22.得策な答えが出て、へりくつ野郎は旅立つ?
「ねえ椿くん……」
「何でございましょう?」
「さっきの子、綺麗な子だったよね? すごかったね! 素敵な感じだったし、さすが美少女って感じ?」
「さすが実乃梨さんじゃないですか! 目の付け所が違うねぇ」
「でさ、椿くんはどうなの?」
「――どう、とは? 一体どういうことでしょう?」
「殴るよ?」
「すまん、軽いジョークだ。どういう意味だ、それは?」
もはや俺のお茶目すぎる敬語は、一切通用しなくなったようだ。
天然菩薩様だった彼女が、闇のチート美少女に影響を受けて闇に引き込まれたか。
「じゃあ、放課後に廊下。それまで色んな所にけじめをつけて来てもらえると、私も迷いが無くなるんだけど?」
「ほう? 迷いか。人生は迷ってばかりが楽しい……と、どこかの誰かの迷言だな」
「……蹴り飛ばす!」
「ヤメロ、いや、やめてくれ。本気を示せ! そういうことで間違ってないことを、原稿用紙4枚程度にまとめればいいんだな?」
「まとめなくていいけど、椿くんが書きたいなら読むよ?」
「いえ、結構です。そんじゃ、放課後な!」
――と言いつつも、同じクラスなのだからわざわざ廊下で密談せんでも。
その場で一緒に会話をしたくない気持ちは、目から汗が出るくらい分かるので黙っておく。
廊下を歩く、ただそれだけなのにうるさい奴が声をかけて来た。
いや、その確率の方が高いのは何故なのか。
「あれ、しゅう? 何してんの? またおみ足ウォッチング?」
「うるさい奴め。そういうお前は……ボクっ娘としてレベル上げでもしに来たのか?」
「うるさいなぁ!! こう見てもボクは男子からも女子からも、需要があるんだぞ? 悔しいだろっ?」
「バランスの問題だな」
「ああいえばへりくつ。こういえばへりくつ。何でそんな変な子に育ったんだろうね」
「知らん。少し年上の妹に言われるまでも無いことだ」
「ねえねえ、ところで足を見てよ!」
「断る!」
なぜに妹のおみ足を観察せねばならんのだ。
時々、こうやってわざとお色気を出してくるのが、我が妹にして少しうざい年上の優雨の悪い所なわけだが。
「ケチ!! へりくつ野郎!!」
「お前の足を何故見ないがためにケチ認定されるんだ? というか、そこにへりくつは含まれてないんだが?」
「バーカバーカ!! ケチャップぶつけられて転んじまえ!! バカ兄き! ボクは新しい恋をみつけてやるんだからな。ふんっだ!」
どこからケチャップが出て来て、しかもぶつけられて転ぶ運命が待ち受けているというのか。
そうか、優雨が新たなる恋を探しに旅立つのだな。
優雨の言うとおり、ボクっ娘は需要があるからな。
この学校じゃなくても、どこか別の学校でヒットするかもしれん。
◇
「やぁ、秋くん。君の答えはもう出たと見受けたけど、そうならそれで運命を受け入れるよ」
「……ん? 楓子? 運命だと?」
「君が誰かを見定めたとしても、見捨てることはないのさ」
ううむ、分からん。
だがもう、想いをぶつけるしかなさそうだ。
俺は教室に戻って来たタイミングで、あの人に俺の想いをぶつけることにした。
『タメ口先輩! 俺の想いをぶつけるんで、ぶつかってくだせえ!』
『あぁ? 想いだぁ? けっ、あたしはへりくつで変態野郎に注ぐ予定はねえな。あたしはこれから忙しいんだ。栢森としても、ソイツにぶつけなきゃなんねえ。そういう青くさい想いなんざ、あたしじゃない奴にぶつけやがれ! 誰がてめえなんかと青春するかよ!』
『ほぅ? 嵐花さんも人間と恋をされるので?』
『蹴るぞこの野郎!!』
すでに蹴っておいて、そのセリフは無いだろう。
しかしそうか、タメ口先輩は誰かと恋愛とやらを試すつもりがあるようだ。
てっきり俺と何かを始めるつもりだと思っていたが、ただただ口の悪い先輩に終わるらしい。
「よく分かりませんが、上手く行くといいんじゃないですかねえ?」
「ちっ……、へりくつ野郎に言われるまでもねえ。ソイツは追放されても根性持ちだからな。あたしがソイツを救うって決めてるんだ。お前はとっとと、どこかへ行け!」
「同じ教室なんすけど?」
「うるせえな!」
願わくば俺にも、今ほんの少しだけ垣間見せた乙女のような照れくささを、出して欲しかった。
へりくつ野郎だって青春時代を過ごしたいものだ。
――で。
収まる所に収まるということになれればいいが。
しかしまぁ、一番近くそれでいて多分、チート美少女を除けばドキドキが止まらないのは確かである。
何故よりにもよって廊下なのか。
そこだけは腑に落ちん。
「――椿くん」
「おおわぉ!」
「驚き方が特殊すぎて引くよ?」
「背中からぞわぞわさせるような声をかける実乃梨さんも、どうかと思うが?」
「本題だから」
「じゃあ俺は副題だな」
「首絞めていい?」
「ごめんなさい」
マジのマジで恐ろしすぎる。
麻野実乃梨。同じクラスにいて、菩薩のように光り輝く褒め称え女子。
バストは……個人情報。その他はそれなりに完璧。
「で、椿くんは振られました」
「――誰に?」
「嵐花先輩に」
「あれは振られたわけではなく、理論上は……」
「そしたら、次は私の番なわけです」
「ホゥ? つまり実乃梨も俺を振ると。それが結論なわけだな?」
「ううん、振らない。振るって言ってないよ?」
これはどんなナゾナゾなんだ。
ひっかけ問題にしては、全然ひっかけてもいないが。
「つまり?」
「椿くんは、気になる人間がいたらどういう行動とへりくつを述べるのかな?」
「へりくつってのはその時々で、決して便利なもんでもないのだぞ?」
「嫌いじゃなくて、でも好きって伝えても無駄な場合は?」
「そりゃああれだ。くっついて離れずに行動してればいいに決まってるぞ! 合ってるかは分からん」
「そういうことなわけです。分からなくていいけど、それが得策?」
「得策だな! 俺はそれが正しいと思っているからな! 実乃梨もそうなら、それが答えと言っておこう!」
「うん、それでいいかな。今は」
「ならば俺もそれでいい。一緒に帰っても俺はいいぞ! それが得策だな? 実乃梨も」
「いいよ。椿くん、これからもよろしくね」
「望むところだ!」
お読みいただきありがとうございました。
長いこと書けなかった話でしたが、タメ口先輩とのラストにならないということで
最後はこんな感じでまとまった感じになりました。




