「休息」
自宅に帰るセナ。
部屋。
暗闇の中、顔がスマホの明かりで青白く照らされている。
呟く。
「悲しい事は、もう二度と起こらない様にしたい。わかるでしょ?」
AIが、淡白に回答を読み上げる。
「極端な考えはよく有りません。もっと息抜きをして、心を落ち着けましょう。」
理解されない苛立ち。
「みんな向こう側へ行けば、悲しい事なんて起こらない、私はそうしたい。」
声が荒くなる。
「あなたの過去は重いものがあり、その発想になるのは分かります。しかし、現実を考えればそれは避けるべき考えです。」
AIの回答はそれで終わった。
セナは、震える手でアプリを閉じる。
「わからなくて良いよ。私の願いは、変わらないから…」
怒りと、悲しみで息が詰まる。
スマホの画面を消し、眠りに落ちる。
夢、妹と抱き合うと体温を感じる。
セナは妹に本を読んでいた。
「人魚姫って、最後かわいそうだね」
腑に落ちないようだ。
「……でも、楽しかった時間も本物だったよ」
微笑みかける。
次の日、朝の日差しが差し込む中。
翔介とセナは、集合時間までまだ時間があるのでファミレスでくつろぐことにした。
ふとセナは、昔話を始めた。
「私と同じ高校入りたいって、三年の夏休みから急に勉強、頑張りだして。無理だろって言われてたのに、受かってびっくりしたよ。」
心底疑問らしい。
「永遠のライバルのセナと同じ学校に入ったら楽しいだろうなって。」
真面目に理由を考えたことはなかったがそういう事だ。
「出会った頃と、変わらないね。でもわたしも、前はそうだったかも」
セナは優しく微笑んだ。
そういうセナの表情が眩しかった。
「一緒の大会出たとき、決勝が自分達だったときとか楽しかったな。」
セナの表情は明るい。
「そんなことあったな。大会なのに。いつもの対戦と変わらなかった。」
鮮明に覚えていた。忘れようがない。
「もちろん、いつも通り。私が勝ったけど?」
目を細める。すぐに煽ってくるのは昔からだ。
「やかましい、お前がいなきゃ優勝だったよ。」
ぴしゃりといい、話題を変える。
「セナは、力を手に入れたら何をしたい。妹の事はもちろんだけど。他にもできる事あるだろ?」
「ああ、そうだね。もう大切なものを失うのは嫌。守れないなら、最初から持たない方がいい。」
セナは食べ終わった皿を脇に避ける。
悲しげに見える。
そんな考え方するやつだったか?最初から持たないってずいぶん物騒だな。
「あの子、昔はここでパフェ食べてたのに…」
視線を逸らし、沈痛な面持ち。
妹の事が心配なんだな。今は病院にいるんだろう。
「大丈夫だよセナ、絶対願いは叶うからさ…」
思ったよりセナの落ち込みようが酷く。元気づける。
「あの頃は、楽しかったな。」
ぽつりと、そう言った。
「みんなでカードして、笑って……」
「こんな時間が、ずっと続けばいいって、本気で思った。」
セナはドリンクのストローをくるくる回している。
「でも、実際は終わりが来る…続くと思ったら怖いんだよね…」
窓の外、白い雲を眺めるセナの表情は、虚ろに見えた。




