第27話 俺達の戦いはこれからだ!
「では、始めます。」
ドリスさんの指示で店の者たちで魔法陣を書き、その中央にミーナが立つ。
ドリスさんの配下の魔法使いが詠唱を始め、部屋の明るさが増す。
空気が澄み、ミーナの身体が淡い光に包まれる。
「いよいよか。」
ミーナを、リネット公女を自由身分にする為の儀式。今それが実行されようとしている。
隷属の紋章の解除、おそらくファイサルが施したであろう上位命令術を無効化する。
文字通り、解除である。
よし! 今だ!
魔法使いの詠唱が最高潮に達した瞬間を狙って、俺のスキル「メーカー」を発動させる。
その結果、ミーナの身体が一層輝きを増して、やがて光が納まる。
「上手くいきましたか?」
テックさんが恐る恐る尋ねると、ドリスさんが笑顔で答える。
「はい、どういう訳か分かりかねますが、隷属の紋章の解除に成功しました。」
「「「「 おお~~。 」」」」
その場に居たみんなが、一斉に歓声を上げ、事態が良い結果に終わった事を悟る。
「ふう~~、やれやれ。何とかこの場は、凌いだみたいだな。」
俺は溜息をつき、肩の力を抜く。
とりあえずは、一安心だな。これでファイサルからの干渉を受けずに済む。
「やったな! ミーナ、お前さんはもう、自由身分だよ。」
俺が言うと、ミーナはダッシュで俺に向かって突っ込んで来た。
「タナカ~~!」
フルダイブしたミーナをキャッチし、頭をなでなで。しかし、アーサーは複雑そうにしている。
まあ、ここは兄貴に譲るか。
「ミーナ、お前の兄貴が心配してここまで来てくれたぞ。」
そう言って、俺はアーサーの方を見やり、ミーナを促す。
「さあ、行ってあげなさい。ミーナ。」
俺に言われたからなのか、ゆっくりとした足取りでアーサーに近づき、笑顔を見せる。
「ありがとう、お兄ちゃん。」
「リネット! お前、記憶が!」
「うん、少なくとも、あの頃村で育てられた記憶はあるみたい。」
「よかった、本当によかった。」
アーサーは男泣きをし、その場でリネットを抱きしめる。
さて、ここからだな。
「テックさん、もうファイサルからの隷属化のスキルの及ばない所へ持って行きました。これからどうしますか?」
俺が聞くと、テックさんは難しそうな表情で答える。
「今はまだ、行動を起こす時ではないでしょう。しかし、いずれは。」
テックさんにとっても、今回の事はプラスに働いたようだ。
「良かったですね、リネット様。」
スピナも目に涙を湛えている、俺も少しは感動していた。
こうして、一連の出来事を進ませ、また一歩ゲームのストーリーに近づいた。
俺の出来る事はここまでだ、あとはアーサーの、このゲーム世界の主人公の仕事だ。
その一助になれた事は、自分にとっては幸運なのかもしれないな。
一応、まだ俺にもゲーマー魂が宿っていた訳だし。
あとの事はアーサーに丸投げして、俺は隠居生活でもしようかな。
もう俺も歳だ、飛んだり跳ねたり、そういうのは若者の特権だよ。
ここは退くべきところだと、俺は悟り、みんなには内緒でこっそりと離れるのだった。
「アーサーの! 俺達の戦いは、これからだ!」
何処かから、そんな言葉が聞こえてくる様になった。
酒場で、道具屋で、武具屋で、ギルドで、井戸端会議の場で、町中で。
俺は酒の入ったグラスを傾け、チビチビとやりながら、若者の英雄譚を聞くのだった。
俺達の戦いは、これからだ! という声が。
「マスター、お勘定。」
「いいよ、つけとくよ。」
「ふっ、また来る。」
そう言って、俺は外の世界へ出て、空を仰ぎ見る。
蒼に彩られた空に、白い雲が漂い、渡り鳥が一羽、天空を舞っている。
「さあ、新たな冒険の始まりだ!」
俺は道を歩き、一歩一歩大地を踏みしめて、進み続けるのだった。




