表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
義勇の紋章  作者: 愛自 好吾


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/27

第25話 アーサーとリネット ①



 奴隷商のドリスさんに連れられて、俺達は奴隷商会の執務室へと案内された。


 いわゆる商談室ではなく、お客さんとしてではないヤツ。事務的な話をする場。


 椅子などは無い、立ち話だ。まあ、当たり前か、事情が事情だし。


 今回に限ってはドリスさんの立場が上、俺達はお伺いを立てる方だし。


 「で、何があったのですか?」


 俺が単刀直入に聞くと、ドリスさんは明らかに不機嫌そうな顔で答えた。


 「うちの商品に難癖を付けて、剣を抜いたのですよ。」


 「あちゃあ~~。」


 やらかしてくれたな、アーサーの奴。


 俺はアーサーの方を向き、問いただす。答えによっては力を貸さん。


 「何だってまた、こんなデリケートな店で剣なんか抜いたんだよ。」


 俺が少し強めに言うと、アーサーは俯きつつも答えた。


 「妹が、妹がこの店の奴隷商品になってるかもと思って………。」


 アーサーの妹? 確かリネットだったか、ゲームにも登場したな。


 あ! そうか、確かリネットは敵に洗脳されていて、それを解放して仲間になるんだったな。


 「ブレイブエムブレム」では中盤以降に仲間になる予定だったと記憶しているが。


 あれ? 今どの辺りの時系列だっけ?


 こういう時は、テックさんに聞けば良い。


 「テックさん、ローズ軍がセレニア公国を占領したのって、何時でしたか?」


 「去年ですよ、セレニアの王都が陥落したのは。それがどうかしましたか?」


 「いえ、すいません。ちょっと気になっただけですから。」


 ふーむ、ストーリーが動き出したのが、女神暦987年だから、今は。


 「今って、女神暦986年でしたよね?」


 「そうですが、一体どうしましたか? タナカさん。」


 そう言う事か、俺はゲームのストーリー進行の1年早く、この異世界「正方世界」へ来てしまった訳か。


 てっきりゲーム序盤だと思っていたが、俺の勘違いだったか。


 じゃあ、アーサーはまだ、主人公として覚醒していない可能性があるのか。


 こいつは参った、俺が介入してしまった所為で、ゲーム内の歴史が変わってしまう事がある。と、言う事か。


 流石にそれは不味い、もし歴史が変わってしまったら、俺の知っている事が通用しなくなるかもしれないって事だろ。


 何とか軌道修正しないと、シャレにならん。


 「妹さんの名前は?」


 「リネットだ。14歳になったばかりだよ。」


 ふーむ、やはりリネットという名前だったか。確定だな。


 「何で妹さんがこの店に居るって思ったんだ?」


 俺が聞くと、アーサーは苦々しい表情で答えた。


 「僕の住んでいた村が、山賊に襲われたんだ。僕はその時、町へ行っていたから知らなかった。」


 「山賊か、どこの国でも似た様な事があるのだな。」


 ドリスさんが言い、少なからずアーサーに同情している様子だ。


 「抵抗する者は殺され、女達は攫われた。その中にリネットも居た筈だ。」


 「なるほど、それで攫われた女性達が奴隷商に売られたと思った訳か。」


 「ちゃんと調べたよ、山賊とグルになっていた悪徳奴隷商を捕まえて、話を聞き出したから。」


 ほう、ちゃんと理由があって行動した訳か。


 「それで、僕の妹はウインドヘルムの町の奴隷商に売ったと聞いたんだ。」


 「なるほど、それでうちに来て問題を起こしたのか。」


 ドリスさんが腕を組み、思案気な態度を執っていると、更にアーサーは言う。


 「僕はリネットを取り戻したい、買い戻す為に必死にお金を貯めて、ここへ来たんだ。そしたら、リネットなんて奴隷は知らないと言われて、頭に血が登ってしまったんだ。気付いたら剣を抜いていた。」


 ふーむ、一見短絡的な考えだが、自分の妹を助けたい一心での行動だったか。


 「だからといって、暴力に出るとは、あまり感心せんな。」


 「本当に、申し訳ありませんでした。」


 アーサーが頭を下げ、ついでに俺も頭を下げる。ここは礼を尽くすところだ。


 ドリスさんは明らかに不機嫌そうな態度だが、アーサーの話を聞いて思うところがあるのか、俺達を「客」として扱うように態度を崩した。


 「まあ、そう言う事ならば、今回だけは大目に見ます。今回だけですよ。」


 「はい、ありがとうございます。」


 「申し訳ありませんでした。」


 俺とアーサーが同時に言い、これで、この件は不問に付すとなった。


 いやあ、よかったよかった。一時はどうなるかと思ったが、ドリスさんが良い人でよかったよ。マジで。


 店で刃傷沙汰とか、シャレにならんからね。しかも主人公が。


 「それで、今回のお話はこれで終わりですか?」


 ドリスさんが俺達に尋ねると、テックさんが一歩前へ出て話した。


 「いえ、我々は違います、購入資金が用意できたので、ミーナを買い付けようと来ました。」


 「おお、そうでしたか。ならばお客様として対応させて頂きますよ。」


 うむうむ、ようやく本題に入ったか。俺達の目的はミーナだからね。


 「応接室へ移動しますか?」


 「いえ、ここで結構です。」


 一々移動するのも面倒だ、この場で手続きをやってもらおう。


 「では、ミーナをここへ!」


 「かしこまりました。」


 ドリスさんが配下の者に言い、この部屋にミーナを連れて来る事になった。


 しばらくして、ガチャリと扉が開く音と共に、ミーナが姿を現した。


 「タナカ~。」


 トテトテとした足音でやって来て、俺の元へ抱き着いてきた。


 「お~、ミーナ。しばらく見ないうちにまた大きくなったな。もう、俺の身長を越えてきたんじゃないか。」


 「何言ってんの?」


 「ははは。」


 俺が話していると、何やらアーサーがプルプルと震えていた。


 そして、ガバっとミーナに抱き着き、泣きじゃくっている。


 「リネット! リネットお! 無事だったんだね! ああ、良かった! 本当に良かった! リネットおお!」


 「な、何だ何だ!? 一体どうしたってんだ!? おいアーサー?」


 「リネットだ! この娘が僕の妹のリネットだよ! ああ、リネット!」


 この突然の行動に、俺達は面食らってしまい、どういう事か理解に数分要した。


 しかし、ここでテックさんがアーサーを強引にミーナから引き剥がした。


 「離れなさい! アーサー君!」


 「な!? 何だよ? 何するんだよ?」


 テックさんのメガネが光り、部屋の空気が凍り付く。


 「どうしましたか? テックさん。今の状況を鑑みるに、アーサーの妹がこのミーナって事になると思うのですが。」


 すると、テックさんはミーナの事を庇う様な位置取りをして、俺達に話した。


 「この方は、ミーナと言う名前ではありません。」


 「え? いやまあ、忘却のポーションで過去を忘れているっていうお話は聞きましたが。」


 当の本人のミーナも、何が何だか分からない様子だ。いきなり過ぎて着いていけない様子だし。


 「ドリスさん、早速奴隷購入の件のお話をしましょう。金貨50枚でしたよね。」


 テックさんは俺達に相談も無く、奴隷商のドリスさんと会話を始めた。


 「はい、ミーナは金貨50枚でお譲りします。よろしいですね。」


 「タナカさん、金貨を。」


 「え? ああはい。」


 俺は懐から金貨の入った袋を取り出し、金貨50枚をドリスさんに渡した。


 「………確かに、金貨の数を確認しました。金貨50枚、お支払い頂き誠にありがとうございます。」


 ふう~、やれやれ。ようやくこれでミーナは自由身分を取り戻した事になるのか。


 意外と上手く事が運んで良かったな、さて、問題は。


 「リネット、僕だよ、お前のお兄ちゃんだよ。」


 「………知らない………。」


 アーサーはこんな感じでミーナに言っている、そしてミーナは知らない人という感じで警戒している様子だし。


 テックさんはテックさんでドリスさんと話を進めているし。


 どうなってんの?


 「あのう、テックさん。お話、聞かせて貰えるんですよね?」


 「はい、ミーナは、この方は、ミーナという名前ではありません。」


 「知っているのですね、この娘、ミーナの事を。」


 「はい、この方は………。」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ