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第56話 打開策

 さて、どうしたものか。

 リュウスケにはなんとかするとは言ったものの、対抗策は中々難しい。

 相手はデュラハンクラスの魔物を召喚できる召喚士だ。

 そういった手合いの相手となると、召喚獣を制御できなくさせるか、あるいは召喚をさせないかしか――。


「――いや」


 ひとつ、方法があった。

 しかし、あれは兵士に対して多大な負担を与えなければならない。

 俺たちだけではなすことのできない方法だ。

 はたして彼らを付き合わせても良いものか……。


「――セーレ様」


 そのようなことを考えながら廊下を歩いていると、とある男に声をかけられた。

 先日の戦場で、共に砦を奪還した男だ。

 あの戦いでは奇跡的に犠牲者が誰もでなかったらしく、地下で警戒を行ってもらっていたものたちも皆無事だったそうだ。


「ああ、なんだ」

「なにかお困りのようだったので、つい……」


 差し出がましいかもしれませんが、と兵士は言った。

 

「戦っているのはあなた方だけではなく、我々もです。ともすれば足手まといであるだけかもしれませんが、私どもにも力をお貸しさせていただけませんか」


 ――盲点だった。

 確かに俺は、彼らの事情をまったく考えていなかったのだ。

 流れものである俺たちとは違い、彼らはこの国に住んでいるものたちだ。

 帝国に対する憎悪も、悲しみも、ずっと深く理解しているのだろう。

 だというのに、俺はそれを無視してしまっていた。

 頭になかったと言ってしまえば事は単純だが、だからといって彼らの気持ちをないがしろにしてしまって良いわけではない。


「……まったく。やっぱり俺は未熟だな」

「セーレ様……?」


 兵士が困惑してしまっている。


「ありがとう。それなら、ひとつ頼まれごとをしてくれないか?」


 兵士はぽかんとしたまま、それでも力強くうなずいた。


                  ◇


 アズマの国に作られた道場。

 昔は闘技場として利用された時期もあったそうだが、今ではもっぱら訓練用の施設として扱われているらしい。

 そこに兵士たちを連れて行き、座らせた。

 なにが起こるのかまるでわかっていない兵士たちは、困惑した様子で辺りを見回している。

 俺はそこに真っ赤な旗を立て、タタミという絨毯のようなもので一段高い足場を作って叫んだ。


「今から訓練を始める!」


 兵士たちがどよめき始める。

 その中のひとりが、おずおずと手を挙げて尋ねた。


「……あの、どのような訓練なのですか?」


 いい質問だ。

 俺は内心で強くうなずきながら、彼の質問に答える。


「俺と、そしてここにいるタカマガヒメを相手に試合をしてもらう。人数は自由、武器はそこにあるやつだけだが、致命的なものでない限りは魔法も許可する」


 俺の横に立っていたタカマガヒメが一歩進む。

 それを合図としたかのように、兵士たちのどよめきは大きくなっていった。

 その中でも一等動揺しているのは、俺たちと共に砦を攻略した一群だ。

 ――あんな強い人を相手にするのか?

 ――勝てる人がいるんだろうか。

 そういった声が、ちらほらと聞こえた。


「……もちろん、強制というわけではない。あくまで希望者だけとの試合だ」

「それでは、なぜ我々をここに……?」

「……そうだな、お前たちは強くなった」


 だが、まだ弱い。

 そう強く断言すると、道場に緊張が走った。


「帝国の兵力は非常に高く、そして幹部格の力は別格だ。ただ兵士同士をぶつけるまでならまだしも、幹部が出てしまっては足手まといにもならない」

「なら! 我々はどうしろと言うんですか!」

「そのための訓練だ」


 兵士たちの視線に殺気が混じり始める。

 そうだ。それで良い。


「お前たちはまだ弱い。俺としてはいくつか策を用意してあるが、どれもこれも今のお前たちでは実現不可能なものだ」

「そ、そんなの! やってみなくては――」

「やってみなくてもわかる。失敗だ」


 チャキ、と不穏な金属音がする。

 音のした方向へと視線を移すと、別の兵士たちに止められている兵士が見えた。

 その手には抜身の剣が握られている。

 どうやら先ほどの音の正体は、彼が剣を抜いたときのものだったらしい。


「ほう、血気盛んだな」


 声の調子に細心の注意を払って、俺はそう言った。

 高圧的に聞こえながらも、決して彼らのやる気を削いでしまわないように。


「……なら、やってやる!」


 兵士のひとりがそう叫んだ。


「お前がそんなに言うんなら、乗っかってやんよ!」


 ボコボコにしてやる! と叫びながら彼は俺の前へと進んだ。

 ――よし、成功だ。


「そうか。……では、他に参加するものはいるか」


 兵士たちがざわざわと騒ぎ、こちらへと近づいた。

 その音の大きさは、道場の床がビリビリと振動してしまうほどだ。

 数を正確に測るには数が多すぎるものの、大体8割ほどが参加するようだ。

 もちろんここで参加してくれた者たちはありがたいし、そこであえて参加しなかった2割の者も立派だ。

 参加した側は様々な困難を乗り越えるだけの勢いを隠し持っているということだし、参加しなかった側も感情にとらわれず冷静な判断をする力を持っているということになるからだ。

 ――さて。

 俺は兵士たちの戦意に満ちた目を見る。

 まずは、参加しない者たちを安全な場所に避難させたほうがよさそうだな。


「フラン」


 俺は後ろで立っていたフランに声をかけた。


「参加しない奴らを道場の外へと連れ出しておいてくれ」


 フランはなにも言わずうなずいた。

 そうして非参加者たちは、ぞろぞろと道場の外へと出ていった。

 混雑もなく、なんともスムーズな移動だ。

 彼らの効率よく移動する方法もまた、兵士全体に伝授したほうが良いだろう。

 万が一のことがあったときに、効率よく逃げることができればそれだけ生き延びる確率が上がるのだから。


「……それではお前たち」


 なにも言わず、じっとこちらを睨みつけている兵士たちに視線を返す。

 ギリ、という、武器を握りしめる音が、静かすぎるほどに静かな道場へと響き渡った。


「かかってこい」


 ――わっ。

 その瞬間、地響きのように兵士たちが走り出した。

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