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ひねくれ師匠と偽りの恋人  作者: 紗雪ロカ
Thanks!-番外編
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カード勝負をもう一度

※ちょっとだけ未来の話?

「あなたってやっぱり、油断がならないわ」


 丸テーブルを囲んだ向かい側からそう言われ、オズワルドは何の話だとカードから視線を上げた。手持ちの札とにらめっこをしていたニチカは難しい顔をしながらこう続ける。


「弟子入りを賭けたカード勝負のこと。今唐突に思い出したの、あの時は気づかなかったけど、最初から勝負させるつもりなんか無かったでしょ」


 ああ……と、男は出会って間もない頃のことを思い出した。2枚のカードを提示し、スペードのエースを引き当てたら連れて行ってやるとか何とか。今となってはだいぶ遠いことのように思える。


「よくよく考えたら、あなたに何の利点も無いのにあんな勝負を持ち掛けて来ること自体がおかしかったのよ。なんでだか私が勝った後、納得がいってなさそうだったし。あれ、何か仕掛けてたでしょ」


 切る札を決めたのか、カードを引き抜いたニチカは「そう――」と、推測と共にそれを山札に叩きつけた。


「あの2枚、両方ともジョーカーだったとか」


 それに対して造作なく手札を引き抜いたオズワルドは、しれっとその場に出した。


「あれに関しては、最初にこちらの手札を確認しなかったお前の落ち度だ」

「やっぱり!」


 顔をしかめるニチカだったが、そこで不思議そうに首を傾げる。


「でも、だったらどうしてカードが変化したんだろう?」

「俺が思うに、あのはた迷惑なニセ神の仕業じゃないか。俺にお前を押し付けるために、何らかの干渉をしたとか」

「あー……ありそう」


 ニチカは自分がこの世界にくるきっかけになったイニの姿を思い浮かべる。問い詰めたところによると、彼はニチカがこちらの世界に来てからしばらくの間、空から監視していたようだ。フェイクラヴァーの罠を仕掛けたのもそうで、オズワルドの旅に同行させるため賭けに手を加えた可能性も否めない。


「なんにせよ、あの時は自分の目を疑ったな」


 ため息をつきながら言わるものだからムッとしてしまう。まるで自分が厄介物だったと言われたようで(実際その通りなのだが)ニチカはさらなる師匠の悪辣さを追求することにした。


「そうだ、もう一つ思い出した。私が最初にこの家に来た時に出してくれたお茶あるじゃない」


 思い返せば、あれも怪しさ爆発だった。あの(・・)オズワルドが招かれざる客にお茶なんて出すだろうか?


「あれ……確実に何か入ってたでしょ」


 自白剤的な。と続けられた言葉を師匠は否定しない。少しも悪びれることなく、次のカードを切った。


「当然だ、駆け引きの基礎は少しでも相手の情報を引き出すこと。あれだけで、見知らぬ男の家にホイホイ付いていって、出された飲み物を何の疑問もなく口にするド素人だということが分かったしな」

「うぅ~~!! あの時は藁にもすがりたい心境だったの!」


 頬を膨らませて反論するが、「上がりだ」と言われて愕然とする。あいかわらず強すぎる。今回はイカサマをしている様子も無いのに、カード勝負で勝てたためしがない。


「また負けたぁ~」


 だはぁ、と両手を投げ出して机に突っ伏す。それを見ていた師匠は、散らばったカードを集めながらこんなことを言った。


「まぁ、今さらとは言え気づいたのは、お前も成長した証だな」


 意外なお褒めの言葉にニチカは黙り込む。頬を染めながら少し自慢げに体を起こす。


「まぁね、あなたみたいな人と関わっていたら、嫌でも人生経験積まれるもの。そういう意味では感謝すべきかもね?」


 その表情を見ていたオズワルドは、集め終わったカードを広げると視線を落としながらこんなことを言う。


「また賭けでもするか?」

「え?」


 そしてその中から2枚を引き抜くと眼前に構えてみせた。それはあたかも『あの時』の再現のようで、


「このカードのうち、一枚はスペードのエース。一枚はジョーカーだ。ジョーカーを引いたらお前の負け、今夜は帰さない」


 ドキッとして喉奥が詰まる。それだけでも心臓が破れそうだったのに、ちなみに……と、呟いたオズワルドは向かって左側のカードを親指でわずかに上げてみせた。端から覗くアイスブルーの瞳が細められる。


「こっちがジョーカー」


 賭けの条件は同じ。ただあの時と違うのは、洞察力も関係性も大きく変わっているということ。


「あ……えっと」


 真っ赤になり固まっていたニチカは、口をギュッと引き結ぶと覚悟を決めたように手を伸ばした。おそるおそるカードに手を掛けようとしたところで、からかうような響きが飛んでくる。


「どうした、勝負の前に手札を確認しなくていいのか?」


 グッと動きを止めたニチカの目が見開かれる。

 乗るか反るか。思惑が読めても手玉に取られているのは変わらない。

 それに気づいた彼女は、少しだけ潤んだ瞳で男を睨みつけた。


「……いじわる」


 男の口元が弧を描く。

 静かな小屋には2人だけ。

 運命が、決まった。


 おわり

お久しぶりです。久しぶりにこの2人が見たいとの声にありがたく書かせて頂きました。

実際の手札がどうだったかはご想像にお任せします…ニチカが確認してもしなくても、引いても引かなくても楽しんでるんでしょう、いい性格してるよホント。

本編中の今さらすぎる回収ができて満足です。リクエストありがとうございました!

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